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論文

 環境省が作成しているレッドデータブック、正式名称「日本の絶滅のおそれのある野生生物」は、1991年から作成され、5年程度ごとに改訂されていますが、1995年から始まった改訂が2006年に終了し、つい1ヶ月ほど前に、調査中の一部を除いて2度目の改訂版が発表されました。
 これは絶滅の危機にある野生生物を6段階に分類しているのですが、もっとも上位は「絶滅」、かつて日本に棲息していたが絶滅してしまった動植物で、動物ではニホンオオカミ、エゾオオカミなど44種、植物で66種にのぼっています。

 その次が「野生絶滅」で、野生では絶滅したけれども、飼育されて何とか生き残っている生物で、代表がトキなど動物で2種、植物で12種になります。

 その次が「絶滅危惧」、絶滅の危険性が高い生物で、その程度によって3段階に分かれ、動物で約1300種、植物で約2300種指定されています。

 最後が「準絶滅危惧」で、現時点では絶滅の危険性が少ないが可能性はあるという生物で、動物で921種、植物で422種が指定されています。

 これ以外に情報が十分に無いので評価できないという動物が約300種、植物が約200種になっています。
 それらを合計すると、動物で2452種、植物で2953種が、程度は様々ですが、生存の危機に直面していることになります。

 今回、話題になったのは、1979年に高知県で見かけられたのを最後に、それ以後、見かけたという情報がないニホンカワウソがついに「絶滅」とされ、また我々の食料となっている身近な「ハマグリ」「ミルガイ」「ニホンウナギ」などが絶滅危惧種に指定されたことです。
 「ハマグリ」は50年前には年間3万トンは漁獲量がありましたが、最近では30分の1以下になり、「ニホンウナギ」の稚魚である「シラスウナギ」も50年前の年間230トンから、最近では数トンになり、親ウナギも3400トンから15分の1以下になっています。
 長野県の諏訪湖ではやはり50年前には年間数トンの漁獲があったのに、最近では20から30匹がやっとという状態になっています。
 環境省は産業の心配をしているわけではないので、絶滅危惧種に指定しても禁漁にする権限はないのですが、このような状況なので、漁業組合などが自主的に禁漁をしているほどです。

 絶滅すると何が問題かというと、生物の世界は多種多様な生物が複雑に関係するピラミッドを形成していますが、その一部が絶滅して地球から消滅するということはピラミッドを維持している石が抜けていくという状態に相当します。

 日本には動物だけで3万5000種以上が存在しますが、そのうち7%程度に相当する2400種類が抜け落ちそうだということになると、いつかピラミッド全体が大崩落するということになりかねないというわけです。
 実際、北海道では明治時代になって入植してきた人々がエゾシカを乱獲したために、エサが不足したエゾオオカミが放牧されているウマを襲うようになり、ストリキニーネを混ぜた肉を撒いて、わずか10年程度で3000匹近くを駆除し絶滅させてしまいました。
 その結果、天敵のいなくなったエゾシカが増加しすぎて、食害など別の問題が発生するということになっています。

 ここまでは何となく納得という理屈ですが、絶滅は必ずしも問題だけではなく、利点もあるという意見もあるのです。
 現在から7億年から6億年前に、赤道付近も含めて地球全体が氷に覆われて真っ白になるスノーボールアース(全球凍結)」という現象が発生しました。
 当然、当時の原生動物の大半が絶滅するという事態になりましたが、スノーボール状態が終了した6億年前頃から、わずかな生残った生物が新しい環境に適合して一気に開花し、飛躍的に進化した生物が登場し、地質時代の名前をとって生物のカンブリア爆発といわれる現象が発生します。

 さらに約2億5000万年前のペルム紀という時代の最後に、地球史上最大の火山活動によって気候が激変し、すべての生物の90%から95%が絶滅するという地球史上最大の大量絶滅が発生しました。
 しかし、その気候変動が収まると、海中ではアンモナイトをはじめとする海生生物が爆発的に増え、地上では生残った恐竜が三畳紀、ジュラ紀を通じて繁栄し、恐竜時代になります。
 ところが6500万年ほど前にメキシコのユカタン半島に巨大な隕石が落下し、全盛を誇っていた恐竜が絶滅し、代わって哺乳類が主役となる時代になり、現代の生物多様性時代になります。

 これらを見てみると、古い生物が大絶滅した後には新しい生物が大躍進するという歴史が繰り返されていることになります。
 これは数千万年という単位だけではなく、数年の単位でも発生しており、シベリアのタイガという針葉樹林は600万平方キロメートルもありますが、多い年には日本の面積の半分に近い20万平方キロメートルの森林が山火事で消滅しています。
 これは環境破壊のようですが、この火災によって古い森林が新しい森林に代わる世代交代が行われ、森林が維持されているといわれています。
 オーストラリアでも頻繁に森林破壊が発生しますが、それによってユーカリの種の発芽が促進され、パンクシアという樹木の世代更新が促進されるという結果になります。

 ここから一気に一般社会の問題に飛躍しますが、日本が大発展したのは明治維新と第二次世界大戦後です。
 共通しているのは、明治維新の場合には幕藩体制という260年間継続した体制が崩壊して、その陰で耐えてきた地方の下級武士階級が一気に躍進して維新を実現させ、第二次世界大戦後は財閥解体や公職追放によって戦前の権力が崩壊し、ホンダやソニーが象徴する新しい世代が立上ったことです。
 一方、先日の自由民主党の総裁選挙を見ると、5人の候補すべてが2世議員でしたし、現在の国会議員でも43%が世襲議員です。
 ここに現在の日本の停滞の一因があるという気もします。
 自然環境でも社会環境でも飛躍するためには破壊と創造が必要なのだということです。





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