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論文

 毎年4月になると社会の制度が変わることが数多くあります。
 今年も「高年齢者雇用安定法」の一部が改訂され、厚生年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるのに伴い、定年の引き上げや継続雇用制度の導入などを企業がおこなうことが義務になりますし、温室効果ガスの国内の排出量取引制度も変更になります。
 6月からは電力と都市ガスの料金が値上げになることも決まっています。

 そのような中で4月から新たに施行される制度が「小型家電リサイクル法」です。
 家庭電化製品のリサイクルについては、2001年4月から「家電リサイクル法」によって、冷蔵庫、洗濯機、テレビジョン受像機、エアコンを対象にした制度が実施されてきましたが、今回は携帯電話、パソコン、電話機、デジタルカメラ、ゲーム機器、電子レンジ、照明器具など、ほとんどの家庭電化製品が対象になっています。
 ただし、これまでの4品目のリサイクルと違うのは、そもそもリサイクルを実施するか、実施する場合はどの品目をリサイクルするか、どのような回収方法で実施するかなどを自治体が決定する仕組になっていることです。
 このような制度が実施されるのは、これまで大量の家電製品が廃棄物として埋立てられてきましたが、埋立て用地が不足してきたことや、製品に含まれている有害物質によって土壌汚染などの環境問題が発生するという理由もありますが、最大の理由はベースメタルといわれる銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、錫やレアメタルをリサイクルして活用しようということです。

 日本はベースメタルもレアメタルも世界有数の消費国です。
 例えば、ニッケルは世界の15%を消費して1位、コバルトは26%で1位、インジウムは60%で1位という状態です。
 しかし、残念なことに、国内には鉱物資源はほとんどなく輸入に依存していますから、中国がレアメタルの輸出制限をすると困る事態も発生することになります。
 昨年あたりから、日本の領土である小笠原諸島や南鳥島周辺の排他的経済水域の海底の泥に大量のレアアースが含まれており、現在の使用量で200年分くらいは存在するという明るいニュースも発表されていますが、採集方法や価格の点で、すぐ利用できるわけでもありません。
 さらに、世界全体で需要が急速に増加しており、今後2050年までに必要とされる累積需要量と、経済的に採掘可能な埋蔵量を比較し、ほぼ1対1、すなわち2050年までに使い切って涸渇する資源として、鉄、プラチナ、タングステン、コバルト、モリブデン、2倍以上の需要が発生する資源として、銀、インジウム、鉛、金、錫、亜鉛、マンガン、銅、ニッケル、リチウムという具合です。
 簡単にいえば、主要な金属資源の大半が40年以内に涸渇するということになります。

 そこで不要になった製品から金属資源を取り出そうということになります。
 そのような視点から見ると、小型家電製品は金属資源の宝庫で、携帯電話の裏蓋を開けてみると、集積回路には金、銀、銅、錫、シリコン、コネクターには金、銅、ニッケル、バッテリーにはニッケル、抵抗器には鉄、銀、銅、亜鉛、ニッケルというように、微量ですが様々な金属が含まれています。
 そこで最近では有名になりましたが、廃棄される電気製品は「都市鉱山」と呼ばれるようになってきました。
 例えば携帯電話を1万台集めると、そこから約50グラムの金が回収できますが、これを自然の金鉱から得ようとすると50トンの鉱石を掘削する必要があります。
 そして現在、不要になる小型電子機器は年間65万トンで、ここに含まれている金属は値段にして850億円にもなり、都市鉱山という意味が理解できると思います。

 ところが、残念なことに携帯電話は新しい製品と交換しても、古い携帯電話をデジタルカメラやゲーム機器として使う人が増え、回収される量が減り、2000年には1361万台が回収されていましたが、2011年には696万台と半減してしまいました。
 さらに電子機器の廃棄物は有害物質を含んでいるため、国境を越えて移動することはバーゼル条約で禁止されており、中国も輸入を禁止していますが、中古品を再利用するという名目で中国に不正に輸出され、価値のある貴金属やレアメタルだけを回収して、残りは不正に廃棄されているという実態もあります。

 実際、国立環境研究所の推計によると、昨年1年で香港へ3万4000台、アフガニスタンへ2万7000台、イランへ6900台が輸出されているそうですから、高価な金属を安価なゴミとして輸出していることになります。

 そこで登場したのが今回の法律ですが、第一歩としては意味があるものの問題もあります。
 最大の課題は回収が地方自治体に任されるため、回収方法も各地に専用の回収の箱を設ける方法、現在のゴミの分別収集場所に新しい区分を設ける方法、不燃ゴミとして回収し清掃工場で選別する方法、消費者が自治体に連絡して回収してもらう方法などバラバラです。
 集められた廃棄物は自治体から一般廃棄物処理業の許可を受けた業者に渡されて金属などが回収されますが、レアメタルなどの価格が高騰していけば、許可のない回収業者が集め、違法に処理して環境問題を起こす可能性もあります。
 今回は消費者が金銭的負担をしない制度ですから、自治体は予算が捻出できないなどの理由で実施しないことも許されるため、昨年11月の環境省による意向調査では、全自治体の3分の1の575市町村からしか実施するという回答が得られませんでした。

 しかし、先程ご説明しましたが、世界の金属資源の状況を考えると、工業立国日本にとっては重要な意味のある制度ですし、日本の都市鉱山は世界有数の規模だという推計もありますから、積極的に協力するべきですが、情報機器の場合は記録された情報を完全に消去しておかないと、写真やメールの内容が漏れる必要もありますので、注意が必要です。





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