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論文

 最近、世界で動きが始まっている木造超高層建築の状況を紹介したいと思います。
 人間は『旧約聖書』に書かれている「バベルの塔」が象徴するように、昔から高い建物を作ってきました。
 古代にはピラミッドのような墳墓の建築、中世には教会堂のような宗教建築、19世紀になるとアメリカを中心としてオフィスビルが高層を目指してきました。
 当然、それぞれの地域に豊富に存在する材料を使用するわけですが、地中海世界ではローマ時代に森林を大量に伐採してしまったので石材を使い、森林の豊富な北欧やロシアでは木材を材料としてきました。
 木造の高層建築に限定すると、ロシア北西部のカレリア共和国にあるキジ島には14世紀に建てられた最古の木造教会建築をはじめとして数多くのロシア正教の教会建築があり、世界文化遺産に登録されていますが、最高の高さは37メートルの建物です。

 日本でも神社や寺院は木造で造られ、とりわけ五重塔では現在も高い塔が残っています。
 最高は京都にある東寺の54.8メートル、2位が奈良にある興福寺の五重塔で50.1メートル、3位が京都にある法観寺の五重塔で49メートルです。
 これらは塔ですが、幻の高い建物が記録に残されています。
 出雲大社です。現在の本殿は高さ24メートルで、これでも7階建の建物に相当する巨大な建造物ですが、平安時代には2倍の48メートル、さらに神話時代には96メートルであったと伝わっています。
 現在のオフィスビルにしてみれば24階建になりますから、これは神話として大袈裟に伝わっているのだと考えられていました。
 しかし2000年の発掘調査によって、直径1.4メートルの丸太を3本束ねた柱の根元が発掘され、48メートルはほぼ確実、場合によっては96メートルもあったかもしれないと考える学者もいます。

 ところが最近になって、住宅やオフィスとして木造の高層建築が実際に立てられるようになってきました。
 すでに実用になっている建物としては、カナダのバンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学の学生寮「ブロック・コモンズ」は400人の学生が生活できる17階建の建物で、すでに学生が居住しています。
 もちろんすべてが木材だけでできているわけではなく、基礎やエレベータや階段を収めるコアと言われる部分は鉄筋コンクリートで作られ、2時間の耐火性能を実現するために柱は石膏ボードが貼られていますが、かなりの部分が木材で構成されています。
 これ以外に低層ではすでに実現している建物はいくつもあり、ニューヨークのブルックリンには6階建のオフィスビル、ミネアポリスには7階建のオフィスビル、カナダのケベックには12階建の集合住宅が完成しています。

 しかし、計画段階になると、はるかに高層の木造計画が構想されています。
 オランダのアムステルダムには21階建の集合住宅、カナダのバンクーバーには30階建のオフィスビル、スウェーデンのストックホルムには34階建の集合住宅が計画されています。
 ニューヨークのマンハッタンにあるセントラルパークには高さ220メートルの「セントラルパーク・タワー」、 ロンドンには高さ300メートル、80階建の木造ビル「オークウッド・タワー」、シカゴの都心にも80階建の木造オフィスビル「リバービーチ・タワー」が計画されています。

 これらはかなり具体的な計画ですが、さらに大胆な計画が日本で検討されています。
 一つは住友林業が検討している「W350計画」で、70階建、高さ350メートルの木造超高層ビルを2041年に実現する計画です。
 総工費は6000億円ですが、三菱地所などが東京駅の北側で建設を開始し、2027年に完成予定の高さ390メートルの建物が5000億円ですから、それ以上ということになります。
 さらに大規模な構想は大林組が2017年に発表した「LOOP50」で、人口1万5000人、約5500世帯が生活する木造の都市を建設する計画です。
 内部にはオフィス、商業施設、学校、病院などもあり、床面積の合計が75万平方メートルですから東京ドームの建築面積の16倍になります。

 最近になって一気に木造超高層建築が登場してきた背景は2つあります。
 第一は技術開発の進歩です。
 日本の五重塔の心柱は長さ50メートルの一本の丸太ですし、出雲大社で発掘された柱は直径1.4メートルでおそらく50メートル以上の丸太を3本合わせた材料です。
 現在、そのような材木を入手することは至難の技ですが、最近、CLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)という集成木材を生産する技術が実用になり、高層建築も可能になってきたのです。
 これは木材の繊維方向を縦横に交差させて貼り合わせたもので、大きさや形が自由になり、強度も一本の木材よりも強いという特徴があります。
 したがって、直線だけではなく、曲線を使った建物も可能になります。

 第二は環境問題です。
 木材は空中の二酸化炭素を吸収して固定したもので、燃やしてしまえば、また空中に二酸化炭素を放出することになりますが、100年単位で建物の木材に閉じ込めておけば、空中の二酸化炭素濃度を減らすことに役立ちます。
 例えば、最初にご紹介したブリティッシュ・コロンビア大学の学生寮では2233立法メートルの木材を使用し、243トンの二酸化炭素を固定していますし、ミネアポリスの7階建のオフィスは3600トン、住友林業の350メートルの超高層建築では戸建木造住宅の8000棟分に相当する18万5000立法メートルの木材を使用して、約10万トンの二酸化炭素を固定すると計算されています。
 これは従来の鉄骨造の建物よりも二酸化炭素排出量を22%も減らすことになります。
 最大の懸念は火災ですが、現在の日本の木造建物は14階までしか基準がありませんが、下層部分では2時間の耐火性能が決められており、外国でも同様の耐火性能を定めている例が大半です。
 これについては、すでに対策が可能になっていますが、超高層になれば新しい基準が必要になると思います。しかし、技術的には十分対応可能です。
 日本は森林面積の比率が約7割であるにもかかわらず、木材の自給率は4割以下です。この眠っている森林資源を利用するという点でも興味ある動向です。





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