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論文

 先週末に厚生労働省が昨年の日本人の平均寿命を発表しましたが、男性は79・4歳で世界8位、女性は85・9歳で世界2位になったということです。
 男性は昨年より0・1歳短くなり、女性も0・4歳短くなったということですが、女性の場合、26年間、維持してきた世界一の長寿の座を香港に明け渡したということで、ニュースになりました。
 この原因は想像されるように、昨年3月の東日本大震災で多数の方々が亡くなられた影響が大きく、男性で0・26歳、女性で0・34歳も押し下げたと推定されています。
 したがって、この影響がなければ、平均寿命が下がっている訳ではないし、男女とも1位になった香港は金持層が多いので、受けている医療水準も高く、それほど問題にすることではないかもしれません。
 しかし、日本が考えなければならない問題があります。健康寿命です。

 これは2000年に国連の組織である世界保健機関(WHO)が提案した概念で、病気になって自立した生活ができない期間や、高齢になって介護を受けなければ生活できない期間を平均寿命から引いた数値です。
 簡単に言えば、他人の世話にならず生活できる年数というわけです。
 2010年の数字ですが、日本は男が73歳、女が78歳で、男女とも世界一ですから問題なさそうですが、実は問題があります。
 平均寿命から健康寿命を引算した数字は他人の世話になる年数ですが、この介護年数が長いと、本人も辛いし、家族や社会の負担にもなります。
 1980年代から、日本でPPK運動、ピンピンコロリ運動が提唱されるようになりましたが、だれもが死ぬ直前まで元気で生活できることを希望していますから、他人の世話になる生活が長くなるのは希望しないことです。

 そこで2001年から2010年までについて健康寿命を調べてみますと、男性の場合、69・4年から70・4年と1年増えていますが、平均寿命も増えていますから、結果として、介護年数が8・7年から9・2年に増えているのです。
 女性についても健康寿命は72・7年から73・6年に増えていますが、介護年数も12・3年から12・8年に増えています。
 一方、アメリカは、2010年に男が8年と女が9年で、日本よりかなり短い年数です。

 もう一つ、アメリカと日本が逆転した数字があります。癌による死亡率です。
 すべての癌について、10万人あたりの死亡者数は1997年にはアメリカが209人、日本が218人でしたが、2003年にはアメリカ192人、日本245人と、アメリカが減ったのに、日本は大幅に増えてしまいました。
 男性の肺癌の場合、アメリカは1997年には72人、日本は58人でしたが、2003年にはアメリカは62人と10人も減る一方、日本は68人と10人も増加し、6年間で大逆転になりました。
 女性の卵巣癌についても、日本は97年から2003年まで6・6人で変化がありませんが、アメリカでは10・4人から9・7人に減少しています。
 細かい数字はともかく、結論は、アメリカは介護年数も癌による死亡率も、今日は紹介しませんでしたが、心筋梗塞による死亡率もすべて低下させてきたのに、日本は増加させてきたということです。

 このアメリカの改善の原因は1975年まで遡ります。
 フォード大統領が「アメリカの進歩した医学と巨額の医療費の投入にもかかわらず、国民の病気が増え続け、このままでは医療負担のためにアメリカが滅んでしまうので、根本的な対策を検討してほしい」と上院議会栄養問題特別委員会を設置し、ジョージ・マクガバン上院議員を委員長として2年間の調査を命じます。
 1977年に発表された5000ページの報告書の結論はアメリカ人の肉食中心の食事内容に原因があり、日本のような魚と野菜中心の食生活に変える必要があるということでした。
 そこで1979年から対策を検討しはじめ、90年に「ヘルシーピープル2000」という食事改善計画を策定し、その内容を10年ごとに改訂していくということにしました。

 その一例として、一日350グラムの野菜を食べるという目標が設定されました。
 その結果、1988年には247グラムであった野菜摂取量が、93年には266グラム、98年には279グラム、2003年には293グラムと、まだ目標には到達していませんが、順調に増加してきました。
 それとは対照的に、日本では88年には305グラムであったのに、年ごとに低下していき、2003年には263グラムまで減って、アメリカに逆転される事態になりました。
 そして魚の消費も95年には最高の1日107グラムでしたが、2007年には80グラムになり、肉の消費に抜かれるということになりました。
 アメリカが理想的な食事をしている日本を見習えと努力してきたのに、日本は真似してはいけないアメリカの食事を目指すようになったのです。
 そこで厚生労働省も「ヘルシーピープル2000」を真似して、2000年に「健康日本21」を策定し、生活習慣病を予防するための食生活や体育活動を提言しましたが、その効果は十分には現れず、これまで御紹介したように、アメリカに逆転されてしまったという訳です。

 参考のために「健康日本21」で掲げられている主要な目標を御紹介しますので、食事を改善していただければと思います。
 食生活については、野菜を1日350グラム以上、そのうち緑黄色野菜を120グラム以上、豆類は100グラム程度、乳製品を130グラム程度、食塩は10グラム未満が掲げられています。
 また食習慣として、朝食を食べない人の割合は中学生や高校生ではゼロ、20代から30代では15%以下にする、アルコールは未成年者の飲酒をゼロ、多量に飲酒する人を20%削減するなどもあります。
 健康を損なうということは、個人にとっても様々な問題をもたらしますが、国家にとっても医療費が増大する、労働力が減少するなどの損失になります。
 ぜひPPKを目指していただければと思います。





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