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論文

 先週4日に、オウム真理教の元信者で重要指名手配されている高橋克也容疑者が勤務先の川崎市内の建設会社から突然逃亡しました。
 その直前に地元の信用金庫の窓口で預金を下ろす被疑者の姿、近所のコンビニエンスストアで新聞を購入して歩いている様子、市内のショッピングセンターでキャリーバッグを購入し、その後、黄色のタクシーに乗るときの様子などが、しばらくしてテレビジョンなどで紹介されました。
 それほど様々な場所に監視カメラが設置されていることに驚かれた方も多いと思います。
 そこで今日は、世界が知らない間に監視社会になっているということについてご紹介したいと思います。

 このような監視カメラは金融機関の内部や商店街の通路などだけではなく、新宿などの繁華街にも多数設置されており、日本全体で330万台は設置されていると推定されています。
 これは日本人40人に1台の比率ですが、世界でもっとも高密度に監視カメラが設置されているイギリスにはロンドンだけで100万台以上、イギリス全体では440万台が設置されていると推定されていますから、ロンドンでは市民7人に1台、イギリス全体でも国民14人に1台という密度です。
 これは21世紀に入ってから本格設置が始まったのですが、特に、2005年7月7日にロンドン市内の3カ所の地下鉄駅構内で、ほぼ同時に爆破事件が発生し、56名が死亡するというロンドン同時爆破事件が発生したことを契機に一気にカメラの台数が増加した影響で、事件前には50万台程度であった台数が事件後には100万台を越えることになりました。
 ちなみに世界全体の監視カメラの市場規模は2005年の475万台から2010年には708万台になり、今年は825万台なると予測される急成長です。

 このように多数の監視カメラが設置されていると安心して歩くことができるのか、撮影されて不気味なのかは、それぞれの立場で微妙ですが、自動車に乗っても状況は同じです。
 国内の主要な幹線道路には、自動車のナンバープレートの番号を自動で読取る、通称「Nシステム」、正式名称は自動車ナンバー自動読取装置のカメラが約2000台設置されていますし、高速道路の料金所にも車両番号を読取る「AVIシステム」のカメラ、さらに特定の自動車の番号を何か所かで識別して渋滞状況を判定するための、通称「Tシステム」旅行時間測定システムのカメラも設置されています。
 それ以外にも、速度違反で罰金を取られた方には苦い思い出のある「オービス」、自動速度違反取締装置のカメラも道路上部で待ち構えています。
 さらに、今年4月に京都市内で自動車が暴走して横断歩道に突進し、7名がなくなるという事故がありましたが、そのとき暴走自動車の後方を走っていたタクシーに設置してあるカメラが暴走の状態を撮影していたように、現在では、タクシーにも車外と車内を撮影するカメラが取り付けられています。

 ここまで御紹介したカメラは撮影した画像を記憶装置に記録して保存するか、容量が一杯になると上書きして、過去の画像は順次消えていく仕組のものが多いのですが、もう一種類、撮影した画像をそのままインターネット回線に接続してリアルタイムで送信するウェブカメラも社会には多数存在しています。
 これは1991年にケンブリッジ大学の研究室に置いてあるコーヒーポットを常時撮影して全世界に送信した例が最初ですが、現在では道路や駐車場の混雑状況を知らせる目的や、観光地の絶景の現状を見せるなどの目的で、日本国内だけでも数万台が設置されていると思われます。

 これらは画像による監視ですが、文字や数字による監視も知らない間に浸透しています。
 しばらく前まで、スイカで移動した経路を暗証番号を入力すれば見ることができるサービスが公開されていましたが、それを悪用して想いを寄せる女性の行動を暴露した人が居ました。
 この事件が象徴するように、様々な電子カードを使用すると、その使用記録は確実に記録保存されています。
 これらは公表されない前提で記録されていますが、何らかの事故や意図的な操作によって情報が暴露されてしまうと問題になります。
 実際、速度違反でオービスで撮影された写真に、運転席の隣に座っていた女性も撮影されていてプライバシーの侵害と問題になったこともありますし、北海道の道路の峠を越える場所に、積雪状況をリアルタイムで知らせるためのウェブカメラを設置しておいたところ、駐車場の車内で一緒に居るところを広く世間に伝送された男女が居て問題になったこともあります。
 アメリカでは室内の状況をウェブカメラで撮影した映像をツイッターで公開されて、撮影された大学生が自殺したという事件もあります。

 それにもかかわらず、国家は国民の通信状況を把握しようという方向に着実に向っています。
 アメリカでは2001年9月11日のテロ事件の直後から議論が始まり、わずか45日間で、政府が電話や電子メールを調査する権限を拡大した「アメリカ愛国者法」という法律が成立しました。
 イギリスでは現在、政府通信本部(GCHQ)という諜報機関が国民の電話、電子メールのやりとり、ウェブサイトの閲覧状況をリアルタイムで傍受可能にする装置の設置をインターネット・プロバイダーに要請できるという「通信データ法」を成立させようとしています。
 ところが、その一方、世界にはブログで自分の行動を進んで公開する人も多数いますし、5億人以上の人々はフェースブックを利用して、自らのプライバシーを知ってか知らずにか公開しているという現象も起きています。

 1948年にジョージ・オーウェルが有名な小説『1984』で予言した監視社会をはるかに越えるスーパー監視社会が実現しつつあります。
 そのような社会で生活するためには、様々な情報通信システムを使用するときに、ある程度は仕組を知っておく必要がありますし、そのような技術が社会を安全に維持する以上の目的に利用されないように、私たちも国家や政府を監視していくことが重要になっていく時代だと思います。





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