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論文

 東北関東大震災により大変な事態になっていますが、昨日の午後3時に開かれた宮城県の災害対策本部会議で宮城県警本部長が「犠牲者が1万人単位に及ぶことは必至である」という報告をし、本当であれば、広島の原子爆弾投下による死者約14万人、同様に長崎の約7万人など戦争中の被害を別にすれば、伊勢湾台風(1959)の約5100人、阪神・淡路大震災(1995)の約6500人という犠牲者をはるかに越える、自然災害では戦後最大になる可能性がきわめて大きい異常事態です。

 しかし今回、津波だけではなく、新たに原子力発電所の問題が発生しました。
 すでにマスメディアで東京電力の福島第一原子力発電所と福島第二原子力発電所、そして東北電力の女川原子力発電所の事故の問題は採り上げていますが、どのような問題が発生しているかを要約してみたいと思います。
 原子力発電所も発電の原理は火力発電所と同じで、高温の蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービンを回して発電するのですが、火力発電は重油などを燃やして蒸気を作るのに対し、原子力発電はウランに中性子が衝突すると核分裂をしますが、そのときに熱を発生するので、その熱を使って高温の蒸気を作るというわけです。
 ただし燃料棒は1700℃程度になり、その温度ではタービンなどが保たないので、2百数十℃の蒸気にして使用しています。
 今回、何が起こっているかをご説明するためには、原子力発電装置がどのような構造で出来ているかを、ご説明すると理解しやすいと思います。
 簡単に言うと、核分裂を起こす燃料棒を水中に入れ、ステンレス製の「原子炉圧力容器」と、その外側の鋼やコンクリートで作った「原子炉格納容器」で二重に包み、さらに一昨日爆発した建て屋で覆っているという3重構造になっています。

 今回の福島第一原子力発電所には1号機から6号機まで、6基の原子力発電装置がありますが、4号機から6号機までの3基は定期検査中で稼動しておらず、1号機から3号機が運転中でした。
 これらには何重にも安全装置が組込まれています。各号機で安全手段を講じた時間は違っていますが、ほぼ同じ手順で対処しています。
 第一段階として、地震を感知すると燃料棒の間に制御棒が自動的に挿入され運転は停止するのですが、これは上手く作動しました。
 第二段階として、運転が停止しても燃料棒は1700℃以上なので冷却するために冷却水を循環させて冷やしていく必要がありますが、その水の循環が上手くできないと同時に、格納容器内の水位が下がって燃料棒が水中から露出した状態になり、どんどん温度が上がってメルトダウンと呼ばれる燃料棒が溶けていく状態になってしまいました。
 そこで11日の午後7時頃に日本では初めて「原子力緊急事態宣言」が発せられ、付近の住民に避難指示や屋内待機指示が出されました。
 この範囲が最初の半径3kmから次第に半径20kmにまで拡大し、不気味な感じがしています。

 燃料棒を水没させないと内側の容器の圧力が上がって爆発する可能性があるので、容器内の気体を外部に放出し、さらに最後の手段として、13日に圧力容器内に外部から水を注入して水位を上げ、燃料棒を水中に没するようにすると同時に、二重の容器の間にも水を入れて圧力容器を外側からも冷やすという段階になりました。
 この水は淡水が望ましいのですが、途中から海水に中性子を吸収する性質のあるホウ酸を混ぜて注入しています。
 海水には様々な不純物が含まれているので、この措置を行えば装置の再生はほとんど不可能になりますが、まさに背に腹は変えられないという状態を象徴しています。
 しかし、現在でも圧力容器内の水位は上がらず、燃料棒が半分近く露出しているようです。
 気体を外部に放出した段階で、外部に放射能が漏れた可能性があり、一時的に相当の量になりましたが、現在では低下して安定しつつあるとのことです。

 過去にアメリカのスリーマイル島と、ロシアのチェルノブイリで発生した類似の事故があったにも関わらず、このような事態に至ったのは、M9・0という20世紀以後の地震のなかでは世界で5番目の規模をもつ地震が発生し、設計段階で想定していた以上の津波が発生したということです。
 昨日の原子力安全保安院の広報担当の職員が、記者の追求に「頻繁におこることではないですから」という捨て台詞に近い発言をしている場面が放送されていましたが、放射能が大量に拡散すれば被害は膨大になる技術ですから、地震国日本は想定基準を再考する必要があると思います。
 もう一点は日本のエネルギー政策について、日本は現在、電力の4分の1近くを原子力発電に依存し、二酸化炭素の排出が少ないからと、さらに増設する意向です。
 その結果、世界ではアメリカ、フランスに次いで原子力発電の能力を持つ国になっています。
 これはウランが安定して確保できる資源という理由が大きいのですが、増大する電力需要に対応するという理由もあります。
 しかし、需要が増えれば供給も増やすという発想では、贅沢な生活を維持するために危険の可能性のある原子力発電を増やすということになりかねません。
 先週、ベトナムと中国の国境付近の山岳地帯に行っていましたが、電気が来ているというのが不思議なほどの僻地で、当然、毎日、何度も停電しています。しかし、地域の人々は関係なく生活していました。
 今日から実施される予定である「計画停電」を機会に、われわれが贅沢に使っているエネルギーのあり方も再考すべきだと思います。





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