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論文

 先週の6月24日に埼玉県熊谷市で最高気温が39・8度となったのを筆頭に全国53地点で最高気温が35度を超える猛暑日になりました。
 その影響で午後2時台の東京電力管内の電力消費が4389万キロワットとなり、現在の最大供給能力の91・6%に到達しました。
 90%を超えると危険水域とされていますから、今後さらに暑くなったときの電力不足が心配される事態になってきました。
 これまで以上に電力需要を下げる努力が必要になりますが、その一つとしてサマータイム制度の導入が浮上しています。
 まず今年4月に節電啓発担当の蓮舫大臣が人気取り政策として、今年の夏にサマータイム制度の導入を提案しましたが、結局、問題が多いということで、政府は見送ることになりました。

 しかし、東京都など行政組織や企業の一部が実施することになりそうです。
 東京都は「都庁版サマータイム」という紛らわしい名前で6月から新宿にある本庁舎の9500人を対象に始めており、明日7月1日からは出先機関の1万5500人も対象に、これまでの8時30分、9時、9時30分であった出勤時間を、7時30分、8時、9時に早め、9月末まで3ヶ月間実施しますし、兵庫県庁も6月22日から就業時間を45分早めています。
 民間でもソニー、キャノンを筆頭に多くの企業が仕事の開始を30分から1時間早める計画です。
 これは一見適切な行動のようですが、色々な問題が指摘されており、2008年に福田総理がサマータイムを提案したときにも反対を表明した日本睡眠学会が今年も反対を表明する準備をしています。
 主な理由は健康への影響があるということと、節電効果は乏しく、場合によっては電力需要を増大させるということです。

 そこでサマータイム制度の長短を検討したいのですが、最初にサマータイムの定義を明確にしておきたいと思います。
 サマータイムという言葉は国家や地域単位で一律に決めている時刻を全体に変えることで、東京都や企業が個別に出勤時間を早める場合は時差出勤とか時差通勤というのが正しい表現です。
 そのサマータイムを実施している国は世界に70カ国程度あるようですが、大半の国々に共通するのは緯度の高い国々ということです。
 このような国々では夏と冬の昼間の時間が大幅に違います。
 例えば北緯59度にあるストックホルムは夏至の日の出と日の入りは2時31分と21時9分ですが、冬至になると8時43分と14時49分です。
 これは極端だと言われるのであれば、北緯51度のロンドンは夏至のときが3時43分と20時22分、冬至のときが8時4分と15時54分です。
 したがって、夏と冬では昼間の時間に5時間から6時間の差がありますから、夏は朝早くから出勤すれば、午後は8時から9時頃までの明るい時間に余暇を過ごすことができるという効果が期待できます。

 ところが北緯35度の東京では夏至の日の出が4時25分、日の入りが19時ですが、冬至でも6時47分と16時31分ですから、それほど効果はありません。
 ちなみに北緯13度のバンコクは夏至が5時51分と18時48分、冬至が6時37分と17時56分と1時間程度の差です。
 したがって低緯度の国でサマータイムを実施している国は例外で、ほとんど亜熱帯の東京で実施する根拠はそれほど無いということになります。
 それ以外の反対理由として、体内時計問題があり、急に睡眠時間や起床時間を変えると調節が上手くいかず体調不良になるということです。
 その結果、寝不足のまま自動車の運転をしたり、仕事をしたりすると、事故や失敗が増えるという意見があり、交通事故が増えたという報告もあります。
 さらに現在は普通の家庭でも数個は時計があるし、コンピュータなど電子機器に膨大な数の時計が組込まれており、それを1年に2回修正するためには、大変な手間と時間がかかりますし、それが原因で事故などが発生する可能性もないわけではありません。

 最大の目的の節電効果ですが、減少するのは照明用の電力です。NHKの「生活時間調査報告書」をもとに、働いている人々が真直ぐ家に帰り、日没後に照明器具を利用すると仮定すると、東京では13%電力消費が減りますが、家庭の電力消費のうち照明には16%しか使われていませんので、全体では2%削減されることになります。
 政府が家庭に要請しているのは15%の節約ですから、この数字はそれなりの効果がありますが、当然、増える分もあります。
 早い時間に帰宅すれば、まだ暑いのでクーラーを使うとか、テレビを見るとかすれば逆に電力消費が増える可能性もありますし、帰宅前にビアホールでも立寄れば、そこで電力を消費する可能性もあります。
 実際、サマータイムを実施しているアメリカでは電力消費が1%から4%増えたという地域もあります。

 しかし、もっとも大事なことは、24日の猛暑日の例でも分かるように、午後2時頃の気温が最高になる時間帯の電力消費が最大になるときに消費を下げることで、これまでの8時30分出勤を7時30分にしても、仕事が終わるのは3時30分ですから、最大のときには効果がないということになります。
 そのオフィスでは、冷房、エレベータ、給排水などで電力の60%弱を使い、照明は20%弱ですから、むしろ10時出勤にして2時頃から3時頃を昼の休みにしたほうが、効果があります。
 いずれにしても節電の最大の目的は短時間に需要が集中しないことですから、サマータイムで一斉に時間をずらしても効果がなく、時差出勤や休み時間をずらすなどフレックスタイムを検討した方が有効です。





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