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論文

 昨年9月にニューヨークで始まった格差社会に反対する「ウォール街を占拠せよ」という抗議活動が長期化し、オレゴン州ポートランド、カリフォルニア州ロサンゼルス、ワシントン州シアトルなど、アメリカ各地に飛び火する事態となり、昨年の世界10大ニュースにもなりました。
 しかし、それで納まったわけではなく、今週の日曜日の28日にもカリフォルニア州オークランドで格差に反対する抗議活動が発生し、400人以上が逮捕されるという事態になっています。

 アメリカの所得格差はどのようになっているかを調べてみたいと思いますが、もっとも普通に格差の指標とされるのが「ジニ係数」です。
 詳しい説明は省略しますが、所得格差の状態を0から1の範囲の数字で表現し、すべての国民が完全に同じ所得であれば0、一人だけが全収入を得て、他はすべて無収入という極端なときに1になるような計算をします。
 すなわち、数字が大きい程、格差社会というわけですが、0・4を越えると社会騒乱が発生する警戒ラインとされています。

 アメリカは1960年代には0・4前後で推移していましたが、80年代に入って上昇しはじめ、90年代は0・45を突破し、最近では0・48程度になっていますから、完全な警戒水域です。
 別の数値として、最高経営者(CEO)と平均的な社員の賃金格差は1965年には24倍でしたが、40年後の最近では185倍にまで拡大しています。
 さらに別の数値で、年収の上位1%の人々の収入が全体の何%を占めるかという統計がありますが、1970年代には10%でしたが、2007年には23・5%になり、最近ではやや下がったものの20%程度になっています。
 簡単な計算をしてみると、上位1%の人々が1人あたり100という収入を得ているとすると、それ以外の99%の人々は4という収入しかありませんから、「ウォール街を占拠せよ」の抗議運動の合言葉「たった1%の人々が残りの99%の人々を搾取している」も、もっともです。

 日本はどうかということを「国民生活に関する世論調査」を参考に考えてみますと、1950年代には自分は中流と考えている人は7割でしたが、60年代には8割、70年代には9割にもなり、一億総中流時代という言葉が流行し、世界でもっとも成功した社会主義国とも言われました。
 しかし、80年代のバブル経済時代から変化がはじまり、それはジニ係数にも現れています。
 ジニ係数には2種類あり、税金や社会保険料を支払う前の当初所得で計算した場合と、それらを支払い、人によっては社会保障を受け取った後の再分配所得で計算した場合があります。
 後者のほうが実感に近いので、それを調べますと、1993年には0・308でしたが、2005年には0・322に増えており、格差が拡大していることを証明しています。

 それでは日本は世界各国と比較して格差が大きい社会かどうかをジニ係数で調べてみます。
 2000年前後の数字しか揃いませんが、格差の大きい上位にはアフリカや南アメリカの国々がならび、先進諸国ではアメリカが49位、イタリアが73位、アイルランドが75位、ギリシャが77位というように、最近、財政破綻した国々は所得格差が大きく、日本は122位と格差のきわめて少ない国になっています。
 2000年前後には、まだ日本は格差の小さい国だったのですが、拡大の方向に着実に向かっており、10日程前に、昨年の生活保護を受ける世帯が144万になり、人数が200万人を突破したという発表がありました。
 1990年代前半は60万世帯以下、90万人以下でしたから、15年程で世帯数が2・5倍、人数が2・3倍に増えたことになります。

 このような状況を反映し、厚生労働省では貧困対策を検討するために、貧困状態を正確に把握する指標を議論することになりました。
 これまでの国際的な指標としては「相対的貧困率」があります。
 どのようにして計算されるかというと、まず所得税や社会保険料などを支払った後の再配分所得によって、国民を所得の多い順番に並べます。
 次にその中央に来る人、例えば国民が101人の国とすれば51番目の人の所得の半分以下の所得の人の割合を相対的貧困率としています。
 OECD諸国については2009年の数字が計算されていますが、相対的貧困率の順番は、メキシコ、イスラエル、チリ、アメリカ、トルコに次いで日本は16%で悪いほうから6番目となっています。
 意外と思われるかもしれませんが、日本は貧困層の割合が多い国なのです。

 しかし、相対的貧困率はある年の再配分所得だけで計算しますから、数多くの問題が指摘されています。
 例えば貯金や土地家屋があるけれども所得が少なければ貧困になってしまうし、北欧諸国のように教育や医療がわずかな負担で受けられれば、所得が少なくても、それほど貧しいという感覚はありません。
 もちろん、後世労働省の研究によって新しく貧困を定義して、それが減るような政策を検討することは必要かもしれません。
 しかし、アメリカの共和党の大統領候補を決める選挙で、大金持ちであるにもかかわらず納税額が少ないというネガティブキャンペーンを打たれたウィラード・ミット・ロムニー候補がサウスカロライナ州で大差で負けたことや、昨年からアメリカで続いている抗議行動、さらには中東やアフリカで発生している動乱に共通する特徴は、一部の特権をもつ人々が異常な豊かさを享受していることへの不満からだと考えると、貧困を減らすよりも、社会の格差を減らすほうが重要ではないかと思います。

 論語の「寡きを憂えずして、均しからざるを憂う」という言葉を思い出すべきだと思います。





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