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論文

 東京都知事選挙も細川護煕(もりひろ)元総理が立候補を表明し、それを小泉純一郎元総理が応援するということになり、原子力発電の是非が話題になりそうです。
 原子力発電が地方選挙の争点になるかどうかは議論がありますが、少なくとも細川陣営が原子力発電廃止を主張すれば、対立候補も対応せざるをえなくなると思います。
 問題は原子力発電推進派が主張するように、2011年以前は日本の電力の25%を供給していた原子力発電をゼロにすれば、それをどのようにして代替するかという問題の解決策を探さなければならなくなることです。
 当面は火力発電ですが、これは発電価格が原子力の2倍以上であるうえに、資源のほぼ全量を輸入に依存しますから、貿易収支を悪化させ、ひいては電力価格の値上げになるという結果になります。

 そこで期待は再生可能エネルギーとか自然エネルギーと言われる国産の資源の利用になりますが、これも簡単に原子力発電の穴埋めをすることはできません。
 世界各国について、電力発電のうち再生可能エネルギーが占める比率を調べてみると、日本の事情が分かります。
 世界全体では19%程度ですが、比率の高い国はノルウェイの100%、ブラジルの83%、カナダの60%、スイスの58%、スウェーデンの55%などです。
 ブラジルがサトウキビから作るバイオエタノールで5%程度を発電している以外、ほとんどが水力を利用して発電しているからです。
 日本は10%ですが、9%は水力発電で、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが1%程度です。

 世界各国の将来計画と比較しても日本は出遅れています。
 2030年の自然エネルギーによる発電の比率は、EU全体で45%、アメリカが40%、中国が25%などを目標にしています。
 しかし、日本は2011年の事故が発生する以前の計画では、2010年に9%であった自然エネルギーの比率を2020年に13%、2030年に19%にするのですが、原子力は10年の29%から20年に42%、30年に49%へ増大させるというシナリオでした。

 ところが2011年の事故によって民間研究機関から原子力を利用しない電力供給の提案が発表されるようになりました。
 2030年に原子力発電をゼロにする構想では、節約によって10%需要を減らし、再生可能エネルギーを30%にするという構想です。
 節約を10%というのは、2011年の夏の電力不足を乗切るために、東京電力管内では15%の節電を目標としましたが、実際は18%も節電できた経験がありますから不可能ではありません。
 しかし、現在9%程度である再生可能エネルギーを今後15年程度で3倍に増やすのは大変な努力が必要です。

 そこで最近、これまで主力であった太陽光発電や風力発電以外に、様々な再生可能エネルギーを利用しようという動向が検討されはじめました。
 まず期待されているのは発電能力が1万kw以下の小水力発電といわれる施設です。
 電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルは明治31(1898)年に日本を訪問したとき「日本は川が多く、この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう」と述べていますが、その豊富な水力はこれまでダムで堰止めて数十万kwという大型の発電所で電気を作る方法で利用してきました。
 しかし、まだ利用されていない河川の水力は、資源エネルギー庁の調査によると1200万kw以上になりますから、原子力発電所15基分くらいにはなります。
 これを従来のように数十万kwの発電所を作って利用するのではなく、農業用水路に簡単な発電機を設置するなどの簡単な施設で数千kwから数万kwの発電をして利用しようという構想です。

 実際、このような小水力発電所で電力の50%以上自給している自治体は67にもなりますし、そのうち北海道のニセコ町や愛別町、長野県の大鹿村や小海町など30以上の町村は100%自給しています。
 この技術の利点は第一に二酸化炭素の排出が少ないことで、単位発電電力あたり石炭火力の排出量を100とすると、水力は1でしかありません。
 また太陽光発電や風力発電は気象条件によって発電できない時間が多く、太陽光発電では平均稼働率12%、風力発電では20%程度ですが、小水力発電では70%になりますから、設備の利用効率が良いという特徴もあります。
 さらに重要な特徴は地産地消ということです。
 例えば、現在は運転を中止している女川原子力発電所は3基の発電機で年間1万3000gwhの電力を発電していましたが、その発電所が存在する宮城県の電力消費は年間5200gwh程度ですから、1カ所で県内どころか東北各地に広範に送電するという仕組でした。
 したがって送電での損失も発生しますし、1カ所の事故が広範な地域に問題を発生させるということにもなります。

 この電力の地産地消という視点からは、新しい技術が開発されています。
 これまでの技術では工場などで発生する300℃以下の廃熱は利用できないとして捨てられていました。
 ところが、そのような低温でも効率よく熱を電気に変換する熱電変換素子が開発され、80℃程度の廃熱でも発電できるようになりました。
 これまでゴミ処理施設で発生する熱の70%は捨てられていましたが、それらを電気にすることが可能になり、その工場や施設で使用すれば良いという結果になります。

 ただし、すべてが良いという訳ではなく、重要な欠陥は発電価格が高いということです。
 小水力発電はkwhあたり平均15円程度で、太陽光発電の45円よりは安いものの、風力発電の12円よりは高いのですが、原子力発電の6円とかLNG火力発電の7円の2倍程度にはなります。
 したがって、量的にも簡単には原子力発電を代替することは出来ませんし、ドイツが経験したように家庭が負担する電力価格が2倍近くになることも覚悟しなければいけませんが、それを承知であれば、次第に再生可能エネルギーを社会に導入していくことは妥当ですし、無駄な電力を使用しない動機にもなると思います。





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