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論文

 今年1月にアメリカのコロラド州でマリファナ(大麻)の販売が合法になり、21歳以上であれば購入できるようになりました。
 また来月には西海岸のワシントン州でも同様に解禁される予定です。
 さらに西部のオレゴン州、カリフォルニア州や、東部のメーン州、マサチュセッツ州など8つの州では、少量であれば所持していても刑罰の対象にしないという状況になっていますし、20州近くでは医療用として解禁されています。
 日本人にとっては違和感のある動向ですが、アメリカでは調査会社ギャラップが45年前からマリファナの所持や使用を合法にすることについて賛否のアンケート調査を実施しており、その結果を見ると、1970年頃には解禁賛成が10%台で圧倒的に反対が多かったのですが、ベトナム戦争時代のヒッピーが象徴するカウンターカルチャーが台頭し、次第に賛成する人々が増加してきました。
 ついに2011年には逆転し、昨年の調査では賛成58%、反対39%と大差になりました。

 オバマ大統領は若い頃にマリファナを吸った経験があることを告白し、前回の大統領選挙ではマリファナの解禁を選挙公約に掲げ、今年1月の雑誌のインタビューでも「タバコと同種の悪癖であり、アルコール以上に有害だとは思わない」と発言し、コロラド州とワシントン州の解禁を容認しています。
 アメリカ合衆国の法律では依然としてマリファナの所持と使用は違法ですが、大統領の発言の影響もあり、連邦政府の司法省も、州政府がマリファナの流通を管理することを条件に黙認することになっています。
 ヨーロッパでも、オランダは1976年からマリファナなどソフトドラッグと分類されるものは容認、イギリスも個人が使用する程度の量については取締の対象外、スペインはマリファナの販売は規制していますが、使用は合法など、世界は緩和の方向にあります。

 しかし、これはマリファナの使用を勧めているわけではなく、より習慣性の強い覚醒剤やヘロインなどを摂取するのを防ぐとともに、非合法にすると流通に犯罪組織が関与することを排除することが大きな目的になっています。
 これはアメリカで1920年から1933年まで続いた禁酒法時代の苦い経験を反映したものです。
 1920年1月に国家禁酒法が試行され、新規の製造、販売、輸送は薬用酒も含めて禁止されます。しかし、カナダ、メキシコなど周辺国で製造された酒が不法に輸入され、ニューヨーク市内だけでも数万軒の違法な酒場が出現し、結局、地下組織が大儲けする事態となります。
 キャロライン駐日大使の祖父ジョセフ・ケネディは、この時代に密造酒の密輸で巨富を蓄えたとされています。
 その結果、多くの映画でご存知のように、エリオット・ネスが指揮する1520名の連邦禁酒法捜査官とアル・カポネを代表とするギャングの戦いとなります。
 そこで1932年の大統領選挙では禁酒法の是非が争点となり、禁酒法の改正を訴えたフランクリン・ルーズベルト大統領が当選し、1933年に廃案となりました。

 現在、オランダが容認しているのも、コロラド州が解禁に踏切ったのも、禁止することによって地下組織が非合法に流通させるよりは、管理された店を経由して流通させた方がいいし、税収も増えるという思惑があります。
 実際、コロラド州では解禁された1月だけで2億円の税収を得ています。
 ただし、だれもが賛成している訳ではなく、州知事は州のイメージを損なうと反対し、有権者の半分以上が州のイメージが悪くなったという意見です。
 さらに州内の数十の自治体は独自に禁止していますし、雇用主は被雇用者が使用することを制限することも可能になっています。

 しかし、麻薬というのは人類の歴史とは長い関わりがあります。
 例えば、現在では子供でも食べたり飲んだりしているコーヒーやチョコレートもかつては薬物で、エチオピア原産のコーヒーは中東で宗教儀式のときに限定して服用されていましたが、17世紀にヨーロッパへ伝播してきた時は反対運動が発生し、為政者が禁止する動きもありました。
 しかし、止めることはできず、作曲家のヨハン・セバスチャン・バッハや作家のオノレ・ド・バルザックなどコーヒー中毒になった有名人も数多く存在し、バッハは「コーヒー・カンタータ」で絶賛しています。
 チョコレートの原料となるカカオは14世紀から15世紀にかけて中米で栄えたアステカ文明で聖なる食べ物として宗教儀式に使用されていましたが、西欧社会に知れ渡ってお菓子として食べられるようになりました。
 しかし、最近『現代生物学』という雑誌にミシガン大学の研究者が発表した論文によると、チョコレートには薬物と同じような過食と依存症を引き起こすメカニズムがあるということです。

 ここ数年、世界各地の先住民族を訪ねてきましたが、それらの世界では様々な薬物が日常的に使用されています。
 南米大陸のケチュア族はコカの葉を口の中に入れて、いつも咬んでいますし、イエルバ・マテの葉を原料とするマテ茶も日本の緑茶のように日常的に飲まれています。
 フィリピンからミクロネシアにかけてはビンロウジュの赤い実と石灰を葉で包んで口の中で咬む習慣もあります。
 いずれも軽い興奮や酩酊の状態になります。

 我々日本では、新しい傾向をどう考えたら良いかということですが、日本は世界でももっとも厳しく薬物を規制している国で、いくつかの法律によって、マリファナも含めて数10種類の薬物を規制し、最高刑は無期懲役です。
 その効果で、マリファナの経験者がアメリカでは42%。フランスやイタリアでは32%、イギリスでは30%になりますが、日本はわずか1.2%です。
 これには江戸末期からの歴史があります。
 1840年から2年間、中国の清国とイギリスとの間でアヘン戦争が勃発しますが、イギリスは清との貿易赤字を解消するため、インドで栽培したアヘンを密輸出するという悪辣な手段をとります。
 戦争はイギリスの勝利になるとともに、清国の国民はアヘンによって蝕まれていくという時代になります。
 これを憂慮した明治政府は「阿片法」を制定して国内での栽培を取締るとともに、医療用に必要な最低限の薬物のみ輸入するという厳重な管理をしてきました。
 この精神が現在まで続き、マリファナを医療用に使用することも禁止しており、上記のような状態になっているのです。
 アメリカのように税収が増えるという程度のことで解禁はするべきではありませんし、気楽な気持で試してみるということも控えるべきでしょう。





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