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論文

 4月16日にアメリカの調査会社トムソンロイターが世界の5252の大学や研究機関の評価を発表しました。
 どのような方法で評価しているかというと、2002年から2012年までの11年間に、それぞれの組織の研究者が発表した論文が、他の研究者によって引用された回数を調べて、その多い順番を調べたものです。
 かつては、どれだけの数の論文が発表されたかで順位をつけていたのですが、書いた本人と審査員しか読まない論文も、ノーベル賞に値する論文も同じ1編にしかならないという問題があり、重要な論文であれば、様々な研究者が自分の論文に引用する回数が多くなるから、引用回数で評価するのが適正だろうというわけです。
 それを実証するのが、2010年に中国人研究者の論文数がアメリカを抜いて世界一になったのですが、引用回数の順位は100位以下という数字です。

 それはともかく、発表された結果を見ると、東京大学が日本の最高で17位、京都大学が35位で、昨年より順位を1位ずつ下げており、新聞などには「下落鮮明」と批判的に書かれています。
 しかし、分野別に見ると意外に健闘しています。
 材料科学の分野では独立行政法人物質・材料研究機構が4位、東北大学が6位、独立行政法人産業技術総合研究所が9位と10位以内に3機関が入っています。
 さらに物理学では3位に東京大学、化学では京都大学が4位、東京大学が7位、生化学では東京大学が3位、免疫学では大阪大学が5位、薬理学では東京大学が5位と健闘しています。
 つまり科学の広範な分野を研究機関ごとにまとめてしまうと、順位は落ちますが、分野ごとには優秀な研究機関が存在するということです。

 それは研究者についても同様で、1989年にトムソンロイターが毎年発表している引用栄誉賞が証明しています。
 これは分野ごとに引用される比率の高い上位0・1%の研究者のなかから、世界に大きな影響を及ぼしている研究者を対象にした表彰制度ですが、物理学ではカーボンナノチューブの発見者である飯島澄男博士など6名、化学では4名、医学生理学では山中伸哉弥教授など5名が選ばれており、個人では優秀な研究者は数多く存在しているのです。

 それを証明するのがスター研究者の数です。
 スター研究者というのは、21の研究分野で論文が引用される回数の多い上位250名と定義され、2011年の統計では6293名になっています。
 その国別比率を見ると、アメリカは65・5%で断然1位ですが、2位がイギリスで7・7%、日本は4・2%で3位となっており、英語を母国語としない国ではドイツの4・1%、フランスの2・6%を押さえて1位と健闘しています。
 さらに人口100万人あたりのスター研究者を計算してみると、1位のアメリカが13・1人、2位のイギリスが7・8人、3位のドイツが3・2人、4位の日本が2・1人ですから、この指標でも健闘していると思います。

 もうひとつ日本が惑わされているのがノーベル賞です。
 戦後の科学分野の受賞者が国民100万人あたり何名かという統計をとると、受賞者がいる26ケ国のうち、日本は20位でリトアニア(12位)や香港(17位)にも負けています。
 ノーベル賞は100年以上の歴史のある立派な賞ですが、科学分野は物理学、化学、医学生理学の3分野しかなく、数学という科学の基礎や、逆に応用分野である工学は対象になっていません。

 そこでノーベル賞が対象にしない分野について国際的な賞が用意されています。
 数学は1936年に創設されたフィールズ賞が最高の賞とされ、ノーベル賞よりも受賞が難しいとされています。
 理由は40歳以下の数学者を対象に4年に1回しか選定されませんし、1回に4名までと決められているからです。
 これまで受賞者は52名しかいませんが、日本人は小平邦彦博士(1954)、弘中平祐博士(1970)、森重文博士(1990)と3名が受賞しており、国別では5位になっています。
 数学分野でさらに受賞が難しいとされているのが、フランク・ネルソン・コール賞で、1928年から始まり、代数部門と数論部門で、これまで17回しか授与されておらず、これも受賞者は代数部門で25人、数論部門で24名の合計49名というわずかな数です。
 その中で代数部門では森重文博士(1990)と中島啓(ひらく)博士(2003)、数論部門では岩澤健吉博士(1962)と志村五郎博士(1977)の4名が受賞しています

 工学分野ではアメリカ技術アカデミーが技術革新や技術教育で貢献した学者を顕彰するという目的で1989年に創設したチャールズ・スターク・ドレイパー賞が有名です。
 これまで18回で合計42名が表彰されていますが、この賞を受賞した後でノーベル賞を受賞した研究者が4名もいるため、工学分野のノーベル賞とも呼ばれています。
 これまで集積回路を発明したジャック・キルビーとロバート・ノイス(1989)、コンピュータ言語フォルトランを開発したジョン・バッカス(1993)、インターネットを開発したヴィントン・サーフやロバート・カーン(2001)など情報処理や情報通信の開発者が表彰されていますが、今年2月ついに日本人としてはじめて奥村善久博士が表彰されました。
 業績は現在のセルラー式携帯電話で使われている電波の伝わり方を実証的に調べて「奥村カーブ」を作成したことで、現在でも使われているものです。

 日本のマスメディアはノーベル賞では大騒ぎをしますし、研究機関の評価も総合順位だけで一喜一憂する傾向にあり、以前も世界自然遺産や世界文化遺産で大騒ぎする割には、世界農業遺産で日本の2地域が認定されたときには軽視したことを批判しましたが、科学技術の分野でも日本の力を正当に評価してほしいと思います。





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