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論文

 夏休みも近付き、今年は南の島に行かれる方も多いと思います。
 そこで出会うのが珊瑚礁のある美しい海ですが、現在、その珊瑚礁が世界規模で危機に直面しています。
 そのような背景から、先週末の29日と30日に沖縄で珊瑚礁を守るための国際会議が開かれました。
 日本が呼掛けて開催された国際会議ですが、世界最大の珊瑚礁グレートバリアリーフを抱えるオーストラリア、珊瑚礁のある島を数多くもつインドネシアなど大国だけではなく、インド洋にあるモルディブ、西大西洋にあるパラオ、南太平洋にあるフィジーなど小国も参加し、さらに珊瑚礁のないオランダやデンマークの学者も参加する大規模な国際会議でした。

 珊瑚礁が危機であるという認識は最近のことではなく、1992年にリオデジャネイロで地球サミットが開かれたときに話題になり、2年後に「国際珊瑚礁イニシアティブ」が発足し、1997年と2008年を「国際珊瑚礁年」として、一人でも多くの人が珊瑚礁に関心を持ち、珊瑚礁の重要性と危機的状況を知ってもらうこと、珊瑚礁の保護と改善のために民間、公共を問わず行動をおこすことを目指して活動しています。

 なぜ珊瑚礁が重要かを御紹介する前に、そもそもサンゴとはどのような生物かをご説明したいと思います。
 珊瑚はクラゲ、イソギンチャクなどと同じ仲間の「サンゴ虫」といわれる動物のうち、硬い骨格を発達させる種類ですが、多くの方がご存知の種類は宝石として使われる「アカサンゴ」「シロサンゴ」「モモイロサンゴ」などと、もう一つが今日の話題の珊瑚礁を形成する「造礁サンゴ」といわれる種類です。
 この造礁サンゴには800種類ほどが存在し、本体はイソギンチャクのような柔らかい体ですが、海中のカルシウムを吸収して石灰にして骨格を造り、これが大規模に集まって珊瑚礁になるという仕組です。

 珊瑚礁が存在する海の面積は60万平方キロメートル、日本の面積の1・6倍程度で、地球の海の面積の0.2%でしかないのですが、そこには海の魚の種類の4分の1に相当する4000種が棲息し、それ以外の動物や海草などの植物も含めると9万3000種類の生物が棲息しているという点で重要な海と考えられています。
 よく大陸棚が魚などの生物が豊富だといわれますが、1平方メートルあたり何グラムの生物が存在しているかを計算すると、大陸棚は10グラムであるのに、珊瑚礁は2000グラムも存在し、もっとも豊かな海なのです。
 したがって1平方キロメートルの珊瑚礁は1000人以上の人々を養うことのできる食料を生産しており、世界の80以上の国々の14億人が珊瑚礁の生物を食料にしています。
 日本の珊瑚礁については環境省が年間の経済価値を計算していますが、海産物が107億円、海岸を荒波から守る役割が840億円、観光の価値が2400億円になっていますから、経済的にも無視できない規模です。

 その珊瑚礁にどのような危機が迫っているかというと、面積が急速に減少していることです。
 例えば、オーストラリア大陸の北東部分の海域を覆うグレートバリアリーフは日本の面積とほぼ同じ世界最大の珊瑚礁で、世界全体の珊瑚礁の半分の面積を占めていますが、1990年からサンゴの成長が14%も低下し、この傾向が続けば2050年には成長が止まってしまうと心配されています。
 その影響もあり、世界の珊瑚礁は20%が消滅し、20年から40年後にはさらに20%が減少すると推測されています。

 原因は天敵のオニヒトデによって食べられてしまうこと、陸上の開発によって赤土が海に流れ込むこと、青酸カリやダイナマイトを使う漁業の影響などもありますが、最大の原因は地球温暖化の影響で海水の温度が上昇していることです。
 海水温度が30度を超えるとサンゴと共生してサンゴに栄養を供給している褐虫藻(かっちゅうそう)という植物が抜け出してしまい、サンゴが死んでしまうのです。
 さらに空気中の二酸化炭素が増加すると海水に溶け込んで海水を酸性にしますが、これによって珊瑚礁となる骨格が形成されにくくなるというダブルパンチに見舞われます。
 サンゴは二酸化炭素を炭酸カルシウムという形で固定して海中に貯蔵する役割がありますので、急速に減少していくと地球温暖化が進み、結果としてサンゴの形成が妨げられるという悪循環に陥ってしまいます。

 そこで最近では人工的にサンゴを育成しようという活動が始まっています。
 いくつかの方法がありますが、多いのは許可を得て天然のサンゴを採集し、その一部を切り取って海中に固定するネジに接着剤で接着します。
 そうすると一体の親サンゴから多数の子サンゴができますので、それをしばらく育成してから、海中の岩場などに植付け、オニヒトデや魚に襲われないように保護する網をかけておくという面倒なことをします。

 これは日本にとって重要な意味のある技術なのです。
 東京から1740km南に沖ノ鳥島という珊瑚礁があります。
 面積7・9平方メートルの北小島と1・6平方メートルの東小島だけが海面から頭を出している珊瑚礁ですが、このおかげで日本は43万平方キロメートルの排他的経済水域を確保しています。
 これが波浪などで崩壊しないように、1988年から周辺に工事をして保護していますし、現在は750億円の予算を投入して港湾施設や岸壁を建設しています。
 しかし、小島そのものに手を加えて大きくすると島として認められませんので、小島の周囲にサンゴを人工育成する工事をし、人工的な珊瑚礁を育て、これが砕けて砂となって波によって小島の周辺に堆積し、小島が自然に高く成長していく計画が進められています。
 珊瑚礁は漁業や観光にとって重要であるだけではなく、国土を守るという点でも重要な存在になっています。





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