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論文

 今年最後の回ということで、日本の将来を考えてみたいと思います。
 今月行われた衆議院議員総選挙のとき、自由民主党の安倍総裁がテレビジョンのコマーシャルでも街頭演説でも盛んに訴えておられた言葉は「日本を取り戻す」ということでした。
 より細かくは「経済を取り戻す/教育を取り戻す/安心を取り戻す」ということを強調しておられ、とりわけ経済を取り戻すということが中心だったようです。
 それを反映して、通貨も円安の方向に動きましたし、株価も久しぶりに1万円台に回復して、反転の兆しが見えてきたようで結構なことです。
 しかし、どの時点の日本を取り戻すかによりますが、長期的には過去の繁栄時代を取り戻すことは容易ではないと思います。

 それは国家の基礎が、かつての栄光の時代とは大きく変わっているからです。
 第一に人口の減少です。
 いくつかの予測がありますが、世界全体で人口は現在の70億人から2050年には90億人になると推計されていますが、主要国で人口が減少していくと予測されているのは日本とロシアとドイツだけです。
 その結果、経済成長も困難になります。
 国内総生産(GDP)の60%は個人消費によるものですから、一人あたりの消費がこれまで通りとしても、人口が減れば総額は減っていきます。
 アメリカの大統領諮問機関である国家情報会議(ナショナル・インテリジェンス・カウンシル)が「グローバル・トレンズ」という5年ごとに発表する未来予測の最新版で、2030年の世界を予測した「グローバル・トレンズ2030」という報告書に、主要国の中流階級の消費が世界経済に占める割合の予測がありますが、2000年には約10%であった日本の比率は2030年には3%、2050年には2%になるという予測です。
 人口の減少していく国家が経済成長するのは難しいのです。

 その減少していく人口の構成も問題を抱えています。
 あまり知られていませんが、日本は現在でも15歳以下の若者人口の比率が世界でもっとも少ない国で、当然の結果、65歳以上の高齢人口の比率が世界でもっとも多い老大国になっています。
 先程の「グローバル・トレンズ2030」では、各国の人口の中央値、すなわち、国民を年齢の若い順番に並べたときの丁度半分に位置する国民の年齢を予測しています。
 すでに2010年に日本は世界一高齢で45歳ですが、2030年になると52歳で圧倒的な世界1位になります。
 国民の半分以上は52歳以上ということです。
 高齢者の貯蓄は多額かも知れませんが、住宅もあるし、家財道具も揃っており、医療費以外に、それほど消費する目標もないということですから、経済の発展への貢献は小さいということになります。
 そのような状況でインフレターゲットを設定して、経済を無理矢理成長させる政策は疲労困憊しているウマに鞭を当てて走れというようなもので、長続きはしないというのが個人的見解です。

 そのような状況を綜合して「グローバル・トレンズ2030」では、国内総生産、人口規模、軍事予算、技術水準に加えて、国民の健康状態、教育水準、政府の統治能力を合わせた指標で国力の将来推計をしています。
 点数で表されていますが、2010年にはアメリカが24、EUが23で、日本は7、ロシアが3でしたが、2050年にはアメリカが16、EUが14、日本が3に低下し、ロシアは3のままです。
 一方、中国は11から18で世界一になり、インドも5から12で、日本を抜き、アメリカやEUに迫っていきます。
 要約すると、20世紀後半まで続いた世界の構造が、21世紀前半で完全に逆転し、日本はその荒波の中に埋没していくという構図です。

 重要なことは、世界唯一の覇権国と言っていいアメリカでさえ、冷徹に自国の地位の低下を分析しているのに、日本が楽観的に「取り戻す」というキャッチフレーズで幻想を抱いていていいかということです。
 それでは日本の将来を、どのように描いたらいいかということですが、そのヒントも「グローバル・トレンズ2030」に示されています。
 国家の力の源泉を11挙げ、それらの合計によって主要国の2030年の力を推計していますが、アメリカが19%を占めて1位で、以下、中国が15%、インドが8%で、日本は4位で5%を占め、イギリス、フランス、ドイツ、ロシアよりも上位になります。
 その日本の力の源泉は通信技術、研究開発能力、人材の能力が中心になっています。
 ここ数年の民主党の政策を振返ると、そのような認識に欠け、力とならない部分に予算を投入してきた感はあります。
 新政権では、将来の力となる分野に投資することを検討すべきだと思います。

 もう一点、これもアメリカ発の発想ですが、日本の今後の戦略に参考になる意見があります。
 日本はGDPという数字で象徴されるような経済大国を目指すのではなく、文化大国を目指せという意見です。
 2週間前にも紹介させていただきましたが、日本には盆栽や和食や建築など世界があこがれる文化の蓄積が大量にあります。
 これも御紹介しましたが、東京にあるミシェランの三ツ星レストランの数がパリやニューヨークよりも多いというのは、単純な異国趣味だけではなく、西欧の人々を惹き付ける力を持っていることです。
 建築についても、最近では日本でよりも海外で数多くの設計を手掛けている建築家が増えています。
 それは木造建築で培われた日本の建物の繊細な表現に多くの人が魅力を感じているからです。
 もちろん、防災の視点から国土強靭化という公共事業も必要でしょうが、再び土木事業が国家や地域を牽引してきた古い体質を取り戻すのではない、新しい目標を考えてほしいと思います。





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