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論文

 8月30日に「ドジョウ総理大臣」が誕生しました。
 美しい水に棲む華麗な金魚ではなく、泥水に棲み鑑賞されることもない地味なドジョウとして努力するという気持のようですが、ドジョウというのは本当にそのような魚なのかを調べてみました。
 ドジョウは魚篇の右側に酋長の「酋」を加えた漢字で表現しますが、この「酋」は酋長からも連想できるように強いという意味で、ドジョウはなかなか死なない魚と思われているところから作られた漢字です。

 実際、サンフランシスコの港に到着した貨物船の船倉の小さな水溜まりにドジョウが見つかったことがあり、学者が調べてみたら日本固有のドジョウだったので、日本の港を出航するときに紛れ込んだドジョウが10日間も水溜まりで生きていたということが分かりました。
 皮膚呼吸もできるので、なかなか逞しい魚です。
 ということで、野田佳彦総理大臣も穏やかそうな顔ですが、意外に粘り強いかも知れません。

 しかし、中国では魚篇に学習の「習」を加えてドジョウを表現しますが、この「習」は探し求めるを意味し、泥水を嫌って清水を探し求める習性から作られたようで、ドジョウが泥水を好む訳ではなく、一般には澄んだ水に棲息しており、総理大臣の思惑とは違っているかも知れません。

 しかし日本では、魚篇に酋の漢字の頭に「泥」を加えてドジョウを表現したり、「泥」と生まれると書いてドジョウと読ませることもあり、どうも泥くさい印象があるのですが、それは2種類の理由があります。
 一つは、ドジョウは卵を水草などに産みつけますが、粘着力が弱いので下に落ちてしまい、泥から生まれるように見えるということ。
 もう一つは、ドジョウは秋の終わりから春の初めまで冬眠するのですが、そのとき土の中に30cmほどもぐるので、泥の印象があるということです。

 しかし、この冬眠から目覚めるときには大変用心深く、2月初旬に川底から頭だけを出し、水温ではなく身体を埋めている土の温度が13度を超える下旬になってようやく身体全部を水中に出し、泳ぎ出すのは3月中旬になってからだそうです。
 そういう意味では、野田総理大臣も大変に注意深く立ち上がるときを熟慮していた気配もあり、ドジョウに相応しいかも知れません。

 ドジョウの有名な特徴は腸で酸素を吸収する性質です。
 水槽で飼育しているドジョウを観察していると、頻繁に水面まで浮かび上がって空気を吸い、そのまま下を向いて潜っていき、しばらくするとお尻から泡を出します。
 エラでも水から酸素を吸収するのですが、エラが小さいので、このような珍しい呼吸をするわけです。
 学者が実験で、ドジョウを金網の中に容れて水面まで上がれないようにしたら、ドジョウは死んでしまったそうですから、この腸呼吸はドジョウの生存にとっては必須の手段なのです。

 ドジョウは英語で「ウェザーフィッシュ」すなわち「お天気魚」と呼ぶことがありますが、気圧が変わって水中に溶けている酸素の量が変わると、それに応じて水面から空気を吸う回数が変わるので、天気予報に役立つと考えられ、ヨーロッパでは晴雨計の代用として飼われていた時代もありました。
 しかし、総理大臣はドジョウのように世間の動向に敏感ということも重要ですが、あまり右往左往しないで政策を進めていただきたいと期待します。

 ドジョウは身近な魚ですから、色々な諺に使われています。
 「柳の下に2匹目のドジョウはいない」という諺は有名ですが、ドジョウは日光を避けて日陰に集まる習性があるので、日照条件によって居る場所が変わり、ある朝に獲れた場所に、午後行ってみると、ドジョウは別の場所に移っているというわけです。
 もう一つ「コイが踊ればドジョウも踊る」という諺もあります。
 ドジョウはコイと同じ「目(もく)」に属しますが、強いコイが跳ねると、弱いドジョウも真似して跳ねるという意味です。
 ぜひ、いつも立ち位置を変えたり、影の実力者のコントロールで政策が左右されないように毅然として欲しいと思います。

 そしてドジョウといえば「ドジョウ鍋」と「柳川鍋」です。
 ドジョウは肉にビタミンA、蛋白質、灰分を多く含んでいるので、優れた食材です。
 江戸時代に出版された『守貞漫稿』という図解辞典によると、最初は味噌汁にドジョウを丸ごと入れる「ドジョウ汁」が主流でしたが、1800年代の初めに浅い土鍋にささがき牛蒡と丸のままのドジョウを入れて煮る「ドジョウ鍋」を食べさせる店が登場しました。
 ところが、ドジョウは骨太で食べにくいということで、1818年頃に、開いて臓物や骨を抜いて食べる方法が始まり、さらに1830年頃から、卵とじにした料理が工夫され、この料理を出した店の屋号が「柳川」だったところから、「柳川鍋」が流行するようになったのです。

 そこで「骨抜きドジョウ」という言葉ができ、節操のないことを表現するようになりました。
 そして最後に、ドジョウには、水棲昆虫などのエサを獲った後は、泥を掻き回して逃げ去るという習性があります。
 くれぐれも官僚に骨抜きにされ、抜き差しならなくなって後を濁して辞任するような政治にならないことを期待します。





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