TOPページへ論文ページへ
論文

 日本でもっとも南に位置する都道府県はどこかというクイズがありますが、答えは沖縄県ではなく、東京都です。
 それは日本最南端にある沖の鳥島を含む小笠原諸島が東京都小笠原村になっているからです。
 その証拠が郵便番号で、小笠原諸島の郵便番号は「100−2100」で東京都千代田区と同じ「100−」で始まっています。
 ご参考までに、日本の最東端は南鳥島で、ここも東京都小笠原村です。
 この小笠原諸島の一部が1年前に世界自然遺産に登録されましたので、先週末に旅行してきました。
 そこで今日は小笠原諸島の最新事情などを御紹介する地理と理科の時間とさせていただきたいと思います。

 まずどこにあるかですが、東京都心からほぼ真南に海上を約1000kmを航海した一帯に30以上の小島がありますが、これが小笠原諸島の中心部分の小笠原群島です。
 今回は臨時の客船で行きましたが、普通に行く方法は6日に1回、東京の竹芝桟橋から出港する6700トンの「おがさわら丸」に乗船し、25時間30分すると小笠原群島で最大の父島に到着します。
 そこで最初の疑問は、このような大洋の真ん中になぜ島があるかということになりますが、火山で海底から登場したからです。
 日本には6000以上の島があり、世界には無数といっていい島がありますが、これらは出来た経緯から2種類に分けられます。

 ひとつは、かつて大陸の一部であった場所が切り離されたり、途中の部分が陥没して海になったために島になったもので、「大陸島」と言われます。
 本州も四国も沖縄も大陸島ですし、世界ではニュージーランドやマダガスカルも大陸島です。
 もうひとつは海底から火山が爆発して、積み重なった溶岩が海の上まで頭を出している陸地で、これは「海洋島」と言われます。
 その代表はハワイ諸島やガラパゴス諸島です。
 小笠原群島も火山活動でできた海洋島で、登場した年代は明確ではありませんが、数百万年前と推定されています。
 そこで第二の疑問ですが、海底から登場した火山ですから、最初は生物が居ないはずなのに、なぜ様々な動物や植物が繁殖しているかということです。

 これには「3W理論」という分かりやすい説明があります。
 第一のWは「WIND」すなわち空中を飛び、島に到着した生物です。
 鳥やコウモリは自分で飛んできますし、トンボやチョウや綿毛のついた種子などは風に流されて到着する可能性があります。
 第二のWは「WING」すなわち鳥やコウモリなど、飛んでくる動物が運んできた動物や植物です。
 トリが木の実を食べ、その糞に含まれていた種子が島に落下するというような場合です。
 第三のWは「WAVE」すなわち海流に乗って島に辿り着く場合です。
 海水でも死なない種子をもつ植物は流れ着きますし、トカゲなどは流木に乗って到着する可能性がありますし、カミキリムシなどは丸太の内部に潜んでいますから、そのまま流れ着く場合もあります。

 ところが最近、「1H」が加わるようになりました。「HUMAN」すなわち人間が運んでくるというわけです。
 人間の靴や服に種子や幼虫が付いてくる場合や、荷物に付いてくる場合、さらには家畜のように意図的に運んでくる場合があります。
 ニュースの要点は「5W(When/Where/Who/What/Why)+1H(How)」ですが、島の生物は「3W+1H」というわけです。

 次の疑問は、すべて外部から辿り着いた生物なのに、小笠原群島もガラパゴス諸島も、その島にしかいない生物がいるからという理由で世界自然遺産に登録されるのは何故かということです。
 実際、ガラパゴス諸島には「ガラパゴストマト」「ガラパゴスウチワサボテン」などの植物や「ガラパゴスアシカ」「ガラパゴスペンギン」などの動物のように、植物の43%、鳥類の24%、昆虫類の50%がガラパゴス諸島にしかいない生物です。
 小笠原群島も「オガサワラグミ」「オガサワラモクマオ」などの植物や「オガサワラオオコウモリ」「オガサワラタマムシ」などの動物のように、植物の37%、鳥類の73%、昆虫類の26%が小笠原群島固有の生物です。

 この説明には進化論を考え出したイギリスの生物学者チャールズ・ダーウィンの登場が必要です。
 ダーウィンはビーグル号というイギリスの探検船に乗船して、1835年にガラパゴス諸島に1ヶ月近く滞在しました。
 そのとき、「フィンチ」というトリのクチバシの形が島ごとに違うということに気付きます。
 そこでトリは、それぞれの島の食料事情や気候条件に適合するように変化してきたのだと思いつき、進化論を考え出したというわけです。
 小笠原群島の生物も最初は大陸や大陸島から辿り着いたのですが、亜熱帯気候の海洋島に何十万年も生活しているうちに、小笠原群島にもっとも適合した生物に変化してきたのです。
 小笠原群島に一般人が生活しているのは父島と母島だけですし、それもわずか180年前からです。
 したがって、ごく最近までは人間が関与しない自然界の中だけで生物が変化してきましたので、「進化の実験場」とも言われています。

 現在、小笠原群島の貴重な環境を保護するため、資格をもったガイドの案内がなければ入ることのできない地域が大半ですが、逆に説明がなければ、珍しい生物を見るというだけで、進化の秘密も分かりませんから、むしろ好都合です。
 「おがさわら丸」で島に到着すると、ほぼ3日間滞在することが可能ですから、日本に存在する進化の実験場を見学されるのは夏休みの旅行として良いのではないかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.