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論文

 丁度1週間前、東京工業大学に設置されている「TSUBAME−KFC」というスーパーコンピュータが「グリーン500」という評価で世界一位になったという発表がありました。
 なぜ、この順位が重要かというと、スーパーコンピュータは運転するのに大量の電力を必要とするからです。
 例えば、現在、世界で4番目に高速の日本のスーパーコンピュータ「京」の消費電力は最高で20MW、通常は12MW程度ですが、これは一般家庭の3万世帯分、山形県米沢市の全家庭の電力消費に匹敵します。
 また盗聴問題で話題のアメリカの国家安全保障局(NSA)が今年、ユタ州に新しいデータセンターを作りましたが、そこにある膨大な数のスーパーコンピュータを維持するための消費電力は65MWとされていますから、16万世帯分、富山市の電力消費に相当します。
 したがって、少量の電力で高速の計算が出来ることはスーパーコンピュータにとって重要な能力になるのです。
 そこで1ワットの電力で浮動小数点の演算が何回できるかというエネルギー効率によってスーパーコンピュータの性能を比較しようというわけで、世界の上位500のスーパーコンピュータを対象に「ザ・グリーン500」という民間団体が半年ごとに評価し発表しています。

 先週発表された結果では、1位が東京工業大学の「TSUBAME−KFC」、2位がケンブリッジ大学の「ウィルクス」、3位が筑波大学の計算科学センターにある「HA−PACS TCA」というコンピュータで、日本は善戦しています。
 評価は2007年から行われていますが、当時1位のスーパーンピュータは1ワットで3億5700万回の計算が出来る程度でしたが、今回の1位は45億回の計算が可能で、この6年間で14倍近くエネルギー効率が向上したことになります。
 このような比較を世界的に公表する理由は、実は情報技術はエネルギー消費技術で、世の中に情報端末が急速に普及し、その利用も増加していくと、電力消費も急速に増大することが深刻な社会問題になると予測されているからです。

 世界全体の実態を「グローバルeサステナビリティ・イニシャティブ」という組織が昨年発表した報告書があります。
 それによると情報技術を使用することによって発生する二酸化炭素は2011年には年間9億1000万トンで、世界全体の二酸化炭素排出量の2・7%に相当する量でした。
 さらに10年後の2020年には1・4倍の12億7000万トンになると予測されていますが、これは世界全体の排出量の3・7%に相当します。

 日本については、今年2月にNTTデータ経営研究所が発表した報告書がありますが、これによると2010年には年間764億kwhであった情報技術関連の電力消費が15年後の2025年には1500億kwhになると予測されています。
 これは2010年には全発電量の7・3%ですが、2025年には13・3%にもなります。
 その背景にあるのが通信量の急増で、2011年に比較して2025年には約30倍になりますし、携帯電話などの移動通信だけでは400倍にも増加します。
 もう一つ増加しているのが、データを保管しておくストレージの電力消費で、日本の場合、2010年には年間18億kwhでしたが、2025年には148億kwhと8・2倍になると推定されています。

 しかし、世界を眺めると、さらに大変で、世界で最大のストレージを維持している民間企業はグーグルですが、2011年に同社が発表した消費電力は常時260MWということですから、京都市の全家庭で使用している電力に匹敵します。
 当然、グーグルをはじめ多数の大型コンピュータを使用したり、大量のサーバーやストレージを使用する企業は電力消費を減らすことに努力します。

 第一の方法は技術革新です。
 前述のNTTデータ経営研究所の報告書によれば、2025年にはサーバーやストレージ1台あたりの消費電力は2010年に比べて30%減少すると予測しています。
 しかし、数量は爆発的に増えていきますから、さらなる対策が必要ですが、その代表が寒冷地にデータセンターを建設することです。
 データセンターではストレージを維持するために膨大な電力を消費しますが、それらの電気は最後は熱に変わるので冷却が必要になります。
 それならば寒冷地に作れば良いと言う発想です。
 実際、グーグルはフィンランドの首都ヘルシンキから160km東にあるハミナという都市の海岸あった古い製紙工場を300億円かけて改造したデータセンターを建設しました。
 北緯60・5度、日本付近で言えばカムチャッカ半島の付根に相当する緯度ですから夏でも20℃を超えることがありませんし、センターの目の前の海から0℃に近い海水を汲み上げて冷房しています。

 フェースブックもスウェーデンの北緯66度にあるルレアに来年の完成を目指して800億円をかけたデータセンターを建設し、一年のうち大半は外気でストレージを冷却し、その熱で居室の暖房をまかなうという計画です。
 また北緯65度にあるアイスランドには、昨年、電話会社のデータセンターが完成し、外気を取り入れるだけで冷却できる仕組を採用しています。
 そして電力自体も地熱と水力で発電するという100%自然エネルギーで稼動する施設です。
 どのような技術にもマイナスの側面がありますが、情報社会も冷却という意外に気付かない問題に直面し、意外な場所に恩恵が巡っているのです。





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