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論文

 今日は「エレベータの日」です。
 明治23年(1890)の今日、東京の浅草に完成した12階建ての展望台「凌雲閣」に日本で最初の電動エレベータが設置されたことを記念して設定されました。
 ただし、エレベータという装置について知識のなかった監督官庁が危険と判断して、しばらくして使用中止にしてしまったので、観光客が利用したのは短期間でした。
 しかし、人や物を垂直に持上げる装置の歴史は古く、紀元前236年にアルキメデスが荷物を人力で運びあげる装置を開発したと言われています。
 それ以後、人力のエレベータは非常に多く使われてきたのですが、動力で上下するエレベータが登場するのは2070年後です。

 1835年に蒸気機関で牽引するエレベータが登場するのですが、これはなかなか危険な乗物で、よく落下事故を起こしていたようです。
 西欧社会でレディファーストの習慣は、まず女性を先にエレベータに乗せ、大丈夫そうであれば男も乗ったということから登場したという冗談もあるほど、ときどき落下事故が発生していたそうです。
 この問題を解決したのがオーティス・エレベータ会社に名前を残すアメリカ人エライシャ・グレーブス・オーティスで、1854年にニューヨークで開かれた博覧会に蒸気機関で動く機械を展示し、本人が乗って一番高い位置まで上げ、引っ張りあげるロープを助手に斧で切らせて、安全装置でその場所に停止させるという実演をして評判になりました。

 現在でも基本的に同じ仕組で安全は確保されており、この問題は解決したのですが、次の課題は上昇する速度でした。
 オーティスの安全エレベータは1857年にニューヨークの5階建ての建物に導入されますが、その速度は分速12mでした。
 例えば、日本で一番高い横浜ランドマークタワーの展望台は273mの高さにありますが、そこまで23分もかかってしまう計算になります。
 そこで、次々と改良され、横浜ランドマークタワーでは分速750mで、展望台まで22秒で到着するエレベータが使われ、ギネスブックに登録されました。
 ところが、2004年に台北に完成した508mの高さの「TAIPEI101」では分速1010mの機械が開発され、これが現在の最高記録になっています。
 これは3776mの富士山の頂上まで3分44秒で到達する速度ですから、乗っている人の気分が悪くなったり呼吸困難になる可能性があり、今後、それほど速度は増大しないと思います。
 例えば、東京スカイツリーのエレベータは分速600mで、350mの高さの第一展望台まで50秒弱で到達する計画です。

 そこで次の壮大なエレベータの目標は「宇宙エレベータ」です。
 これは軌道エレベータとかテザーエレベータとも呼ばれる技術で、テザーというのは紐という意味ですが、簡単に説明すると、赤道の上空3万6000kmに打上げた静止衛星と地上を紐で結び、その紐を伝わってエレベータが上下し、宇宙ステーションと地球の間を往復しようという技術です。
 このような技術を最初に構想したのは宇宙旅行の父といわれるロシア人コンスタンチン・ツィオルコフスキーで、すでに1895年のことですが、そのような長い紐を伸ばしていくと自分の重さで切れてしまい、自重に耐えるためには上空から4960km下に垂らしても切れない物質が必要だということになりました。
 ところが、現実の物質で鋼鉄は50km、ケブラー繊維でも200kmで切れてしまうので、実現は無理でした。

 そこに登場したのが日本の飯島澄男博士が発見したカーボンナノチューブで、これが大量生産されれば実現可能ということになり、NASAの支援で全米宇宙協会が赤道上の海面に海上基地を造り、そこから10万km上空までテザーを伸ばす計画を策定し、2031年に実現を目指しています。
 その第一歩として、2005年に、カーボンナノチューブではありませんが、軽くて強い材料で作った紐を気球で上空まで引き上げ、その紐を小さな箱の形をしたエレベータが登っていく実験をし、約300mまで到達しています。

 日本でも2008年に「宇宙エレベータ協会」が設立され、2009年からアメリカと同様の実験を競技形式で行い、2009年には150m、昨年は300m、今年は600mまで到達し、倍々と上昇距離が伸びています。
 そして、現在、東京スカイツリーの建設で高さに目覚めた大林組の技術陣が宇宙エレベータを設計しており、来年早々には夢のプロジェクトとして発表される予定です。
 構想では静止軌道ステーションと地球の間の、火星と同じ重力になる3900kmに火星重力センター、月面と同じ重力になる月重力センターを設け、一般の人々も観光に出掛けられるようです。
 エレベータは時速200kmで、現在の最高の速度のエレベータの3倍以上ですが、それでも3万6000kmの静止軌道ステーションまでは7日半の旅行になります。

 なぜ、このような壮大なことを構想するかということですが、現実的には、現在、高価で準備が大変で危険もまだまだあるロケットで宇宙ステーションと地球と往復することが、安価で簡単でロケットよりは安全にできるようになるし、一般の人々が宇宙観光に出掛けることも容易になります。
 しかし「ジャックと豆の木」の話を思い出してみると、雲の中まで届く豆の木を登っていったジャックは、天空の巨人の城から金の卵を産むニワトリを盗み出し、裕福な生活を送るということですから、人間は宇宙の中で宝物の発見を目指しているのかもしれません。





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