TOPページへ論文ページへ
論文

 今日は「清水トンネル貫通記念日」です。
 これは群馬県と新潟県の県境にある谷川岳の下に掘られた鉄道用トンネルで、上越線の群馬県側の土合(どあい)駅と新潟県側の土樽(つちたる)駅を連絡しています。
 1922年に着工され、1929年12月29日に坑道が貫通し、1931年9月1日に開通した全長9702mのトンネルです。
 このトンネルが開通する以前は、東京から新潟まで鉄道で行こうとすると、信越本線で高崎から碓井峠を越えて長野に到着し、そこから糸魚川を経由して日本海沿いに新潟へ向かうという大回りが必要でしたが、清水トンネルの開通によって一気に距離が短縮されました。
 しかし、このトンネルが有名になったのは、1935年から何回かに分けて雑誌『文藝春秋』や『改造』に発表され、1937年に単行本になった、川端康成の名作『雪国』の冒頭の「国境のトンネルを抜けると雪国であった」という文章です。

 やや蘊蓄話になりますが、最初の文章は「国境のトンネルを抜けると、窓の外の夜の底が白くなった」で、単行本で、有名な「国境のトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」となっています。
 もう一つの蘊蓄話は、1967年に全長1万3490mの新清水トンネルが開通して下り線として使われ、川端康成が列車で通過した清水トンネルは上り線用となったため、現在では同じ体験ができない状態になっています。

 ここで閑話休題とし、『雪国』を採り上げたのは、日本の現状は長いトンネルに進入した暗闇のままで、なかなか夜の底が白くならないのではないかということで、ぜひ来年、抜けて欲しいトンネルを紹介したいということです。

 第一は人口が減少する高齢社会というトンネルです。
 日本の人口は2005年を頂点として減少に向かっていますが、その結果、高齢社会になっていきます。
 問題は日本の高齢社会が半端ではないことです。日本の65歳以上の人口の比率は23・1%、すなわち4人に1人が65歳以上で、実は世界一の比率になっています。
 比較しても仕方のないことですが、フィリピンは4・3%、マレーシアは4・7%、インドネシアは6・1%であるし、先進諸国でもアメリカは13%、フランスは15・7%、イギリスは16・3%ですから、日本は突出しています。

 当然ですが、15歳以下の人口比率は13・3%で世界一少ない状態です。
 これも比較してみると、フィリピンは33・1%、マレーシアは27・2%、インドネシアは26・7%ですし、アメリカが20・1%、フランスは18・4%、イギリスは17・5%ですから、やはり日本の数字が突出していることが分かります。

 高齢社会になるということは、年金制度も介護制度も医療財政も破綻することを意味しますし、個人消費が国内総生産の60%以上を占めていますから、経済全体も成長は困難です。
 歴代内閣では少子化対策大臣が任命されており、野田内閣でも蓮舫特命担当大臣が兼務していますが、特別の対策が打ち出されている訳でもなく、トンネルを抜け出す気配はありません。

 第二は財政破綻です。
 これも周知のことですが、中央と地方を合計した日本政府の長期債務残高はすでに1000兆円を超え、アメリカの1300兆円に次いで2番目に大きい金額です。
 しかし、アメリカの経済規模は日本の3倍ですから、GDP当たりにすると比率は91%ですが、日本は200%、すなわち日本人が1年間に作り出す富の2倍以上の借金をしていることになり、文句なく世界一です。
 日本に次いで比率が大きいのがギリシャの143%、アイスランドの120%、イタリアの119%、アイルランドの93%、ポルトガルの93%で、名前から連想できると思いますが、すべて国家財政危機に直面している国々です。

 それでも日本が財政危機にならないのは、国債の大半を日本国民の貯蓄で購入しているからだと説明されていますが、それも底をつくか、国債の引き受け手がなくなれば、アイスランドやギリシャのようにならないという保証はないというわけです。

 政策は明瞭で「出るを制し、入るを図る」ですが、「出るを制す」ために期待されていた公務員制度改革も、国会議員の削減も出来ず、「入るを図る」ための増税案も与党内部で分裂している状態で、依然としてトンネルの暗闇を突進している状態です。

 第三は地域主権改革の停滞です。
 民主党政権になったときに、マニフェストに書かれた大きな目標は中央集権から地域主権への転換でした。
 明治以来の中央集権は日本が大国になる段階では意味がありましたが、140年以上が経過して、社会が多様である時代には有効な制度ではなくなりつつあり、地域主権改革が期待されていました。
 2007年には地方分権改革推進委員会が設立され、4回の勧告が提出されましたが、具体的な動きのないまま放置されている状態です。
 11月の大阪府知事と大阪市長の同時選挙で、ほんのわずか地域主権に明かりが見え始めた気もしますが、出口はまだまだ遠いという状態です。
 これ以外にも、日本がトンネルに入ったままという課題は数多くありますが、EUでも中東でも次々と急激な変化が発生している現在、トンネルからの脱出を早急に実現しないと、出口に到達できないまま世界から取り残される心配さえあります。
 新年を目前に、ぜひ来年は「夜の底に白い明かり」を見出したいものです。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.