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論文

 世界遺産の制度がユネスコ総会で採択されたのは1972年11月16日で昨年が40周年記念の年でしたが、実際に登録が開始されたのは1978年でしたから、そこから数えると今年が35周年記念の年になります。
 そのような背景もあり、最近は日本各地で世界遺産へ登録しようという活動が活発になっています。
 例えば、今週末の1月27日の日曜日には東京で「縄文遺跡群世界遺産登録フォーラム」が開催されます。
 これは副題が「北海道・北東北の縄文文化の世界遺産登録を目指して」となっているように、青森にある三内丸山遺跡や函館市にある垣の島(かきのしま)遺跡など18の遺跡をまとめて世界遺産に登録しようという目的で開かれるものです。

 この背景にあるのは、世界遺産への登録が地域振興になると目覚めた各地が観光客の増えることを期待している一方、登録がきわめて厳しくなってきたため、一カ所単独では到底順番が回って来ないので、まとまって登録しようという思惑です。
 現在、日本では12カ所が世界文化遺産、4カ所が世界自然遺産に登録されていますが、文化庁として今後推薦する候補に入っている「世界遺産暫定一覧表」には13カ所が列挙されています。
 代表的な対象では「古都鎌倉の寺院・神社」「富士山」「彦根城」「富岡製糸場と絹産業遺跡群」「佐渡鉱山の遺跡群」などがあり、先程、御紹介した「北海道・北東北の縄文遺跡群」も含まれています。

 ここまでは比較的話題にもなっていますが、それ以外に、失礼な表現かもしれませんが、サッカーでいえば「世界遺産暫定一覧表」に記載されているのがJ1とすれば、J2に相当する「世界遺産暫定一覧表候補」という、いずれは暫定一覧表に格上げになるかもしれない対象が合計30件あります。
 これはさらに、素質はあるので、かなり努力をすればJ1に格上げされる可能性大のカテゴリー1の13件と、現在の世界遺産委員会の審査の傾向では、普遍的価値があると認められることは難しい、あえていえばJFLに相当するカテゴリー2が17件になっています。

 例えば、カテゴリー1では「四国88カ所霊場と遍路道」「天橋立」「錦帯橋と岩国の町割」「松本城」「妻籠塾・馬籠塾と中山道」などがあり、カテゴリー2では「松島」「足尾銅山」「立山・黒部」「三徳山」などがあります。
 これらを合計すると、43件が競争していることになりますが、現状では、すでに日本政府が正式推薦している「古都鎌倉」と「富士山」が今年6月にカンボジアのプノンペンで開催される審査委員会で審査され、この2月1日までに「富岡製糸場と絹産業遺産群」が正式推薦される予定だけしか決まっていませんから、大変な競争です。
 とりわけ、世界遺産に登録されると、観光客が殺到して自然環境や遺跡が保全されない状態になるという世界危機遺産が増えていることが危惧され、審査を厳しくする傾向にあります。
 それらは世界危機遺産に指定され、現在、30カ所が危機遺産に指定されています。
 そこで世界遺産委員会では審査を厳格にするため、1年の審査対象件数を45件以内、条約締約国が1年に推薦できる件数は2件までと決めていますので、日本で43件も候補があるということは、最悪の場合、政府から推薦されるだけでも20年先になるというのが実情です。

 そこで少々、世界遺産の見方を変えたらどうかという話をさせていただこうかと思います。
 そもそも日本は世界遺産が、これほどまで話題になるという価値を見極めるのに出遅れた国です。
 世界遺産条約(正式には世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約)は1975年に発効したのですが、日本が正式に締約国になったのは1992年と18年も経過してからで、世界では125番目に参加した後進国です。
 したがって日本の世界遺産は、ようやく1993年に法隆寺、姫路城が文化遺産に、屋久島と白神山地が自然遺産になったのが最初でした。
 それでも、この時期はまだ余裕があり、1992年に6カ所申請し、翌年に4カ所が認められ、他の2件である古都京都が1年後、白川郷・五箇山が2年後に認められましたが、次第に類似の内容の世界遺産がすでに存在すれば認めないという厳しい審査になってきました。
 したがって「四国88カ所霊場と遍路道」は、1993年にスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼道」が登録され、2004年に日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」が登録されていますので、違いを明確にしないと受け付けられないということになってしまいます。

 世界遺産には、ユネスコが主催するものだけでも、これ以外に1995年から始まった世界記録遺産と2006年から始まった世界無形文化遺産があります。
 前者は2011年に山本作兵衛さんの描かれた筑豊炭鉱の記録画が日本最初の登録となり、昨年、国宝の「御堂(みどう)関白記」と「慶長遣欧使節関連資料」が推薦されており、上手くいけば今年に登録されると期待されています。
 世界無形文化遺産には、意外に知られていませんが、日本には「能楽」「歌舞伎」「雅楽」などの芸能や「小千谷縮」「石州半紙(せきしゅうばんし)」「結城紬」など伝統工芸が22件登録されています。
 世界文化遺産は745、世界自然遺産は188、世界複合遺産は29で合計962、世界記憶遺産268が登録されていますが、世界無形文化遺産は169しかありませんから、穴場です。
 さらにユネスコではなく、国連食糧農業機関(FAO)の主催する世界農業遺産はまだ17ですから大穴です。
 これらに登録されて有名になることも選択肢の一つです。

 また世界遺産効果で期待される観光客数ですが、白神山地、屋久島、白川郷など世界遺産登録以後、増加した地域もありますが、日光の社寺、原爆ドーム、厳島神社などは1年から2年は一時的に増加しましたが、しばらくすると減少に転じている地域もあります。
 世界遺産効果はせいぜい数年というのが現実です。そこで競争率の厳しい世界遺産を地域振興目的だけで狙うよりも、地域の特徴を見極めて有名にする地道な活動を続けることが重要だと思います。





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