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論文

 最近、ルームシェアリング、オフィスシェアリング、カーシェアリングなど、シェアリングという言葉が流行しています。
 これは「共有」という意味ですが、私がこの言葉を最初に聞いたのは、50年近く前で「タイムシェアリングシステム(TSS)」という言葉でした。
 当時、大学に大型コンピュータが導入され、自分で書いたプログラムを自分でパンチカードにして、計算機センターに持っていくと、1日後か2日後に計算結果が紙に印刷されて返却されるという時代でした。
 ところがアメリカのコンピュータ雑誌を見ると、マサチュセッツ工科大学では自分の部屋に置いた端末装置から通信回線を経由して大型コンピュータにプログラムを送ると、しばらくして計算結果が端末装置に戻ってくるという「プロジェクトMAC(マルチプル・アクセス・コンピュータ)」という計画が進んでいるという記事がありました。

 日米格差に驚いたものですが、これが「タイムシェアリング」といわれるシステムで、人間が端末装置から情報を入力する速度とコンピュータが情報処理をする速度には雲泥の差があるので、千手観音のように多数の人間を相手に計算を引受けるという構想でした。
 その結果、60年代後半にはアメリカ全体で20社ほどがタイムシェアリングで計算サービスをおこなう時代となります。
 そのなかで最大のサービスが「GEインフォメーション・サービシズ」で、世界35カ所にセンターを設置して、そこへ端末装置から通信回線を経由してプログラムを送ると、アメリカのコンピュータセンターに転送され、そこで計算して手許に計算結果が即座に戻ってくるというサービスでした。

 アメリカでコンピュータの利用が減る夜は日本は昼で利用が増えますから、高価な大型コンピュータが24時間フル稼働するということになります。
 当時はインターネットが開放されていませんでしたので、電話の受話器を音響カプラーという装置に嵌め込んで、ガーピーという音響で信号を送るという時代でしたが、24時間いつでも大型コンピュータが自宅で利用できるということで、熱中し、日本ではベストテンに入る個人ユーザーでした。
 後で分かったことですが、そのときアメリカで同様に熱中していたのがビル・ゲーツだったというエピソードもあります。

 しかし、パーソナルコンピュータとインターネットの出現で、タイムシェアリングは消滅し、現在の社会に登場してきたのが、オフィスシェアリング、ワークシェアリング、カーシェアリングなどです。
 オフィスシェアリングは夜間にオフィスを使わない会社が夜間は他の会社にオフィスを貸すという例もありますが、普及しているのは1つの机を何人かの社員で共有するという仕組です。
 会社の営業担当の社員は会社の机の前にほとんど座っていることはないので、特定の机を与えるのではなく、会社に居るときは大部屋の空いている机に座って仕事をする仕組で、外回り社員の多い会社には浸透しています。
 ある日本の大企業では重役にも専用の机は無く、会社に到着したとき、大きな円卓の空いている席に座って仕事をしています。
 情報通信システムの普及で座る場所が関係しないという事もありますが、秘書も共通ですから人数も減るし、どの重役がどのような仕事をしているかという情報もシェアリングできるという効果もあるようです。

 その机を共有することの延長としてワークシェアリングがあります。
 失業率が高くなったときに、一つの仕事に複数の人を割当て、雇用を増やすという考え方です。
 これを社会全体で進めている国の代表がオランダで、80年代前半にオランダ病といわれる大不況が発生し、その対策としてワークシェアリングを導入し、雇用を増大させました。
 そのために労働法を改正して、フルタイムの労働者とパートタイムの労働者の間で、時間給、社会保険加入、雇用期間、昇級などに差を設けることを禁止するなどの制度改革をしました。
 その結果、1983年には18・5%であったパートタイム労働者比率は2001年に33%になり、失業率は14%から2・4%に減り、労働時間も1600時間から1345時間に減るという劇的な変化が発生しています。

 現在、日本で注目されているのがカーシェアリングです。
 仕組はサービス会社に1000円程度の手数料を支払って会員カードを発行してもらい、毎月2000円程度の基本料金も支払いますが、この2000円は利用料金に充てられます。
 利用するときは利用したい場所の近くの駐車場を探して、あらかじめ予約をし、その時間に駐車場に行き、自動車に会員カードを接触させるとドアが開き、内側にあるカギでエンジンをかけるという仕組です。
 大略の料金は15分単位で200円程度の時間料金と1kmごとに10数円の距離料金で、レンタカーのようにガソリンを満タンにして返却する必要はありません。
 1日2時間、毎週2回利用すると1万4000円から1万5000円になりますが、都心の数万円する駐車場の料金や保険料、税金、ガソリン代を考えれば大幅に安くなります。
 このような仕組は1980年代にヨーロッパから始まり、現在、世界では18カ国の600都市で運営されていますが、日本でも車両台数が昨年から今年にかけて1・7倍に増えて約6500台、会員も2・3倍に増えて約17万人と一気に増加しています。

 これは個人にとっては、先程ご説明したように自動車を所有するよりも10分の1程度の費用で利用できるという経済的利点がありますが、社会全体でみれば使われていない資源を有効に利用できるという利点があります。
 自宅のコンピュータでも1日に多くても数時間しか使っていないのですが、その使っていない時間を外部からアクセスして使用する「SETI@home」というプロジェクトがあり、200数10カ国の28万台ほどのコンピュータを駆使して宇宙の未確認生命体を探査していました。
 この手法は現在「BOINC(バークレイ・オープン・インフラストラクチャー・フォー・ネットワーク・コンピューティング)」というプロジェクトに発展し、天文学から地震学、分子生物学、アニメーションの制作など広範な分野に使用されています。
 さらに重要なことは、分かち合うという精神が社会に浸透することではないかと思います。
 世界では数億人の人が食料不足に直面していますが、一方で同数の人が飽食で肥満に苦しんでいます。
 このような矛盾を解決する意味でも、シェアリングはこれからの社会のキーワードになると思います。





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