TOPページへ論文ページへ
論文

 2010年末の時点で世界の4輪自動車の保有台数は乗用車7億1000万台、トラックとバスが3億1000万台となり、合計すると10億2000万台、ほぼ7人に1台の割合で普及しています。
 これは自動車がいかに勝れた乗物であるかを証明していますが、その一方で大量に普及することによって二酸化炭素排出量の増大、都市の無秩序な拡大などの問題が発生しています。
 しかし、最大の問題は交通事故の多発です。
 日本では自動車事故による死者は1970年代の年間1万6000人以上から、昨年は4411人まで減ってきましたが、世界では増え続け、各国で交通事故死の定義が違いますので正確な数字は分かりませんが、ほぼ年間150万人程度と推定されています。

 これがどの程度かということを分かり易く比較してみますと、ベトナム戦争では戦闘員と非戦闘員の合計で236万人が死亡していますが、戦争は1960年から75年まで約16年間続きましたので、平均すれば1年に約15万人、すなわち現在の自動車は年間ではベトナム戦争の10倍の人間を殺していることになります。
 交通戦争という言葉が使われるのも最もですが、その原因を調べてみると、安全を十分に確認しない運転が31%、脇見運転が16%、歩行者や他の車の動きを十分に注視していなかったが11%などが上位ですが、それ以外もほとんどが運転する人間の不注意によるもので、整備不良など自動車が原因の事故は無視できるほどしかありません。
 これは運転者がけしからんという見方もできますが、事故を起こすような機械が世界に10億台以上も普及し、少々訓練しただけの人間に運転免許を与えていることが問題だという見方もできます。

 しかし、そうだからと言って自動車を利用しないで現代社会は成立しないのも事実ですから利用を禁止するということも出来ません。
 そこで登場してきた考え方が、間違いを起こし易い人間に運転させるのを止めて、機械に運転を任せようというロボット技術と自動車技術を一体にするカーロボティックスです。
 これが可能になれば、事故を減らすだけではなく、高齢者や身体の不自由な人も自動車で移動できるし、渋滞や混雑が緩和できるし、その結果、二酸化炭素の排出量も減るという一石四鳥以上の効果が期待できます。

 このような分野は1960年代から研究が始まっており、私も20代後半から30代前半に研究開発に関係していましたが、当時は道路の内部に通信線を埋め込んで、そこから信号を発信して自動車を制御するとか、道路の表面に標識を描いて、それを確認しながら運転するという、道路を加工する必要のある技術で、普及は困難でした。
 ところが最近では技術が進歩して、現状の道路のままでも自動車が自分で判断して自動走行する技術が開発されるようになりました。
 その先端を行くのが、自動車会社ではなく、情報検索システムの世界最大の企業グーグルで、昨年ネバダ州でロボットカーが公道を走行できる法律ができ、その第一号として、グーグルの開発した自動車が実験的に一般道路を走って良いという許可をもらいました。
 これは自動車の上部にカメラを搭載して、ストリートビューに使う街路景観の写真を撮影する自動車で、「NEVADA ∞(無限大)AU000」というナンバープレートをもらい、これまで50万km以上を無事故で走行しています。
 現在、カリフォルニア州とフロリダ州でもロボットカーの走行を認める法律が成立しましたので、さらに開発が加速すると思われます。

 もちろん自動車メーカーも開発を進めており、一昨年12月に東京ビッグサイトで開かれた「第42回モーターショー」ではトヨタ自動車がプリウスを改良した自動運転自動車を実際に走行させましたし、今年のアメリカで開かれたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でもロボットカーを発表しています。
 ホンダも昨年11月にロサンゼルスで開かれたモーターショー12で四輪車と二輪車の自動走行車の構想を発表しています。
 外国ではドイツが熱心で、アウディはグーグルに続いてネバダ州でロボットカーの走行許可を取得していますし、BMWもテストコースで5000km以上の走行実験を成功させていますし、フォルクスワーゲンも開発を進めています。

 さらに意欲的な目標を目指す開発が、アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)が2004年から行っている「DARPAグランド・チャレンジ」です。
 これは出発地点と目標地点だけを決め、どこを走るかまでロボットカーが判断するレースで、モハベ砂漠の240kmの区間を走破する競技として行われましたが、15台が挑戦して完走した車はゼロでした。
 2005年には212kmの区間を走る競技が行われ、予選を通過した23台のうち5台が完走し、もっとも速い車の記録が6時間54分、平均時速31kmでした。
 2007年には一般道路の交通規則に従って走る競技がアメリカの空軍基地内の道路で行われ、53台のうち11台が約100kmの距離を競争し、6台が完走しました。

 このように次第に高度な技術が登場していますが、そもそも何のために自動運転自動車を開発するかということです。
 それについて、昨年7月に内閣府のIT戦略本部が日本の目標を設定しています。
 第一は現在4千数百人まで減ってきた交通事故死亡者を、さらに2020年までに2500人以下にする、第二は交通渋滞を2020年には2010年に比べて半減する、第三に渋滞の緩和によって自動車が排出する二酸化炭素の量を15%削減するということです。

 私のように運転免許を持っていない人間には福音ですが、この実現のためには最大の難関があります。
 現在、交通事故は、ほとんどの場合、運転していた人間の責任として片付けられていますが、自動運転自動車が事故を起こせば、すべて製造会社の責任になる可能性がきわめて大きくなります。
 そのような技術を企業が開発するかは微妙で、この問題を制度的にどのように解決していくかが重要な社会問題になると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.