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論文

 今年はどういう年かということを、国際年から探ってみたいと思います。
 国際連合は1957年の「国際地球観測年」以来、毎年、国際年(インターナショナル・イアー)という枠組を設定しています。
 地球規模の問題に世界全体で取組む目的ですが、今年は「国際家族農業年」「国際結晶学年」「国際小島嶼開発途上国年」が国際年に決定しています。
 「国際家族農業年」は、世界には大規模に穀物を栽培して世界に販売する農業ではなく、家族単位で農業をしている農家が約5億世帯あり、そこで生産される農産物が数十億人を養っていますし、開発途上国では農業の80%が家族農業に依存しているという現状です。
 そのような農家の大半は貧困状態にある一方、森林の伐採などによる環境問題にも影響を及ぼしているので、これから食料事情がますます悪化していく事態を想定すると、この家族農業を世界規模で支援していくことが重要だという目的をもって設定されました。

 「国際結晶学年」は先端科学分野の課題を扱います。
 1912年前後に、ドイツの物理学者マックス・フォン・ラウエが、ヴィルヘルム・レントゲンが発見したばかりのX線を硫化亜鉛の結晶に当てたところ、美しい模様が投影されるという発見をしました。
 それはX線が結晶を通過するときに回折される結果ですが、これが近代結晶学の発端となり、1914年にノーベル物理学賞を受賞しました。
 さらに翌年には、その研究を発展させたヘンリー・ブラッグとローレンス・ブラッグ親子もノーベル物理学賞を受賞しており、それらの100周年を契機として、現代の科学に無くてはならない結晶学を見直そうという趣旨です。
 実は東京帝国大学教授であった寺田寅彦がブラッグ親子と同じ時期にX線回折実験を行い、1913年にイギリスの有名な科学雑誌『ネイチャー』に「X線と結晶」という論文を送っており、日本にとっても結晶学100周年記念にあたる年です。
 結晶と聞くとダイヤモンドなどの宝石を連想しますが、宝石はそれほど重要なことではなく、現代の医薬品や工業素材などの発展が結晶学に大きく依存しているために重要な科学の基礎なのです。

 3番目の「国際小島嶼開発途上国年」は、太平洋、インド洋、西インド諸島などにある、それほど高さもない小さな島々が集まって出来ている国のことで、国際連合では52の国と地域を認定しています。
 日本で比較的知られている名前には、シンガポール、バーレーン、トンガ、フィジー、ミクロネシア、キューバ、ジャマイカ、セーシェルなどがある一方、バヌアツ、アンティグア・バブーダ、セントビンセント、スリナム、カーボベルデ、サントメ・プリンシペなど、初めて名前を聞かれたり、何処にあるかもあまりご存知ない国々も数多くあります。
 数からすれば世界の国や地域の4分の1、約25%ですが、面積は0.1%、人口は1.4%、経済規模は0.8%というわずかな比率でしかありません。
 もっとも小さい国は南太平洋にあるナウル共和国で、面積は21平方kmで山手線の内側の面積の3分の1、人口は9300人、経済規模は60億円ですから、中規模の企業という程度です。

 なぜこのような島国を国際連合が取り上げる理由はいくつかあります。
 まず地球温暖化の影響が最初に及ぶ国々という理由があります。
 一時、ツバルが有名になりましたが、珊瑚礁の島で最高地点の高さでも5mしかないので、温暖化によって海面が上昇すると、生活している場所が水浸しになってしまう状態です。
 また多くの島嶼国は赤道に近い低緯度に存在するので、温暖化によって台風の規模が拡大していくと甚大な被害を受けることにもなります。
 実際、カリブ海にあるハイチは毎年のように台風が襲来し、2010年の大地震の被害も重なって、現在でも数十万人がテント生活をしている状態です。
 また大半の島嶼国は日用品はもちろん食料も多くを輸入に依存していますが、遠距離を輸送してくるため値段が高く、そもそも個人も国家も収入がわずかなために、大きな負担になっています。

 しかし、マイナスだけではなく将来性もあります。
 太平洋の赤道付近にあるミクロネシア連邦には607の小島が存在しますが、すべてを合計しても伊豆大島の面積と同じですから、陸地面積はたいしたことはありません。
 また農地もわずかですし、工業に値するのはわずかなパームオイルの生産だけですから、大半の物資も輸入に依存し、経済の大半は外国からの援助に依存しています。
 しかし、東西3000kmに島々が展開しているため、排他的経済水域は300万平方kmにもなり、日本の排他的経済水域の3分の2に相当します。
 世界のマグロの漁獲制限が問題になっているように、ますます水産資源が重要になっていく時代には、大変な資源です。
 そのような潜在的資源を生かせるように支援していくことも国際年の目的です。

 日本は開発途上国ではありませんが、世界有数の小島嶼国です。
 地理学の世界標準ではオーストラリア大陸以下の面積の陸地は島と定義されていますので、日本は本州も島ですが、沖縄島も含めた5島は別格として、6847の島があり、そのおかげで447万平方km、世界で6番目の排他的経済水域を確保しており、漁業資源だけではなく鉱物資源の潜在的宝庫にもなっています。
 ところが、そのうち住民が定住している有人島は418しかなく、94%は無人島になっています。
 最近、そのような無人島を売買する商売が登場し、インターネットで物件が紹介されています。
 懸念されるのは、ニセコや富良野などのスキーリゾートなどと同様、外国人が関心を示していることです。
 中国では「尖閣諸島への報復のため日本の島を買おう」と呼掛けているサイトもあるそうです。
 日本には大正時代の1925年に制定された外国人土地法が存在しますが、具体的に運用する政令がないために、これまで適用されたことがないのが実際です。
 新年からお目出度くない話ですが、国際小島嶼開発途上国年を契機に、島国日本のあり方を考えるべきだと思います。





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