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論文

 ソチ冬季オリンピックの喧噪も終わり、静かな日々に戻りました。
 テレビジョンや新聞では、成績不振の日本選手にも「平昌に期待できる」とか「ここまで努力してきた選手は素晴らしい」など、思いやりのありすぎる解説が多かったのですが、正直に発言してしまったのが2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック大会の組織委員長である森喜朗(元)総理でした。
 2月20日に福岡で講演されたとき「あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね」と、浅田真央のショートプログラムでの成績について発言され問題となりました。
 負けると分かっていた団体戦に浅田選手を無理に出場させた日本スケート連盟の方針を疑問とされたのが本意だと釈明しておられますが、失言と騒がれています。

 そのような失言に関連して、明日2月28日が「バカヤローの日」に制定されています。
 これは決して森(元)総理がバカヤローということではなく、61年前に遡る事件に関係する記念日です。
 昭和28年2月28日に開かれていた衆議院予算委員会で社会党右派の西村栄一議員が吉田茂総理に質問していたとき、吉田総理が質問に答えて自分の席に戻るとき、小声で「バカヤロー」とつぶやいた声をマイクロホンが拾ってしまい、西村議員が発言を取消せと騒ぎ、最終的には総理が取消して一件落着になりました。
 ところが、その後、紆余曲折があり、内閣不信任案が提出されて可決され、2週間後の3月14日に衆議院解散になってしまいました。
 世間では、これを「バカヤロー解散」と名付け、その原因となったバカヤロー発言のあった日を「バカヤローの日」としたという経緯です。

 一般社会でも失言や暴言は日常茶飯事ですが、政治家の場合は影響が大きいため、問題になることが多いようです。
 そこで今日は、様々な政治家の失言、暴言を分類しながら御紹介し、何が問題かを考えてみたいと思います。
 もっとも軽いものは、言い間違いや読み間違いの類いです。
 読み間違いで有名になったのは麻生太郎(現)財務大臣で、総理大臣であった2008年に、「未曾有(みぞう)」を「みぞうゆう」、「踏襲(とうしゅう)」を「ふしゅう」、「傷跡(きずあと)」を「しょうせき」と発言されるなど、多数の読み間違いがありました。
 外国にも例はあり、フランスの司法大臣の経験もある女性ラシダ・ダティは2010年のラジオのインタビュー番組で、インフレーションを意味するフランス語「アンフラシオン」というところを、オーラルセックスを意味する「フェラシオン」と間違えてしまって赤っ恥になりました。
 しかし、この程度は一般の人間にもあることで、実害もなく、それほど問題にすることではないかもしれません。

 次は政治家ゆえのリップサービスが失言になってしまう場合です。
 これも話題になったのは総理大臣時代の森喜朗さんで、「日本は天皇を中心とした神の国」と発言され問題になりました。
 ラフカディオ・ハーンも『神国日本』という有名な著書の中で同様のことを書いており、森発言の是非は分かれると思いますが、民主党が「日本は神の国?いいえ民の国です」という宣伝をして批判し騒ぎになってしまいました。
 この発言は「神道政治連盟国会議員懇談会」の結成30年記念祝賀会での挨拶であったので、サービス精神もあって言われたと思いますが、結果は支持率低下につながりました。
 麻生総理は2009年「80歳を過ぎて遊びを覚えても遅い。遊びを覚えるなら青年会議所の間くらい」。すなわち40歳以下だと発言されましたが、これは自身が会頭もされた青年会議所の会議での発言であり、リップサービスの典型でした。

 次は正直すぎる失言です。
 民主党の第一次菅内閣の柳田稔法務大臣は地元広島での国政報告会で、多少省いて紹介しますと「皆さんは何で柳田が法相と理解に苦しんでいると思うが、一番理解できなかったのは私です。法務大臣は2つ覚えておけば良い。個別の事案についてはお答えを控えておきます。もう一つは法と証拠に基づいて適切にやっております。この2つです」
 結局、1週間後に辞任となりました。
 同じく野田内閣の一川保夫(やすお)防衛大臣は就任直前に記者の質問に対して「私は安全保障の素人だが、これが本当のシビリアン・コントロール」と返答され、さらに国賓として来日されたブータン国王をお招きした宮中晩餐会に欠席して民主党の参議院議員の政治資金パーティに出席したことを記者に質問され「この政治資金パーティのほうが大事だと思って来た」と発言されました。
 いずれも正直な本音で人柄を偲ばせますが、次の選挙では落選となりました。

 しかし、正直というか人を馬鹿にした発言で平気な政治家も居られますから人の気持は分かりません。
 小泉総理大臣は参議院本会議で年金問題を追求されたとき「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろ、支払ってくれたのは、会社など来なくていいという良い社長さんでした」と答え、衆議院予算委員会では「約束を守らないことはたいしたことではない」と答えていますが、内閣総辞職には至りませんでした。
 イタリアのベルルスコーニ(元)首相の「オバマは若くハンサムで日焼けまでしています」をはじめとする数々の放言に比べれば可愛いものかも知れません。

 しかし、もっとも困った発言は信念を持って発言された内容が社会を混乱させたり国益を損なう場合です。
 鳩山由紀夫(元)総理は民主党幹事長だった時代にニコニコ動画で「日本列島は日本人だけのものではない」と発言し、昨年6月には北京でのフォーラムで「カイロ宣言は「盗んだものは返さなければならない」としており、中国が返還されるべき領土に尖閣諸島が入ると考えるのは当然」と発言しておられます。
 参考のために、カイロ宣言は条約ではなく、法的効果を持ちえないというのが日本政府の公式見解です。

 誤った発言が本当に社会騒動を引き起こした事例を最後に紹介させていただきます。
 昭和2年に第一次若槻内閣の片岡直温(なおはる)大蔵大臣が議会で「本日昼頃、東京渡辺銀行が破綻しました」と発言されました。
 確かに東京渡辺銀行は午前中は資金不足で支払業務を停止していたのですが、片岡大臣が発言された時刻には平常の業務に戻っていました。
 しかし、この間違った発言のために取り付け騒ぎが発生し、東京渡辺銀行だけではなく33の銀行が倒産や休業する大騒動になりました。

 個人の失言や暴言も個人的には困る事態になることもありますが、政治家の発言は影響力が違いますので、注意していただく必要がありますが、国民も日頃の発言から政治家の資質を見極めて選ぶことも重要だと思います。





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