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論文

 今日は私の4月の最初の担当になりますので、それにあやかって4K、さらに今日は4日なので、もうひとつ4Kを足して8Kの話をしたいと思います。
 4Kとか8Kと言ってもダルビッシュの三振の数ではなく、これから登場する新しいテレビジョン放送の話です。
 現在、ほとんどの一般家庭で御覧になっているテレビジョンは2Kという規格です。
 Kというのはキログラムのキロと同じ1000を表す単位ですが、現在のテレビジョンは横1920、縦1080で掛算すると207万の画素といわれる小さな点の集まりで映像を表現しています。
 その横の画素数が約2000なので2Kと表現しているわけです。

 その数を横3840、縦2160と、それぞれ2倍にし、掛算して829万の点で表すテレビジョンにしようというのが4Kテレビジョンで、さらに2倍にして横の画素数を8000、縦を4000にしようという規格が8Kテレビジョンです。
 昨年7月に、ようやく地上デジタル放送への切り替えが完了し、家庭でも受像機を買い替えて一安心したのに、なぜ新しく切替えるのかと疑問に感じられる皆様も多いかと思いますが、いくつかの理由があります。
 もっともな理由は家庭の受像機も全体としては大型になり、50インチ以上を使用している家庭も多くなってきたため、2Kの画像では粗さが目立つので、より高精細な画像を提供しようということです。

 第二は現在の2Kの受像機の販売競争では、日本のメーカーが韓国や中国のメーカーに追いつき追越されて苦戦しているので、新しい技術開発を日本が先導して国際標準を握り、再度、逆転したいという思惑です。
 実際、4Kでは遅れていると思われていた韓国が昨年10月から実験放送を始めており、のんびりしておられないという状況です。

 第三はテレビジョン離れを防ぎたいという思惑です。立体画像を見る3Dテレビジョンがまったく人気がなく期待はずれに終わったので、その代替としてスマートテレビジョン構想が登場しています。
 これはテレビジョンに情報を送る回線をテレビジョン専用の電波や有線ケーブルではなく、インターネット回線にして、PCやタブレット端末と互換性をもたせたいという訳です。
 そしてデジタルカメラも1200万画素が普通になり、家庭のテレビジョン受像機に映して見るのに、2Kの200万画素程度では見劣りしてしまうという事情もあります。
 これらの課題に対して4Kでまとめて対応しようというわけです。

 すでに東芝は一昨年12月、ソニーは昨年11月、シャープは今年2月に試作機に近い商品として4K受像機を発売していますが、東芝は55インチで33万円と何とか手が届きそうな値段ですが、ソニーは84インチで168万円、シャープは60インチで262万円と、まだまだという段階です。
 やや無理な感じがするにもかかわらず各社が技術開発をしている背景には映画の分野で4Kが急速に普及しはじめているからです。

 ご存知の方も多いかと思いますが、フィルムを上映している映画館が次第にデジタル映画を4Kのデジタルプロジェクターで投影する方向にあり、昨年では世界にある15万スクリーンのうち、9・6%の1万4400スクリーンが4K、30%の4万7000スクリーンが2Kのプロジェクターを使用しており、5年後の2018年には40%が4K、40%が2Kのプロジェクターを使用するデジタル映画時代になると予測されていますので、その分野も視野に入れれば一石二鳥の技術開発というわけです。

 そこで総務省は来年ブラジルで開催されるサッカーワールド大会の時期に4Kテレビジョンの試験放送、3年後の2016年のリオデジャネイロ・オリンピック大会の時期には次のCS放送衛星も打上げられるので、それに合わせて8Kの試験放送を実施し、2020年の東京オリンピックで本放送に移行したいという見取り図を描いています。
 日本のサッカー代表チームがブラジルの大会に出場し、予選リーグを勝ち上がることや、東京オリンピックの誘致に成功することは日本のスポーツ界の発展のためだけではなく、電子機器業界の発展にも重責があるのです(笑)。

 しかし問題がないわけではありません。
 まず些細ですが重大な問題は置き場所です。
 4Kや8Kの画像を50インチ以下の受像機で眺めても、2Kの画像と代わり映えがしないので、100インチ近い受像機がお薦めになります。
 我が家では地上デジタル放送に合わせて、無理矢理50インチを買いましたが、人間は居間の片隅に押しやられて肩身の狭い想いで眺めているのが実情です。
 失礼ながら、都会の多くのご家庭では同じような事情ではないかと思います。
 さらに、心理学の分野にウェーバー・フェヒナーの法則といわれる原理があり、人間に与えられる物理的な刺激量と人間が感じ取る心理的な感覚量との間には対数関係にあるという内容です。
 分かり易い例で御紹介しますと、毎日のお小遣いが100円の子供に追加で100円をあげると2倍になったと大喜びですが、お小遣いが1000円の大人に100円を渡しても喜んで貰えず、1000円をあげて2倍になると、子供と同じように喜んでくれるということです。
 つまり、2Kを4Kにし、さらに8Kにしても、それほど感激は増えていかないというわけです。

 しかし何と言っても最大の問題は、現在のテレビジョン放送業界が4Kに耐える番組が提供できるかという問題です。
 映画ではほんのわずか4Kで撮影した番組が登場していますが、それほど人気になっていません。
 かつてアメリカのマサチュセッツ工科大学のメディアラボを創設したニコラス・ネグロポンテ教授がハイビジョンの問題を指摘した名言を紹介して終わりたいと思います。
 「貴方は退屈な番組を高精細な画面で眺めるのと、画面は十分に美しくはないが面白い番組を眺めるのと、どちらを選択しますか?」というわけです。





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