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論文

 田中真紀子文部科学大臣が来春に開設予定の3大学の設置を認可する、しないについて意見が二転三転し、問題となりました。
 大学設置・学校法人審議会が約7ヶ月かけて審査をした結果を、突然否定して混乱を招いた田中大臣の強引な行動には反論がありましたが、一方で、「大臣が意識したかどうかは別にして、現在の大学の問題の本質を突いた行動である」とか、「安易に大学設置を認可してきた審議会のあり方に一石を投じたという意味では評価できる」という意見もありました。
 そこで田中大臣が指摘されたように、日本の大学の現状は適切かどうかを検討してみたいと思います。

 最初に日本の状況を調べてみると、普通に大学へ入学する年齢である18歳の人口はほぼ頂点であった1990年の201万人から、2010年には122万人と40%も減っていますが、その間に大学の数は507校から778校と50%も増加しています。
 それでも大学がなんとか成り立ってきたのは、大学進学率が増加し。大学へ入学する学生の数が49万人から62万人へと25%も増えたからです。
 しかし、1990年には1校平均で966人の学生が存在しましたが、2010年には797人と18%も減り、この年に私立大学では569校のうち218校、すなわち38%が定員割れになり、昨年は東日本大震災の影響もあり、定員割れの大学が223校で39%と事態は悪化しています。
 進研ゼミで有名なベネッセ・コーポレーションは、2030年には18歳人口は87万人、そのうち大学進学者数は48万人と予測していますが、大学の数が現状のままと仮定すると、1校あたりの入学者数は617人で、1990年の3分の2以下になりますから、大学の倒産が続出するという事態になります。

 世界の国はどうかと比較してみると、1996年から2001年の5年間についてしか整合性のある資料がありませんが、日本では576校から669校と16%増加しているのに対し、アメリカは4%、イギリスは3%、フランスは2%しか増加していません。
 しかし、これらは長期的に人口が増加する国々であるのに、日本は人口が減少すると予測されていますから、日本の大学が急増しているのは異常な事態で、小泉首相時代の規制緩和政策が適切ではなかったことを示しています。

 そのような私立大学へ昨年で3340億円の私学助成が行われています。
 巨額の税金を投入して社会の役に立っていれば結構だと思いますが、国際的に比較してみると、必ずしもそうとは言えない状況です。
 大学には大きく研究と教育という2つの役割がありますが、研究についてはいくつかの順位が発表されています。
 アメリカの「QS世界大学順位2012年版」によると、1位がマサチュセッツ工科大学(アメリカ)、2位がケンブリッジ大学(イギリス)、3位がハーバード大学(アメリカ)で、アメリカやイギリス以外で最初にでてくるのは23位に香港大学、24位にオーストラリア国立大学、25位にシンガポール国立大学で、日本は30位に東京大学、35位に京都大学という順位です。
 一例だけでは不公平なので、「タイムズ高等教育順位2012年版」を見ると、1位カリフォルニア工科大学、2位ハーバード大学、3位スタンフォード大学とアメリカの大学が上位に名前を連ね、アメリカやヨーロッパ以外で最初に登場するのは30位に東京大学、34位に香港大学、37位にメルボルン大学ですから、調査による差異はそれほどないと言えます。

 もう一つの教育については、スイスにあるIMDという調査機関が、それぞれの国の大学教育が社会の需要に応えているかというアンケート調査をしています。
 この2012年版によると、1位スイス、2位シンガポール、3位フィンランド、4位カナダ、5位イスラエルと続きますが、日本はなかなか登場せず、何と調査対象59カ国中54位です。
 アンケート調査ですから具体的な根拠がある訳ではありませんが、現在の日本の大学の状況を反映していると思います。

 どうしたら良いかということで、いくつかの方法を考えてみたいと思います。
 第一は入学の対象範囲を拡大することです。
 入学者のうち25歳以上の学生の比率はOECD加盟国の平均で20・6%ですが、日本は2%でしかありません。
 大学教師をしていた時代に、社会人になってから改めて大学に入学した学生を相当数教えたことがありますが、それほど目的もなく勉強するという一般の学生と、仕事を一旦中断して勉強するという社会人とは意気込みがまったく違うということを経験しました。
 このような学生が増えれば、学生の対象となる母数も増えるし、高等遊園地と言われる大学の雰囲気も変わってくると思います。

 もう一つのOECD諸国と比較した日本の特徴は退学者比率が異常に少ないことです。
 2005年の数字ですが、1位のイタリアは55%、2位のアメリカが53%、3位のニュージーランドが46%で、OECD諸国の平均が31%であるのに、日本は最下位で10%です。
 これは日本の学生が熱心に勉強しているからではなく、ほとんど勉強しなくても卒業できてしまうのが現状だからです。
 ある放送局に月2回行きますが、毎回、大学4年の女性が出迎えてくれるので、学校へ行かなくていいのかと聞くと、卒業論文も書かなくていいので、4年生のときはほとんど大学に行く必要がないということです。
 このような学生を卒業させるために、多額の補助金を学校に支給しているのも疑問です。

 この11月に日本経済新聞が発表した、すでに社会人になっている人が自分の出身大学に満足しているかを調査した「大学満足度調査」によると、上位になった大学の評価される項目は「社会的イメージが良い」が大きな比率を示しています。
 それは就職に有利だという気持が反映している訳ですが、やはり大学本来の役割である教育や研究が評価される必要があります。
 最近、優秀な高校生は日本の大学を受験せず、最初から海外の優秀な大学を受験しはじめています。
 今日、御紹介したような、日本のガラパゴス大学を根底から変革する努力をしない限り、日本の大学は崩壊していくことになりかねないと思います。





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