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論文

 今日は「世界糖尿病デー」で、世界の80カ国以上の1000カ所以上で有名な建物が糖尿病撲滅のシンボルカラー青色にライトアップされます。
 日本では、千葉ポートタワー、横浜マリンタワー、松本城、高知城など約90カ所でライトアップが実施され、インターネットで中継されます。
 今日が選ばれた理由は糖尿病の治療に使われるインスリンを発見し、1923年にノーベル生理学医学賞を受賞したカナダの医者フレデリック・バンティングの誕生日が11月14日だからです。
 これは国際連合が2006年12月20日の総会で採択したものですが、国際連合が病気についての世界デーを設けているのは、他に12月1日の「世界エイズデー」だけですから、いかに重要な意味があるかが分かります。
 その重要な意味とは、ガン、心疾患、脳卒中、精神疾患と並んで、五大疾病の一つとされほど、糖尿病にかかる人が多いからです。

 世界保健機関(WHO)によると、2006年には世界の糖尿病患者は1億7100万人でしたが、2012年には3億7100万人で、6年間で2・2倍に増え、成人人口の8・3%にもなっています。
 一番多いのは中国の1億1390万人で、成人人口の11・6%ですが、糖尿病予備軍は4億9340万人で、成人の50・1%にもなっています。
 2位がインドの6300万人、3位がアメリカの2400万人で、日本は9位で710万人ですが、予備軍も含めると2210万人になります。
 問題は今後も増え続けると推定されていることで、2030年には世界で5億5200万人で、成人人口のほぼ10%になり、中国は1億3000万人、インドが1億人、アメリカが3000万人になり、日本も1000万人を突破することになります。

 なぜ増加するかという理由ですが、それは糖尿病が生活習慣病といわれることに関係があります。
 糖尿病になる主要な原因は4つあり、肥満、ストレス、運動不足、加齢とされています。
 これらは基本的に豊かな先進諸国の生活環境で発生しやすい原因です。
 都市のような高密社会で生活するとストレスが溜まりやすいし、コンビニエンスストアなどのおかげで24時間食べ物が手に入る食料事情のために肥満が増え、自動車や公共交通機関が普及して運動不足になり、医療水準が高いので長生きするというように、文明の発展とともに糖尿病の原因も増加していくということになる訳です。

 これについては興味深い学説があります。
 人類の600万年近い歴史のうち、農業を手中にするほんの1万年前までは十分な食料が得られない飢餓との戦いの時代でした。
 そこで乏しい食料を効率よく利用し、残りを体内に蓄えておく仕組が必要となり、そのためエネルギーを脂肪に変換して皮下脂肪などにして蓄えるようになったのです。
 ところが農業革命や産業革命によって食料が十分に行き渡る時代が到来すると、この脂肪を蓄える仕組が逆効果になり肥満が増えるというわけです。
 糖尿病は文明の進歩が創り出した生活習慣病ということになります。
 それは野生動物には肥満が存在しないことからもわかります。

 中国やインドに糖尿病患者が多いのは成人人口が多いから比例して糖尿病患者が多いという関係もありますが、例えば中国の患者比率が世界平均の8・3%よりも高い11・6%になっているのは、急速な経済発展のために一部の国民が豊かになってきたことを反映していると推測されています。
 したがって、古い時代でも贅沢な生活をしていた上流階級には糖尿病を患う人が存在し、中国の唐の時代に玄宗皇帝に反抗して安史の乱を起こした安禄山は肥満体で有名であり、反乱の最中に失明していますが、原因は糖尿病とされています。
 平安時代の公卿藤原実資(さねすけ)の残した日記『小右記(おうき)』に記された藤原道長の健康状態は糖尿病を窺わせる内容です。
 フランスの小説家オノレ・ド・バルザックは大食で有名でしたが、結果として糖尿病になり、晩年に失明しています。

 国際連合が「世界糖尿病デー」を設けるほど憂慮されるのは、どの病気も同じですが、成人の多数が病気になると、医療費などの社会負担が増えるとともに、本来、生産に従事するはずの労働力が減るために、国として損失となるからという背景があります。
 一例としてアメリカの厚生省疾病管理予防センターの推計では、糖尿病の医療費を含む直接的な損失が年間約10兆円、労働力の減少などによる間接的な損失が4兆円の合計14兆円になっています。
 これは国民総所得の1%に相当しますから無視できない金額です。
 当然、個人にとっても損失になり、2009年のアメリカでの推計ですが、50歳で糖尿病になったとすると、医療費などの直接損失と失業などの間接損失を合計して1700万円になりますから、これも大変な額です。

 糖尿病にならないためには、医師ではないので正確なことは申し上げられませんが、いくつかの疫学調査結果を紹介しておきたいと思います。
 厚生労働者の研究班が1700人を対象にした調査の結果を今年2月に発表していますが、それによると、早足で1日平均70分歩く人と運動をしない人を比較すると、運動をしない人の糖尿病による死亡リスクは、運動をする人の2・1倍になっています。
 また体重を身長の二乗で割算したBMI(ボディマス指数)という数字が、肥満とされる25以上の人は、25以下の人よりも死亡リスクが2倍近くになるという調査もあります。
 いずれにしても、糖尿病の原因とされる4つの要因を意識して避けることが重要だということになります。





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