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論文

 6日の日曜日にフランス大統領選挙の決選投票とギリシャの総選挙がおこなわれました。
 フランスではサルコジ大統領が負けましたが、現職の大領領が敗退するのは31年ぶり、社会党の大統領は17年ぶりという大騒動になりました。
 ギリシャでは連立与党を形成している二大政党が負けて過半数割れとなり、極左と極右の政党が躍進し、第一党の新民主主義党が連立政権を樹立できず、再選挙をせざるをえない状況になり、ここも大騒動です。
 共通するのは、フランスでは緊縮政策を進めようというサルコジ現大統領が負け、ギリシャでも緊縮政策で債務を返済し、財政再建を進めようとした連立与党が負けたということです。
 日本で既存政党の政策に反対を表明する維新の会が人気を集めていることと共通する現象だと思います。
 ところが現在、日本ではほとんど報道されていませんが、ヨーロッパのみならず世界各国で既存の秩序に反対する新しい政党が台頭しはじめています。
 海賊党という政党です。

 これは2006年にスウェーデンで設立された政党ですが、3つの政策を掲げています。
 第一は著作権法の改革です。
 著作権法が最初に作られたときの趣旨は、創作された著作物の権利を保護することによって創作した人々が利益を得られるようにして創作意欲を掻き立てる一方、その権利を一定期間に制限することによって著作物が社会に広く普及することを目的とした制度でした。
 ところが、その一定期間が次々と延長され、現在では大半の国で創作した人の死後70年間、権利が保護され、それを100年にしようという動向さえあります。
 海賊党の主張は、死後70年の保護期間は長過ぎるので、商業的な著作物は出版後5年まで、それを商業目的で使用しない場合は最初から自由に利用できるようにするということです。
 したがって、P2Pやファイルシェアといわれる、人々がインターネットを経由して自由に著作物を流通させる技術は合法にしようということに繋がります。

 第二は現行の特許制度の廃止です。
 特許制度も著作権と同様の発想で、発明する人々の意欲を掻き立てるために20年程度の期間は独占権を与えるという目的でできた制度ですが、それがあるためにエイズなどの特効薬が高価になって普及が妨げられ、多くの人々が死んでいるし、鳥ウイルスが人間へ感染するようになったとき、有効な薬品が独占されて使用できず世界規模の感染(パンデミック)が発生する可能性さえ心配されます。
 そこで医薬品については、現行の特許制度を廃止し、海賊党が提案する特許制度を採用するべきであると主張しています。

 第三はプライバシーを保護する制度の採用です。
 2002年9月11日以来、アメリカが中心となって世界中の人々の個人情報の収集を加速させています。
 実際、現在はアメリカの空港で飛行機を乗り換えるだけでも、一旦、アメカへ入国し、再度、出国せざるをえない仕組になっており、入国のときに指紋を採取され虹彩を撮影されます。
 海賊党は、このような社会の方向にブレーキをかけると主張しています。

 海賊党はスウェーデンから始まったのですが、ヨーロッパに急速に浸透し、公式に登録した政党として活躍している国は、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマークなど14カ国に及び、登録政党とはなっていないが活動している国はギリシャ、エストニア、イタリア、ルーマニアなど、ヨーロッパで11ケ国、それ以外の世界ではカナダ、アルゼンチン、アメリカ、チリ、中国、韓国など16カ国以上になっています。
 そして2006年にはベルギーで海賊党インターナショナルという情報交換組織が設立され、2009年には正式にNGO(非政府組織)として登録もされています。
 この政党の支持者は、想像されるように若者が中心で、実際、ドイツの海賊党の党員の平均年齢は31.2歳ですが、意外にも50代以下のすべての年齢層に浸透しているという統計があります。

 それでは実際の勢力を拡大しているかというと、スウェーデンの海賊党は2009年のEU議会の選挙で7.13%の投票を得て2議席を獲得しました。
 ドイツの海賊党は2009年8月にミュンスター市とアーヘン市の市議会にそれぞれ1議席を獲得し、昨年9月のベルリンの市議会選挙で8・9%の得票で15議席、今年3月のザールラント州の選挙では7・4%の得票で4議席を獲得しています。
 さらに4月に各地で行われた地方選挙で海賊党の支持率の合計が13%になり、自由民主党、緑の党を抜いて、キリスト教民主社会同盟、ドイツ社会民主党に次ぐ第3党に躍進しました。
 そして現在、注目されているのが、今週の日曜日13日におこなわれるノルトライン=ヴェストファーレン州の州議会選挙の結果です。
 この州はドイツ最大の人口を抱える州で、ここで海賊党が躍進すれば、メルケル政権にも、フランスと同様の激動が発生するかも知れません。

 海賊党の3項目の主張には賛否があると思いますが、日本でP2Pの技術であるウイニーを開発した、当時東京大学助手であった金子勇さんが2003年に逮捕され、2006年の一審では有罪でしたが、2009年の二審では無罪になり、昨年12月の最高裁の判決で無罪が確定しました。
 この10年足らずの間に情報社会についての考え方が変わってきたことを反映しているのではないかと思います。
 登録された政党ではないものの、中国には中国盗版党、韓国にはパイレート・パーティ・オブ・サウスコリアが活動していますが、日本ではスウェーデンやドイツの動きもマスメディアで報道されないという二重の意味で情報後進国になっていることを自覚すべきだと思います。





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