TOPページへ論文ページへ
論文

 夏も本番になり、電力消費を15%節約することが本格的に必要な時期になってきました。
 東京電力管内と東北電力管内の工場やオフィスなど大口電力需要家は、7月1日から政府の電力使用制限令により15%の削減が強制され、違反した場合は100万円以下の罰金が科せられるのですが、家庭の場合は15%削減が義務ではなく要請なので、自発的に努力する必要があります。
 そこで少し過去にさかのぼってみると、この削減へのヒントがありそうなので、いくつかのアイディアをご紹介したいと思います。

 戦後の家庭の電力消費を1人あたりで調べてみると、1950年を100として、10年毎に210、733、1321、2109、2946、昨年は3269となり、60年間で約33倍に増えたことになります。
 その原因は家庭電化製品の急速な普及で、この60年間に電気洗濯機は普及率が30%程度から100%に、電気冷蔵庫は数%から100%に、エアコンはゼロから90%に、カラーTVはゼロから100%に飛躍しました。
 もちろん、これらの機器によって便利になり快適になったことは間違いありませんが、今回のような事態になると、問題も発生するというわけです。
 しかし、先程の1人あたりの電力消費を基準にして15%削減を計算してみると、3269を85%まで削減した2779という状態にすればいいのですが、これは1988年の状態なので、その時期の生活水準に戻せばいいということになります。

 そこで調べてみると、電気洗濯機や電気冷蔵庫やカラーTVはすでに99%近くまで普及していましたが、エアコンは55%程度の家庭に普及していた程度でした。
 そして現在、家庭の電力消費の内訳は、エアコンが25%、電気洗濯機と電気冷蔵庫がそれぞれ16%、テレビジョンが10%と、この4種の神器でほぼ3分の2を占めています。
 そこで、これらの電力消費を減らす方法を考えてみたいのですが、1988年は丁度、昭和から平成に移行する直前でした。
 そのような背景もあり、最近、昭和の生活を見直せという考えが流行しています。そこで昭和時代はどのような生活をしていたかを、振り返ってみたいと思います。

 1950年、昭和25年には電気冷蔵庫の普及率は数%でしたが、これを氷の冷蔵庫に戻すということは製氷能力からも配達体制からのできません。
 当時、30%程度の普及率であった電気洗濯機も、タライと洗濯板でしようとしても多くの家庭では場所もないという状態ですからできません。
 そこで60年前の普及率ゼロから現在では90%にまで普及し、家庭の電力消費の4分の1にもなっているエアコン、すなわち室内を涼しくするということについて考えてみます。

 まず、かつての住宅には自然の力を利用して涼しくする工夫がされていたことを思い出すことです。
 軒の出が十分にあり、夏の直射日光が部屋の奥まで入らず、雨戸や障子を開けると風通しが良くて涼しいというのが普通の住宅の構造でした。
 それでも西日などが入って暑い方向には「すだれ」を立てかけ、ヘチマや、最近ではゴーヤなどのつる性の植物を繁らせて日射を防ぐという工夫をしていました。
 昭和32年の小学校2年生の理科の教科書にはヘチマを植えて、秋になったら、ヘチマ水を採取し、ヘチマのタワシを作る方法が紹介され、昭和40年代の教科書にまで掲載されていました。

 最近の都会では高層住宅が中心になり、縁側も障子もなくなり、ましてヘチマを植える土地も無いわけですが、さらなる問題はエアコンの技術を過信して窓が開かない設計になっている建物が増えていることです。
 先日もある地方の最近立ったばかり市役所を訪ねたのですが、総ガラス張りで外観はすっきりしていますが、すべての窓が開かないために、室温28度にしようとすると多量の電力が必要だと市長が悩んでいました。
 高層建築のもう一つの問題は、建物内部の風通しを妨げているだけではなく、建物周囲の風通しを妨げていることです。
 最近はヒートアイランド現象が話題になることが多いのですが、実際に東京の都心と郊外とでは、気温が4度以上の差になることも頻繁です。
 さらに東京の区部の熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上)の日数は100年前には年間数日でしたが、現在では40日から多い年では50日にもなっています。

 これはアスファルト舗装の影響や密集した建物が冷房の排熱を大量に出すことも影響していますが、密集した高層の建物が都市の内部を通過する風の流れを遮断している影響も少なくありません。
 東京など海岸に面した都市では、昼間は海風といって海から陸に向かって風が吹くのですが、海岸沿いに高層建築が林立して、その風を遮断してしまうというわけです。
 そこで、この風の道を取り戻そうという計画が国内、国外で始まっています。
 ドイツの工業都市シュツットガルトは盆地の底にできた都市で、かつては山から吹き込む冬の寒い風を周囲の丘陵が防いでいたのですが、最近は逆に夏のヒートアイランド現象が問題になりはじめました。
 そこで、1980年代初頭から、都市計画に「風の道」を位置づけて、風が通り抜ける場所に公園や緑地を連続して作り、建物の高さ制限をしていますし、同じ時期からカールスルーエやフライブルグでも同様の計画を作成しています。
 日本でも、シュツットガルトと同じように盆地にある岐阜県の多治見市でも「風の道構想」を検討していますし、品川駅東側の開発計画では「風の道」を確保する計画を作成しています。
 また名古屋市も海から都心に向かう3本の運河を風の道にしようという計画を立案しています。
 技術の進歩により、人間は道具も生活環境も人間に合わせて作ってきましたが、今回の事態を契機に、人間が自然に合わせて生活するという発想を取り戻すべきではないかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.