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論文

 84年前の今日はニューヨーク証券取引所で株価が大暴落した「暗黒の木曜日」が勃発した日で、奇しくも今年は曜日までピッタリです。
 有名な事件なので、簡単に説明しますが、1929年10月24日木曜日の10時25分にゼネラルモーターズの株価が一気に80セント下落し、その影響で次々と株が売られ、1日で1289万株が売られ株価が大暴落しました。
 シカゴなどの市場にも影響し、この日に自殺した投機家だけでも11人になるという衝撃的事件でした。
 銀行や大手株仲買人が買い支えをしますが収まらず、翌週29日の火曜日に「悲劇の火曜日」といわれる大暴落が再発し、世界全体に波及する大恐慌に拡大していったという事件です。

 有名なエピソードですが、今回、駐日大使に任命されたキャロライン・ケネディさんの祖父ジョセフ・ケネディはウォール街で有名な靴磨きの少年に靴を磨いてもらっているときに、株への投資を薦められたため、このような子供までが株の投資に関心があるようでは暴落も近いと判断し、暴落前に手持ちの株を売って難を逃れたということです。

 このような相場の暴落の最初は17世紀にオランダで発生したチューリップバブル事件と言われています。
 16世紀の新大陸発見時代には、世界各地から珍しい植物がヨーロッパにもたらされ園芸ブームが発生しますが、その時機にチューリップが原産地のオスマントルコ帝国からオランダに持込まれました。
 オランダが世界最大のチューリップ産地になったのは、これが契機ですが、園芸家が品種改良に取組み、珍しい花の咲くチューリップを次々と開発し、その球根が高値で取引されるようになります。
 そのなかでも「センペル・アウグストゥス」という赤と白のまだら模様の花が咲くチューリップは最高値になり、1623年には球根1個の値段が一般の人々の年収を超え、10年後には年収の6倍になりました。

 現在の感覚では球根1個が2000万円程度ですが、それでも収まらず、やがて年収の13倍になり、アムステルダムの運河沿いの豪邸一軒が買えるほどになりました。
 現在価格で6000万円から7000万円というところです。
 冷静になれば異常だと気が付くはずですが、日本のバブル経済のときと同様に渦中にいると気が付かず、ついに1637年暴落し、多数の人が自殺するという事態で幕引きとなりました。
 しかし、人間は強欲な生物で、このような投機の破綻は歴史を振返れば何度も発生しており、最近のサブプライムローン事件やリーマンショックまで引き継がれています。

 これは投棄した人が損をするだけならまだしも、一部の人間の欲望に巻き込まれて世界中が迷惑をしますので、何とかしたいという構想は数多く登場しています。
 そもそも通貨は物やサービスという実体と交換するために発明された手段ですが、それが変質して、株式投機や穀物投機など実体である物やサービスに関係なく通貨が通貨を生むという仕組にバブル経済の原因があるので、これを阻止すればいいということです。

 そこで登場したのが地域通貨です。
 これは特定の地域内部でしか通用しないという特徴もありますが、重要な特徴は時間とともに価値が減っていくということです。
 表現を変えれば、普通の仕組では通貨を銀行などに預けていくとプラスの利子が付きますが、時間とともにマイナスの利子が付くという仕組です。
 そうすれば手持ちの通貨は早く使うほど価値が高いので、持った人は価値が下がる前に物やサービスを購入するので、実体経済が盛んになるというわけです。
 有名な例ですが、1929年にアメリカから出発した世界恐慌の影響で、不況に陥ったオーストリアのヴェルグルという町で、1933年に役場の職員の給料を「労働証明書」という名前の地域通貨で支払いました。
 これは毎月1%ずつ価値が低下していく通貨です。
 当然、職員はすぐ使いますので、次々と流通し町の経済は復活し、失業率も劇的に低下したという成果を収めました。

 最近、イスラム金融が注目されているのも同様の理由です。
 イスラム金融ではコーランの教えによって利子を取って金銭を貸すことを禁止していますので、無利子で貸出をおこなっており、地域通貨と同様の効果を挙げています。

 もう一つ注目されているのが「トービン税」です。
 1981年にノーベル経済学賞を受賞したエール大学のジェームズ・トービン教授(故人)が1972年に提唱した理論で、国際通貨取引において投棄目的の短期取引を抑制するため、取引ごとに低利の課税をしようという制度です。
 道路に凹凸をつけて速度を抑制することに例えられますが、最近のようにコンピュータが1秒に何百回と売り買いするような取引に導入されれば、税収も増えて、バブル経済を抑制することに効果がありますが、大きな問題はすべての国が採用しないと、採用しない国が抜け穴になって効果を発揮しないということです。
 リーマンショックの翌年の2009年に開催されたG20財務大臣中央銀行総裁会議でイギリスのブラウン首相がトービン税の導入を示唆するような発言をしてマスメディアが話題としましたが、アメリカのガイトナー財務長官が否定的な発言をして実現の方向に動くことはありませんでした。
 個人の信念で投機に関与しないという人は多数おられますが、リーマンショックが象徴するように、一部の人々の強欲が世界中の人々に不幸をもたらす仮想経済を抑制する仕組を作り上げなければ、歴史は何度でも繰返すことになります。





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