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論文

 かねてよりテレビジョン番組がつまらないという声は数多くあったのですが、なかなか明確な数字がありませんでした。
 ところが先週16日の朝日新聞に、3722名を対象にした「最近のテレビジョン番組はつまらない?」というアンンケート調査の結果が発表され、回答はつまらないと答えた人が75%、つまらなくはないと答えた人が25%ということで、4人に3人は現在のテレビジョン番組はつまらないと考えているということが分かったわけです。
 その内容は後で御紹介するとして、最初にテレビジョン視聴の最近の事情を調べてみたいと思います。

 NHK放送文化研究所が5年ごとに行っている「生活時間調査」の2010年版によると、テレビジョンを見る時間は1週間平均で214分です。
 これはアメリカの283分、イギリスの242分に比べると少なく、調査対象の17カ国では10番目ですから、それほどテレビ狂ではないようですが、NHKの調査は実際に見た時間であるのに、アメリカなどではスイッチを入れているだけという家庭も多いようで、正確な実体を反映していません。
 しかし、若い世代は確実にテレビジョンから離れつつあるし、それに影響されて広告費を支払う企業も同様の傾向にあります。

 まず若者のテレビ離れといわれる現象ですが、文化庁の「国語に関する世論調査」によると、生活に必要な情報をどの媒体から得ているかという質問に対して、2001年と2008年を比較すると、テレビジョンは20代で93%から81%、30代で92%から79%、60歳以上でも93%から90%というように、全世代で低下しています。
 反対に、インターネットは20代で25%から48%、30代で24%から55%と躍進し、60歳以上でも1%から7%に増加し、これも全年代で増加しています。
 この傾向は広告費に反映しており、テレビジョンは2005年前には2兆1000億円程度でしたが、昨年は1兆7000億円と20%も低下し、その反対にインターネットの広告費は4000億円程度から8000億円と倍増し、このまま進めば10年程度で逆転の可能性さえ出てきました。

 その背景にあるのが、最初に御紹介した番組がつまらないという評価です。
 朝日新聞の調査によると、3分野までの選択回答ですが、つまらない順番の1位が「お笑い番組」で56%、2位が「ドラマ」で37%、3位が「ワイドショー」で31%となっています。
 「ドラマ」については裏付ける数字があり、NHKの朝の連続テレビ小説の平均視聴率を見ると、1983年に放送された「おしん」は53%と異常な数字でしたが、それ以後も92年の「おんなは度胸」と「ひらり」の38%あたりが栄光の時代で、以後、低落の一途となり、2009年の「つばさ」と「ウェルかめ」が14%で史上最低となり、昨年の「おひさま」と「カーネーション」はやや回復したものの19%でした。

 NHKの大河ドラマも傾向としては似ており、1987年の「独眼竜政宗」の40%を頂点に、94年の「花の乱」は14%、2003年の「武蔵」は17%、NHKが派手に宣伝した「龍馬伝」でさえ19%という状態です。
 もう一つテレビジョン離れが進んでいるのが野球放送で、巨人戦のナイター中継は1983年の27%を頂点に下降の一途で、2006年には10%を割って9・6%にまで下降しました。
 それを裏付ける数字として、2007年にNHK放送文化研究所の「日本人の好きな見るスポーツ」の調査では、16歳から29歳の男性ではサッカーが1位で49%、プロ野球は2位で47%という結果になっていますし、同じ年代の女性でも、サッカーが4位で28%であるのに、プロ野球は6位で16%と大差になっています。

 テレビジョン業界としては、何とか転換を図る必要があると思いますが、現在の番組をつまらなくしている重大な要因が視聴率の呪縛だと思います。
 内容の適否を越えて、低俗でも視聴率が上がれば広告収入にも反映するという仕組が低俗番組を増加させていると推察されます。
 そこで以前から、視聴率ではなく視聴質とでもいうべき内容の評価をするべきだという意見があります。
 その一例が、4年前の2009年4月から「優良放送番組推進会議」という組織によって行われている調査です。
 これは日本の50社近い企業が集まって構成された組織で、毎月、報道番組とかスポーツ番組というように、特定の分野の番組に限定し、参加企業の社員が5段階の評価で採点し、平均点を発表しているものです。

 企業で働く社員の視点ですから、社会全般を代表しているわけではないということを考慮しても、その評価の順位と視聴率の順位は大きく違っています。
 いくつか紹介しますと、今年の5月にはキー局5局とNHK2局の放送している57のバラエティ番組を評価していますが、1位が「ソロモン流(テレビ東京)」、2位が「出没!アド街ック天国(テレビ東京)」、3位が「世界の果てまでイッテQ(日本テレビ)」でしたが、ビデオリサーチの視聴率では、それぞれ11位、8位、15位です。
 もう一つ、4月に放送された「ニュース番組」の調査では、優良放送番組推進会議の順位は「ワールドビジネスサテライト(テレビ東京)」「ニュースウォッチ9(NHK)」「クローズアップ現代(NHK)」の順番ですが、視聴率では23位、6位、8位となっています。
 詳しく知りたい方は「優良放送番組推進会議」で検索していただければ、過去の調査結果すべてが掲載されていますので、御覧いただければと思います。

 世界各国でテレビジョン番組をみる機会がありますが、ニュース番組でタレントと言われる人や歌手が解説しているのは日本だけですし、スポーツ番組の解説をタレントが行っているのも日本だけの特徴です。
 日本独自の文化だと強がる意見もありますが、やはり国際社会の中では完全なガラパゴス現象になっており、このままではテレビ離れが加速する一方だと思いますので、ぜひ再考していただければと思います。





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