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論文

 今日は最近、話題になりつつある「ギグワーキング」や「ギグエコノミー」についてご紹介したいと思います。
 「ギグ」というのは、ジャズのライブハウスなどで一回限りの演奏を表す言葉で、それにワーキングを加えると臨時雇いの仕事とか、日雇い仕事という意味になります。
 この言葉が世間に知れ渡るようになったのは、配車サービスの「ウーバー」が始めた労働形態です。
 お客から輸送の注文が来ると、どこからどこまでの移動サービスの注文が来ているとネットで告知します。
 そうすると、あらかじめ登録してある人で、それに応えられる人が引き受けると応答し、自分の自動車で迎えに行って目的地まで送るというサービスで、運転した人はそれに応じて報酬を受けることになります。
 つまり、タクシーの運転手のように、企業の雇用されているのではなく、自分の働きたい時、もしくは働ける時だけ仕事をするという意味で、ギグワーキングと言われるわけです。

 この仕組みは一気に普及し、「ウーバー」を追いかける「リフト」、レストランへ出前を注文すると、それをオフィスや自宅へ運んでくれる「ウーバーイーツ」、アマゾンの宅配を個人が引き受ける「アマゾンフレックス」など輸送や配達分野が目立ちますが、自宅を宿泊施設として提供する「エアビーアンドビー」もギグエコノミーの一種ですし、自宅でプログラミング仕事をする、時間を決めて介護の仕事をするなど多方面に広がっています。
 アメリカでは2017年に労働者の34%ですから約5000万人、2020年には43%で6600万人がこのような仕事に従事すると推計されています。
 もちろん、会社に雇用されている人でも、休日や夜間に仕事をする人も含まれますが、労働者の4割以上がギグワーカーになる計算です。
 アメリカに比べると日本は遅れていますが、15万人のカメラマンが登録して写真撮影の依頼に対応する「ゼヒトモ」、9万人の専門家が登録してビジネスの相談に応じる「ビザスク」、主婦などが800人近く登録して経理事務を請け負う「メリービズ」などが登場し、700万人ほどが登録していると推計されています。

 このような労働形態が出現して来た背景を考えてみたいと思います。
 第一は当然ですが、インターネットとスマートフォンの普及です。
 僕が大学生の時代には家庭教師のアルバイトをしていましたが、大学の掲示板に求人票が張り出されていて、それを見て自分が希望する学生の家庭教師をするという時代でしたから、大学まで足を運ばないと仕事にありつけませんでした。
 しかし、現在はウーバーのように登録しておくと仕事の情報が送られて来る仕組みか、自分が働くことのできる時間や場所や仕事の内容を事前に登録しておくと、それに合う仕事の募集の通知がスマートフォンに送られて来るので一気に便利になっています。

 第二は社会環境の変化があります。
 ほぼ1年前に成立した「働き方改革法」が今年の4月から施行されていますが、その主要な狙いの一つが柔軟な働き方ができる社会を作るということです。
 これまでの働き方は企業に就職して、週日は出勤して会社で働くというのが一般でした。
 しかし、介護や育児のために毎日は働けないが半日であれば働きたい、テレワークが可能になって来たので自宅で働きたい、逆に収入を増やすために休日も仕事をしたいなど、労働への需要が多様になって来ており、それに対応できる方法の一つとしてギグワーキングが注目されるようになっているのです。

 第三に平均寿命が伸びてきたため、老後の生活には2000万円不足するという問題が明らかにしたように、定年後も働く必要がある人々が増加しており、それに応える方法としてギグワーキングが期待されているという側面もあります。

 第四に日本の場合は人口減少で労働力不足になっており、その不足をギグワーキングで補うという思惑もあります。   

 このように説明すると、ギグワーキングは社会の大きな変化に対応しているようですが、問題もあります。
 第一に既存の職業を奪うという問題です。
 ニューヨークのマンハッタンでは2017年にウーバーの利用者数がタクシー(イエローキャブ)の利用者数を上回り、タクシーの運転手が何人も自殺しているという問題が発生しています。
 さらに通勤時刻に客を取ろうと「ウーバー」に登録している人が市内に繰り出して来るために、交通渋滞を引き起こすという問題も発生しています。
 そのような問題の影響もあり、同じ時期に、ロンドンではウーバーの営業を禁止するようになりました。
 これはウーバーのような運転の仕事だけではなく、経理などの仕事も「メリービズ」で外注になってしまうと、正社員の仕事が奪われることにもなりかねません。

 第二にギグワーカーは個人事業主と解釈されるため、一般の企業の社員のように社会保障や医療保険などがないため、運用する企業にとっては安価に運営できますが、働く人にとっては不安な働き方になってしまうという問題も発生しています。実際に外国ではウーバーイーツで配達していた人が怪我をして、会社が何の対応もしてくれないので訴訟を起こしている例もあります。
 第三はギグワーカーの仕事の多くは、いずれ人工知能やロボットが代行する可能性があり、一時的な徒花ではないかという見解もあります。
 自動運転車が普及してくれば、ウーバーの運転手の仕事は不要になるし、荷物の配送もドローンで可能になる時代が見通されています。経理の仕事も人工知能が代行できますし、ビジネスの相談も同様です。

 さらに日本では普及しないのではないかと考えられる理由は労働についての意識の違いです。
 欧米では労働は神から与えられた罰だと考えられ、なるべくそこから逃れたいと思う人が多いのに対し、日本では労働は生きがいになっている場合が多く、金銭を得るためだけに働くという考えは現状では少数派です。
 この労働観が変わらない限り、日本のギグエコノミーには限界があると思いますが、これまでの価値観や就職感を変える大きな変化かもしれません。





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