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論文

 福島原子力発電所の事故の関係で、放射線の状態を表すために、シーベルトとかベクレルなどの単位が使われていますが、普段は聞き慣れない単位なので、理解しにくいと思います。
 そこで、使われている単位と、その数値がどのような値になったら、どのような影響があるかを、即席の勉強ですが、ご紹介したいと思います。
 最初に「放射能」と「放射線」と「放射性物質」という3つの言葉を理解していただく必要があります。
 これは懐中電灯が照らす光で考えると、分かりやすいと思いますが、懐中電灯はスイッチを入れれば光を発生しますが、この発生する光に相当するものを「放射線」と言い、発生する能力を「放射能」と言います。
 そして放射線を発生する能力のある物質、すなわち懐中電灯本体に相当するものを「放射性物質」と言います。

 物質の大半は安定した状態にあり変化しないのですが、ウランやプルトニウムなどの放射性物質は不安定な原子核を持っているので、それが安定した状態に変化しようとするときに原子核の内部にある余分なエネルギーを放出します。これが放射線です。
 この放射線を出す物質の能力を示す単位が「ベクレル」で、1秒間に放射線を出す回数が1回であるときに1ベクレルと表現します。
 例えば、茨城県の高萩市でハウス栽培のホウレンソウの放射線の測定値が3月19日に1万1000ベクレルという報道がありましたが、これはホウレンソウに付着した放射性物質が1秒間に1万1000回の放射線を出したということです。

 ところが、懐中電灯の光も近くでは明るいし、離れれば暗くなるように、放射線も同様に、人間が受けたときの状況によって影響が違います。
 そこで人体の臓器などの組織が放射線を受けたとき、すなわち被爆したときに、組織1キログラムあたり吸収する放射線のエネルギーを測り、これを「グレイ」という単位で表現します。
 ところが放射線にはアルファ線とかガンマ線など何種類かあり、人体への影響が違いますので、それらを勘案して全身にどの程度の影響があるかを計算した総合的な値が「シーベルト」となります。
 したがって、健康について心配するときは「ベクレル」と「シーベルト」だけで十分です。

 だれもが知りたい放射線が人体に与える影響ですが、今日は「シーベルト」に関係する影響をご説明したいと思います。
 これを理解するときの注意は、頭に付いている単位を示す接頭辞と、被爆する時間の単位です。
 接頭辞として使われているのは「ミリ」が1000分の1、「マイクロ」が100万分の1、「ナノ」が10億分の1というように3桁ごとに違う表現になります。
 時間は毎秒、毎時、年間などが使われるので、誤解をしないことが重要です。
 もうひとつ重要な知識は、人間が受ける放射線には正常なときにも周囲の環境から受けている自然放射線と、レントゲン撮影やCT検査を受けるとき、さらに今回の事故のような場合に受ける人工放射線があるということです。
 最初に自然放射線について簡単に触れますと、大きくは4種類あり、地面に含まれる放射性物質から、宇宙線から、空気中から吸い込んだ放射性物質から、食べた食物に含まれている放射性物質からで、世界平均で年間2・4ミリシーベルトですが、日本は空気中の放射性物質が少ないので、1・48ミリシーベルトになっています。

 人工放射線について一般の方々が経験するのは胸部のレントゲン撮影で1回につき0・05ミリシーベルト、胃の場合に0・6ミリシーベルト、胸をCT撮影すると6・9ミリシーベルトになります。
 これらを合計すると、日本人は平常の状態であれば、年間、自然放射線を1・48ミリシーベルト、人工放射線を2・27ミリシーベルト、合計3・75ミリシーベルト被爆していることになります。
 そして、これ以外の被爆の限度として年間1ミリシーベルト以下にするという基準が定められています。
 そこで、現在の福島第一原子力発電所の影響がどうなるかということですが、政府や東京電力の記者会見などで発表される数字が信用できるかと疑心暗鬼の方も多いと思います。
 しかし、幸いなことにインターネット時代になり、文部科学省や公的機関が各地で測定値を毎時間ごとに公表していますので、それを自身で確認されれば、少なくとも数値が修正されているという心配はないと思います。
 それでも政府だから信用できないという方には、民間の個人が測定して公表している数値もありますので、それらを比較することも可能です。

 例えば、東京都心では新宿区にある東京都健康安全研究センターや文京区にある東京大学が毎時間ごとに発表しています。
 ここ数日で最高値は前者で0・115マイクロシーベルト/時、後者で0・12マイクロシーベルト/時ですが、今回のような事故の影響が無いときは0・05から0・1マイクロシーベルト程度ですから、増加分は0・02から0・065マイクロシーベルト/時で、年間にすると0・18から0・57ミリシーベルトになり、基準の年間1ミリシーベルト以下です。
 また文京区で民間の方が1分ごとに測定して発表しておられる数字もありますが、通常より時間あたり0・0417マイクロシーベルト増えています。
 しかし、これも、1年間では0・36ミリシーベルトですから、現状では心配する必要はないということになります。
 目に見えない放射線は恐怖であるし、時間が経ってから影響が出ることも心配ですから、用心することは重要ですが、正確な情報なしで買いだめに走ることなどは慎みたいと思います。





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