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論文

 今年はサクラの開花が平年より遅れた地域が多く、東京では過去もっとも早く開花した2002年に比べ、15日も遅れて開花し、満開日は4月6日になりました。
 その結果、従来のように入学式のときは葉桜ということにはならず、満開のサクラの下で入学式が行われ、結構なことでした。
 これは温暖化ではなく寒冷化が始まったのではないかと思われるかも知れませんが、今年は冬が長引いた影響で、実際は温暖化が進んでいるようです。
 その一例として、4月4日の朝日新聞の夕刊にイノシシの生息域が北上しているという記事が掲載されていました。
 その記事によると、これまで宮城県がイノシシの北限とされていたのに、2008年12月には山形市、2010年1月には山形県尾花沢市、昨年9月には岩手県一関市、今年2月には秋田県湯沢市で捕獲され、確実に北上していることが分かります。
 ところが、イノシシだけではなく、日本列島では生物異変とでも呼ぶべき現象が各地で発生しています。
 南の方から紹介していきますと、鹿児島県の奄美大島の河川にはアユの中でもっとも南に棲んでいる「リュウキュウアユ」がいますが、ここ数年で数が激減しているそうです。
 アユは水温が低くないと生きられない魚で、リュウキュウアユはかつて沖縄にも棲息していましたが、1970年代末に絶滅し、奄美大島でも、ここ数年で半分以下になり、絶滅が心配されています。
 原因は水温の上昇です。
 宮崎県日南市では6年ほど前に「キノボリトカゲ」が発見されています。
 これは台湾から八重山諸島を経て奄美大島までに棲息し、気温が0度以下になると越冬できずに死んでしまうので、本土にはいないはずの生物でしたが、気候が温暖になり、宮崎県でも越冬可能となった結果、現在では数万匹は繁殖していると推定されています。

 やや北上して瀬戸内海にも異変が発生しています。
 ニュースで紹介されて有名になりましたが、2000年頃から瀬戸内海にナルトビエイが回遊してくるようになりました。
 これはインド洋など熱帯から亜熱帯の海に棲む体長1・5mにもなる魚ですが、ブタに似た鼻で海底の砂を掘り起こし、アサリやタイラギなどの二枚貝を食べる習性があります。
 1匹が1日に5kgも食べるので、何千匹も回遊してくると、養殖しているアサリなどは激減し、最近では休業状態です。
 貝だけではなく、人間にも被害が及ぼうとしています。
 瀬戸内海に数年前から「ソウシハギ」という、フグの毒よりも重量あたり70倍もの猛毒をもつ魚が入ってくるようになりました。
 本来は南洋の海の魚ですが、ここ数十年で瀬戸内海の水温が0・5度ほど高くなったので、迷い込んでくるようになったのです。

 水中だけではなく、陸上でも異変は発生していますが、それを関東地方で見てみます。
 東京の目黒にある自然教育園には、もともと生えていなかった「シュロ」が自然に繁殖し、現在では2300本以上生育しているそうです。
 シュロは平安時代に日本に持って来られた外来種ですが、外観からも分かるように南方の植物です。
 生育は東北地方でも可能ですが、繁殖するのは九州南部よりも南でした。ところが東京では、全体の温暖化だけではなく、ヒートアイランド現象も加わり、楽々と繁殖できる環境になってしまったという訳です。
 そのような林には「ナガサキアゲハ」が飛び交うようになりつつあります。
 名前からも分かるように、もともとは九州に生育していたチョウですが、戦後すぐには四国南部まで、1960年には大阪湾まで、1980年代には関西地方まで、1990年代には東海地方まで、そして2000年には東京まで到達し、平均気温の上昇とともに北上してきました。

 当然、東北地方や北海道にも影響は及んでいます。
 山形県はサクランボの日本最大の産地ですが、柔らかすぎる果実や真っ赤にならない果実が増え、どうも原因は平均気温の上昇らしいということです。
 そこで生産者の一部は北海道の富良野に土地を購入し、そこに様々な種類サクランボを植えて移転を検討しはじめています。
 北海道特有の動物といえば「エゾシカ」ですが、その急激な増加も問題になっています。
 農産物の被害が甚大で、毎年数10億円にもなっています。
 そこで道東では万里の長城ならぬ「万里の長網」で、耕作地を守るために総延長3000kmのフェンスを設置するまでになっています。
 この原因は天敵である「エゾオオカミ」を明治時代に絶滅させてしまったことですが、最近では気温の上昇で雪が少なくなり、冬にもエサとなる笹などを食べることができるようになった結果、餓死する頭数が減っていることも影響しています。

 これ以外にも生物に異変が起きている例はいくらでもありますが、問題はこれをどう考えるべきかです。
 まず利点もあります。
 例えば、北海道は最近では新潟県と並ぶコメの産地になり、ユメピリカなどはコシヒカリやササニシキよりも美味しいという意見もあるほどですが、これも気温上昇の効果です。
 また、能登半島でマグロ、東北地方でサワラが獲れ、ミカンが佐渡で収穫できるなど、産地が拡大する効果もあります。
 さらに、ナルトビエイやエゾシカを本格的に食料にする計画も進んでいます。
 しかし、キノボリトカゲが増えると、アリ、クモ、セミなどを食べる一方、キノボリトカゲをエサとする鳥が増え、結果として生態系全体が破綻する可能性もあります。
 地球全体の気温上昇は一部の地域だけの努力で阻止できる問題ではありませんが、産業の点からも生活の点からも早目に検討しておくことが必要です。





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