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論文

 先週、東京ディズニーリゾートのウェブサイトに「ディズニーホテル/一部メニューの使用食材に関する御詫び」という情報が掲載されました。
 内容は東京ディズニーリゾートのホテルのレストランの料理のメニューと実際に使われていた食材に違いがあったことについての御詫びです。
 5例が示されていますが、例えば「車海老とアオリイカの旬野菜の炒め/花山椒ソース添え」という料理に使われていたのは車海老ではなくブラックタイガーでしたとか、「芝海老のあんかけ焼きそば」は芝海老ではなくバナメイ海老でしたという御詫びです。

 これは景品表示法に触れる可能性があるので、千葉県に報告したということですが、やや大袈裟な気もします。
 もちろん表示と違った食材を使用したということは問題かも知れませんが、車海老もブラックタイガーもシバエビも生物の分類からは「甲殻綱十脚目エビ類クルマエビ科クルマエビ属に属するエビで、ブラックタイガー以外にも「(メキシコ)ブラウン」「(ギアナ)ピンク」「ブルー(シュリンプ)」など様々な殻の色の種類がクルマエビ属には存在します。
 メキシコブラウンもギアナピンクも寿司ネタに使われており、食通には味の違いが分かるかもしれませんが、それほど違った味でもありません。

 続いて江戸前寿司では無くてはならない寿司ネタの「赤貝」についても似たような種類があります。
 「赤貝」以外に「サトウガイ」「サルボウ」という種類が寿司ネタになっていますが、いずれも二枚貝綱フネガイ目フネガイ科の貝で、見分け方は殻についている放射状の筋が42本、38本、32本ということです。
 しかし、「サルボウ」の主要な産地である岡山県産は「赤貝」と表示されて出荷されていますし、島根県松江市では「サルボウ」を「赤貝」と呼んでいますし、缶詰の赤貝はサルボウが原料というくらいですから、これも一般の人が食べて違いが分かるほどの差はないということです。

 やや問題となったのは「タラバガニ」と「アブラガニ」でした。2002年から2003年にかけて、アブラガニをタラバガニと表示して販売され問題になったことがありました。
 これも分類上はどちらも甲殻綱十脚目タラバガニ科タラバガニ属で、北海道東部の特産である「ハナサキガニ」も同類です。
 タラバガニのほうが高価なので、偽装して販売されたのですが、両方を食べた経験からすると、どちらも美味しく違いが分からないほどです。
 したがって、安いアブラガニを指定して購入する人も増えており、しかもタラバガニの漁獲期が7月から12月、アブラガ二の漁獲期が1月から6月と上手く分かれており、名前を偽装するのは問題にしても、もっと人気が出てもいいと思います。

 しかし、このような名前を詐称することが問題になる場合もあります。
 アワビは昨今では高価な食材ですが、安い缶詰などに加工したアワビが販売されています。
 これは一時「チリアワビ」とも呼ばれていましたが、現在では日本農林規格の指示により「アワビモドキ」もしくは「ロコガイ」と表示されている巻貝の加工品です。
 これは南米大陸のペルーやチリの太平洋岸で獲れる巻貝でアワビとは綱も目も違う種類です。
 10年ほど前にチリに短期間滞在したときに、レストランで注文すると10個以上がソテーとなって出てきて400円程度でしたので、喜んで食べましたが、味はアワビと変わらないものでした。

 ここまでは実害がないのですが、もう一種類、やはり南米の太平洋岸で獲れるアワビに似たラパス貝という巻貝が加工食品として売られています。
 これは時としてアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、救急車を呼んで医師に注射をしてもらう必要があるほどの重症になることがあります。
 実は2004年に南米大陸の最南端のケープホーンをカヤックで周回したとき、出発前にチリ海軍の軍人から、無人島に上陸したときにラパス貝を獲って食べるなと注意を受けました。
 何年か前にフランス海軍の軍艦が沖合に停泊して、一部の水兵が上陸して海岸でラパス貝を獲って食べ、死亡した事故があるからということでした。
 たしかに無人島に上陸してテントを張って滞在していたとき、岩場に貝が張り付いており、魅力的でしたが、諦めた経験があります。

 いくつかの例を御紹介しましたが、最近はピラニアを真鯛として売ったり、アメリカナマズをヒラメとして売ったり、いろいろ紛らわしい食材が増えています。
 なぜ、このような状態が出現したかには、いくつか理由があります。
 まず1980年代に海岸から200海里、約370kmまでが、それぞれの国の排他的経済水域として認められ、外国の漁船が勝手に漁業をすることができなくなりました。
 そこで従来は漁業をしていなかった深い海で漁業をするようになり、それまで網にかからなかった魚が獲れるようになったことがあります。
 さらに最近では、漁獲量が減っているだけではなく、中国が急速に海の魚を食べるようになって市場で競合するようになったため、これまでは見向きもしなかった魚も商品とせざるを得ない状況になってきたことです。
 日本は現在のところ一人あたりの魚の消費量が世界一ですが、世界の人口が増え、健康の観点から肉より魚を好む人々が増えてきましたので、ますます多種多様な魚介類を食べざるを得ない時代に来ているのかもしれません。





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