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論文

 今年の夏、日本もそこそこに暑い夏でしたが、北半球は各地で異常な旱魃になり、アメリカ、ロシア、中国、インドなどの世界の穀倉地帯で穀物の大幅な減収が予想されています。
 アメリカでは農業地域の6割近くが旱魃状態になり、29の州で「自然災害地域」の指定がおこなわれ、オバマ大統領やビルサック農務長官が現地視察に訪れているのは、1956年以来最悪の状態になっているからです。
 ロシアでも連邦の州のうち10以上の州で非常事態が宣言されています。
 当然、穀物の先物価格に反映し、大豆は2010年には1ブッシェル当たり10ドル前後でしたが、最近では17ドル程度、トウモロコシも4ドル程度から8ドルを突破する状態になっています。
 それらを総合的に反映した指標である、国連食糧農業機関(FAO)が発表している穀物価格指数を見ても、2002年から2004年の価格が安定していた時期を100として、現在は2007年から2008年にかけての高値の時期に匹敵する250を突破する数字になっています。

 このような状況になると、いつも登場するのが食料自給率の低い日本は大丈夫かという議論です。
 そこで今日は食糧自給率から見た日本の食糧問題を考えたいと思います。
 食糧自給率はおおまかには国民が必要とする食糧のうち、国産の食糧が占める割合ですが、これには2種類あります。
 ひとつはカロリーベースと言われる数字で、様々な食糧をカロリーに換算して計算する方法で、もう一つが生産額ベースと言われる数字で、様々な食糧を生産額で合計して計算する方法です。
 例えば、8月16日に、農林水産省が発表した2011年度の食糧自給率は39%という数字や、2020年度までに50%に引き上げるという目標はすべてカロリーベースの結果です。

 そして日本の39%という数字は先進諸国の中で最低であると危機が煽られたり、2年連続で40%を切っているので、民主党の個別所得補償は効果が現れていないなどと批判されるのですが、不思議なことに世界でカロリーベースの食糧自給率を発表しているのは日本だけなのです。
 しかし、オーストラリアは173%、アメリカは124%、フランスは111%などという数字が出回っているではないかというご意見があると思いますが、それらの数字は日本の農林水産省が外国の資料を基に独自に計算して発表している数字なのです。
 日本以外の世界の国々が発表している数字は生産額ベースのもので、日本の農林水産省も計算して正式に発表していますが、もっぱら日本で報道されるのはカロリーベースの数字ばかりです。

 なぜ日本以外の国々がカロリーベースを無視しているかというと、不合理な点がいくつもあるからです。
 カロリーベースの食糧自給率の計算方法は、1人1日あたりの国産食糧の供給カロリーを1人1日あたりの供給カロリーの合計で割算するので、一見合理的な感じがします。ところが2つの不合理があります。

 第一は野菜のようにカロリー単価が低い食糧は自給していても、穀物や肉類のようにカロリー単価が高い食糧の輸入が多いと数字が低めになってしまうことです。
 第二は分母の構成に問題があるのです。これは国産食糧の供給カロリーと輸入食糧の供給カロリーに消費されなかったり廃棄されたりしている食糧のカロリーという3つの数字を合計したものです。
 したがって、廃棄する食糧が増えるほど分母は大きくなりますから、自給率の数字は小さくなってしまうわけです。
 参考までに、廃棄分を除いて計算してみると、数字は簡単に56%になり、2020年の目標を突破してしまいます。

 このような不合理があるため、世界は生産額ベースでしか計算しないわけですが、農林水産省も計算はしており、2011年度の概算数字は66%で、9年度、10年度は70%に到達しています。
 そして農産物の1人あたり輸入金額でも、日本はドイツやイギリスの半分程度で、日本の農業の実力は十分にあるということになります。
 なぜこのようなガラパゴス的な数字が日本で流布しているかには諸説ありますが、根強い意見は食糧自給率を低くして国民の危機意識を煽り、それによって農業振興予算を獲得したい農林水産省や農業協同組合などの思惑があるとともに、記者クラブ制度によって役所の情報を検証もなく報道する、マスメディアのせいだというものです。
 だからといって現状で結構だというわけではなく、国民も考え直すべき点はいくつもあります。

 第一は廃棄食糧です。
 これについては、これまでも紹介したことがありますが、2008年の日本の食品廃棄物は1851万トンで、その58%の1072万トンが家庭で廃棄されている食品で、これらの95%は焼却や埋立処分されています。
 参考までに食糧不足の国々に送られている食糧援助は毎年1000万トン前後ですから、無駄の規模が分かると思いますし、減らしていけば、先程説明したように食糧自給率も向上することになります。

 第二は日本人の食生活の内容の再検討です。
 2010年頃に、日本人の食生活に歴史的逆転がいくつか発生しました。
 まず2010年に1人が1日に食べる肉の量が魚の量を抜き、翌年には肉を購入する家計支出が魚の家計支出を上回りました。
 そして2010年にはコメを購入する家計支出がパンの家計支出を抜くということにもなりました。
 1ヶ月ほど前に紹介しましたが、アメリカでは食べてはいけないと言われる食事の方向に日本は進んできたのです。
 まだ日本的な食事が残っていた1965年にはカロリーベースの自給率は73%、金額ベースでは86%でしたが、それから半世紀、西洋風になった2011年には39%と66%に低下しています。
 改めて食糧自給率と食事の内容を考えてみるべきだと思います。





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