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論文

 日本全体で空家が増加しており、今後の大きな社会問題になるのではないかという話題を御紹介したいと思います。
 ご承知のように、日本の人口は2005年の1億2780万人から昨年までほとんど横ばいですが、今後は減少していくと予測されます。
 世帯数は総数では増えていますが、夫婦のみとか夫婦と子供、父親か母親と子供という核家族が2005年の国勢調査から2010年の国勢調査の期間に80万世帯以上増え、一人暮らしという単身世帯は230万世帯も増えている一方、3世代以上が同居する世帯は65万世帯も減っています。
 その一方で、住宅の建設戸数はバブル経済の絶頂期であった80年代後半の年間170万戸からは減少し、最近では80万戸と半分くらいになっているものの、増え続けています。
 しかも2008年には「長期優良住宅普及促進法」が成立し、通称「200年住宅」を普及させていこうという動きになっています。

 人口が横ばいで、核家族が増え、子供は一人っ子が多いので、結婚すれば両方の実家の家が選択でき、しかも長期間使用できる住宅が建設されていくという条件を組合わせると、結果は使われない住宅、すなわち空家が増えるという3段論法になります。
 空家については総務省が、5年ごとに「住宅・土地統計調査」を行っていますが、多数の住宅が戦災で消滅した戦後は、世帯数より住宅数が少なく、住宅不足時代でした。
 それが数字の上で解消したのが1968年で、住宅数が世帯数を上回るようになりましたが、それ以後、住宅数は急速に増え、現在では世帯数の1・16倍の住宅が存在する時代になりました。
 それとともに空家も増え、2003年には空家数660万戸、空家率12・2%、2008年には760万戸で13・1%になりました。

 もちろん、すべてが普通に想像される空家ではなく、まず二次的住宅といわれる、別荘などとして利用されているが、多くの時間は空家という住宅が41万戸、賃貸用住宅であるが調査時点で借り手が決まっていないとか、売りに出しているが買い手が見つかっていない住宅が450万戸ほどあり、本当に空いたままになっている家は270万戸です。
 しかも、今後の住宅建設の動向と世帯数の動向を勘案して、国土審議会が2050年までの空家の増加傾向を推計していますが、もっとも増える場合には現在の2倍の1550万戸の空家が発生するという結果になっています。
 現在の平均世帯人数2.46人を掛算すると、3800万人が生活できる住宅が空家になっていることになります。

 昨年の大震災を想定すると、その程度は社会に予備があってもいいのではないかとも考えられますが、色々な問題が発生しています。
 第一は空家になっている住宅は建築されてからの経過年数が長い古い家が多いので、廃墟になる可能性が高いことです。
 国土交通省が2010年に行った「空家実態調査」によりますと、20年以上経過した空家が全体の68%、3分の2以上になっていますから、十分に維持補修されていなければ、相当傷んでいることになりますし、人が住んでいなければ余計に傷みが早いことになります。
 それについては「土地問題に関する国民の意識調査」にも反映しており、身近に感じる土地問題の1位が「空家・空地が目立つこと」で41%、3位が「老朽化した建物が密集し災害時に不安」で23%になっています。

 第二は「限界集落」ならぬ「限界住宅地」が増加して、地域社会が維持できなくなることです。
 限界集落は集落の人数が減り、高齢化も進み、共同体の冠婚葬祭などが維持できないという状態ですが、都会にあっても、地域に空家が増えていくと、地域の管理や維持が出来なくなるということです。
 このような問題に対処するために、老朽家屋を解体するために50万円から100万円の補助金を出す制度を作り、空家の流通を促進するための「空家バンク」を設立して情報を提供している自治体も増えてきました。

 しかし、なかなか上手く機能していません。その背景にあるのが日本独自の土地と建物についての神話と税制です。
 『方丈記』の冒頭にあるように、住居は淀みに浮ぶうたかたのようなものであるという日本人の住居観のため、土地と違って住宅は不動産という意識が希薄でした。
 そのため、土地こそ財産という土地神話が存在し、それが税制にも反映し、住宅が建っている土地の住宅を撤去してしまうと固定資産税が6倍になるという不可思議な制度になっています。
 建物には価値がなく、土地にこそ価値があると国家も認めているために、売れるかどうか分からないのに、空家を解体すると税金が増えるという矛盾が発生するので、そのまま放置されるというわけです。

 今後、確実に人口が減っていくと、空家も確実に増加していきますが、その結果発生する外部不経済を回避するためには、対策を考える必要があります。
 その一例が2住居居住とかマルチハビテーションいう考え方です。
 販売や賃貸のために一時的に空家になっている以外の空家は圧倒的に地方圏に分布しています。
 そこで都会の人が、そのような住宅を買うか借りるかして、一年にときどき別荘生活をするという考え方です。
 別荘地の別荘では地域の人々との交流がありませんが、空家であれば、様々な交流があり、別荘地とは違う生活が楽しめます。
 民俗学者の折口信夫は、外部から来訪する人を地域が歓待してきた風習が各地にあり、そのような来訪者を「客人(まれびと)」と名付けました。
 かつては生殖能力と情報提供能力が評価されたのですが、現在、生殖能力を発揮すると問題になりかねませんので、他の地域の情報をもたらす存在として地域の人々と交流すれば、空家対策とともに地域振興にもなるのではないかと思います。
 夏休みシーズンが近付いてきましたが、この空家増大の状況は、多くの人にとって別荘を持つチャンスかも知れません。





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