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論文

 先週24日に、日本政府観光局(JNTO)が今年4月の訪日外国人観光客数の統計を発表しました。
 昨年は東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の影響で海外からの観光客数が大幅に落ち込みましたが、今年4月は昨年4月の29万6000人に比べ、78万1000人と2・6倍に増え、震災などの影響から脱却しつつあるのではないかということです。
 しかし、やや長い目で見ると、1年単位の外国人観光客数は2001年の477万人から2005年には673万人、2010年には861万人と順調に増加し、目標のテンミリオン計画、すなわち1000万人に到達するという目標に近付きつつあったのですが、2011年は一気に622万人と、前年に比べて28%も減ってしまい、回復が課題でした。
 実際、1月と2月は昨年を下回っていましたが、3月は昨年の1・9倍、4月は2・6倍と大震災から1年が過ぎて回復傾向になってきましたので、テンミリオン計画も達成できるかもしれません。

 しかし、それでも日本は国際観光については大きく出遅れた観光小国です。
 例えば、人口あたりの外国人観光客数の比率は、シンガポールの179%、フランスの122%、イタリアの72%、韓国の18%に比べて、日本は7%でしかなく、世界の最下位に近い状態です。
 また、GDPあたりの国際観光収入の比率も、マレーシアの8%、タイの6%、シンガポールの5%などと比べて、日本は0・2%で世界最下位です。
 円高であるし、航空運賃も高いし、ヨーロッパのように多くの国が陸続きで隣接している環境にないなど、国際観光には不利な条件が重なっていますが、昨年、日本の貿易収支が31年ぶりに赤字になったということもあり、観光は外貨獲得の重要な手段になりつつありますから、何とかしなければいけないということです。

 そこで、これまでのように自然環境や名所旧跡を楽しむだけではない新しい観光を開発しようということになり、注目されているのが医療観光、メディカル・ツーリズムです。
 医療水準の高い割には費用の安い国に出掛けて検査や医療を受けながら、ついでに滞在型観光も楽しもうということです。
 アメリカのシンクタンクの2008年の調査によると、タイには1年に120万人、インドには45万人、シンガポールには41万人、マレーシアには30万人、フィリピンに10万人など東南アジア諸国にメディカル・ツーリズムの観光客が集中し、それ以外にもハンガリーに100万人、ポーランドに50万人と東欧諸国にも集中しています。
 しかし、日本は統計に数字が現れない程度でしかありません。

 その理由の1つは、医療観光客が集中している国は医療費用が安いことで、タイはアメリカよりも平均して30%安く、インドは20%、シンガポールは35%、マレーシアは25%、ハンガリーは50%も安いので、アメリカなどで高額医療を受けるよりは、安い国々へ行けば、観光費用も捻出できるということです。
 したがって、メディカル・ツーリズムへ出掛ける人が多い国はどこかというと、金額による順番ですが、ドイツ、アメリカ、オランダ、カナダ、ベルギー、オーストリアですから、納得です。

 しかし、もう1つ重要な事情があります。
 見知らぬ外国、とりわけ発展途上国に分類される国の病院へ行って、大丈夫かと不安になります。
 そこでアメリカのワシントンにあるJCI(ジョイント・コミッション・インターナショナル)という医療についての認証組織が、1994年から世界各国の個別の病院を審査して、先進諸国の患者が治療に行っても大丈夫という病院を認定しています。
 これは厳しい審査で、その本部から医師、看護士、病院管理者などから構成されるチームが1週間近く病院に滞在し、340以上の評価分野、1000以上の細かい評価項目について厳しい審査をします。
 費用も資格認定を申請した病院の負担で1000万円近くかかるようです。

 ところが残念ながら、ここでも日本では後進国になっています。
 現時点でJCIが認定した病院は、アラブ首長国連邦が54、トルコが47、サウジアラビアが43、ブラジルが37、タイが35、アイルランドが23、シンガポールが22、インドが19などで上位を占めていますが、日本は3病院だけで、数からすると30位以下です。
 番組を聞いておられる皆様は、どの病院だとご関心があると思いますが、JCIのホームページで紹介されていますのでお調べ下さい。

 これは申請しなければ審査が行われないので、各国の医療水準を示す指標ではありませんが、日本は国際連合のWHO(世界保健機関)から世界一と評価されたことに慢心して、厚生労働省所管の日本医療機能評価機構という財団の実施する国内向けの評価しか受けていない状況で、国際評価では大きく出遅れているのです。
 しかし、日本の財団の評価は手間がかかるにもかかわらず、得られる効果は少ないという評判ですし、何よりも内向きでメディカル・ツーリズムには対応できていません。

 しかし日本にも優位な特徴があります。
 それほど知られていませんが、日本は先端医療機器の普及では世界一の国家なのです。
 2007年の数字ですが、人口あたりのCTの普及台数は100万人あたり93台で、45台のオーストラリアの2倍、32台のアメリカの3倍で、世界一です。
 さらに高価なMRIの普及でも、日本は100万人あたり40台で、26台のアメリカの1.6倍、20台のアイスランドの2倍と、これも世界一です。
 このような利点を生かして、日本の医療の国際社会での評価を高めるとともに、観光による外貨収入も獲得するという一石二鳥の効果を目指して、メディカル・ツーリズムが活発になることを期待したいと思います。





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