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論文

 11月22日(木)に日本ミシェランタイヤのベルナール・デルマス社長が広島で記者会見をし、来年5月に「ミシェランガイド広島2013」を発行すると発表しました。
 これまで日本では、2008年に東京版、2010年に京都・大阪版、今年になって北海道版が発行されていますが、4番目が広島というのは何故だという疑問があると思います。
 それについてデルマス社長は「広島は瀬戸内海の海の幸、中国山脈の山の幸に恵まれ、四季折々の味覚が楽しめるうえ、世界遺産が2カ所の他、観光地が多数あり、多くの観光客が訪れている」という理由を挙げています。
 すでに昨年秋から7人の調査員が秘密に調査を開始し、準備は整っているようです。

 もう一つの疑問はミシェランタイヤというフランスのタイヤ会社が、なぜ観光案内をするかということです。
 それはフランスが自動車について歴史のある国という背景があることです。
 ガソリンエンジンで走る自動車の発明は1870年代で、オーストリアのマルクスや、ドイツのオットーなどとされていますが、それよりも100年前の1769年に、フランスのキュニョーが蒸気機関で動く自動車を発明し、フランスで定期バスに使われているという歴史があります。
 さらに自動車レースになると、フランスが圧倒的に早くから行っています。
 1887年にパリ市内で2kmの競技が行われていますが、これは競技というほどのものではなく、1894年にパリとルーアンの127kmで開かれた競技が本格的なもので、さらに1895年にはパリとボルドーの1178kmで競技が開かれています。
 時間は47時間47分でしたから、平均時速25kmになり、当時としては驚異的な記録でした。

 このような背景があったため、フランスでは個人で自動車旅行をする人が増えましたが、当時は自動車が走ることの出来る道路の地図や、ガソリンスタンドの場所、ホテルの場所も明確ではありませんでした。
 そこでタイヤの製造会社であるミシェランが、自動車旅行が増えれば、タイヤの需要も増えると考え、1900年にパリで開かれた万国博覧会のときに、3万5000部の地図を無料で配布したのが、ガイドブックの発端でした。
 ミシェランタイヤの社是にも「案内書はミシェランの名前を売り込むため、タイヤ事業を発展させるための存在である」と書かれているほどで、日本版が発行されてからの日本の状況を見ると、その通りになっています。

 当初は無料で配布していたのですが、粗末に捨てられていたのを見た社長が有料にすると決断し、1920年からは販売されるようになりました。
 ミシェランの案内書は緑色のもの(ギッド・ヴェール)と赤色のもの(ギッド・ルージュ)があり、緑色は観光案内、赤色はホテルとレストランの案内ですが、世の中で話題になるのは赤色の案内書のレストランの格付です。
 格付は3段階で、1つ星は「その分野で特に美味しい」、2つ星は「極めて美味しく遠回りしてでも訪れる価値がある」、3つ星は「それを味わうためにわざわざ訪れる価値がある」となっています。
 これは1930年から始まり、もっぱらフランス国内を対象にしていましたが、1956年の「イタリア北部」版を最初としてフランス以外の国々にも拡大され、現在では23カ国を対象にしています。

 評価の方法は大変に有名ですが、秘密調査員が身分を明かさずレストランで食事をし、評価しています。
 会社の費用で高級なレストランで食事が出来て羨ましい仕事と思われるかも知れませんが、1週間にランチとディナーを合計して12食を平らげる、すなわち、1日を除いて6日間はレストランで昼も夜も食事をし、年間240のレストランを評価し、130のホテルに宿泊し、1100以上のレポートを提出する義務があり、なかなかの重労働です。
 秘密調査員は半年の研修を受けた後、先輩と同伴して半年の実地調査をして適正が審査されて採用されます。
 世界に約90人、日本には7人の調査員が居るそうですが、平均体重は70kgで、毎年1回健康診断をしているそうです。

 しかし、この評価は相当な効果があり、星1つでレストランの売上が30%増加し、新しく案内書が発行された国ではミシェランタイヤの売上が3%増えるといわれています。
 反対に格下げになって星の数が減ってしまうと悲劇で、1966年にパリの有名なレストランが格下げになったときにシェフが自殺、2003年にもパリの有名レストランの天才シェフが格下げの噂を苦にして自殺しています。
 また、銀座にも店を出している「マキシム・ド・パリ」のフランスの店は3つ星の有名レストランでしたが、1978年版から掲載されなくなりました。
 これは格下げを打診されて、掲載を拒否したからだといわれています。

 非常に不思議なことですが、最高級の評価の3つ星レストランがパリでは10、イタリアで6、ニューヨークで5、サンフランシスコで2ですが、東京・横浜・鎌倉で14、京都・大阪・神戸で12もあるのです。
 これは和食ブームが後押ししているとも考えられますが、権威に弱い日本人の性質を見抜かれて大盤振る舞いをした結果ではないかと憶測されるほどの数字です。
 この評価の傾向からすると、来年5月に発行される広島版では「お好み焼き」の小料理屋も3つ星になるのではないかという噂まであります。
 私もお金持ちの友人がご馳走してくれるというので、3つ星のお寿司屋さんで食べたことがありますが、回転寿司の10倍もする値段の味がするという実感はありませんでした。
 料理の好みは一人一人違いますので、あまり星に惑わされないほうが健康にも財布にも健全ではないかと思います。





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