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論文

 1月14日にチュニジアのベンアリ大統領が国外脱出、2月11日にエジプトのムバラク大統領が辞任、21日にリビアのカダフィ大佐が退陣間近、その影響により、現在、アフリカ北部のモーリタニア、モロッコ、アルジェリア、中東のヨルダン、サウジアラビア、イエメン、オマーン、ジブチ、バーレーン、クウェート、イラク、イランなどに、現政権に反対するデモ活動が波及し、中国にさえ飛び火しそうな状況です。
 この背後にはユーチューブ、ツィッター、フェイスブックなどSNSと総称される通信手段が存在しているということが盛んに報道されています。
 これまでも1986年にフィリピンでマルコス大統領が失脚することに影響したのは「ベリタス」というラジオ放送でしたし、89年にポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニアなどの共産党国家が次々と崩壊したのは衛星テレビジョン放送の影響でした。
 このように通信手段の進歩が社会を大きく変えることは否定できませんが、いくら通信手段が火を点けても、燃える材料のないところで火事は起きないわけですから、国民が政権打倒を目指さざるを得ない社会構造が存在していたことが重要です。

 リビアのカダフィ大佐が41年、エジプトのムバラク大統領が31年、チュニジアのベンアリ大統領が25年という長期政権の問題は十分に紹介されていますので、それ以外の火種を探してみます。
 まず社会の腐敗です。1995年にベルリンに設立された「トランスペアレンシー・インターナショナル」、あえて訳せば「世界を透明にする組織」は世界の10の組織が行っている16の世論調査を基にして、178の国について、それぞれの社会で政治家と役人の不正の程度を評価し、「コラプション・パーセプションズ・インデックス(腐敗認知指標)」を毎年発表しています。
 現在、国内で抗議デモなどは発生している国について、2010年版の順位を並べてみると、イラクが178カ国中175位、イエメン、リビア、イランが146位、アルジェリアが105位、エジプトが98位で汚職などが進んでいる国になっています。
 参考までに日本は17位ですから、世界全体ではクリーンな部類です。

 その結果、社会に不平等が発生しているわけですが、これを示すのがジニ係数です。
 国民すべてが均等な収入を得ている場合が「0」、一人が富を独占している場合が「1」となるように計算した数字です。
 世界のすべての国について数字が揃っている訳ではありませんが、格差の無い方から数えて、イランが80位、チュニジアが70位、モロッコが68位、ヨルダンが56位などで、格差の多い国になっており、これも発火材料になっています。
 日本は実感がないかも知れませんが、世界3位できわめて所得格差のない国と評価されています。

 次に、アメリカの首都ワシントンにある「フリーダムハウス」というNGOが、196カ国について報道の自由の順番を調査しています。
 2010年版で、リビアが192位、チュニジアが186位、サウジアラビアが178位、イエメンが173位、ジブチが159位、オマーンとバーレーンが153位、クウェートが115位などで、抗議デモが発生している国々は軒並み下位です。
 少なくともこれまでは、これらの国々の国民の潜在的な不満は国内にも国外にも、それほど報道されてこなかったのですが、そこにツィッターやフェイスブックが火を点けたということになります。
 日本は記者クラブ制度などが批判され32位で、先進諸国では低い順位ですが、皮肉な見方をすれば、マスメディアの怠慢で騒動が回避されているともいえます。

 ロンドンで発行されている経済週刊誌『エコノミスト』の発行会社の一部に「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」という組織があり、世界各国の人々に60の質問をして、167の国の民主主義の程度を計算しています。
 これについても、話題になっている国々の順位を紹介しますと、サウジアラビアが160位、リビアとイランが158位、ジブチが154位、イエメンが146位、チュニジアが144位、エジプトが138位で、発火材料が揃っています。
 日本は22位ですから、現在の政治が民主主義を反映しているか疑問にしても、現在の渦中にある国々よりはましだということではないかと思います。

 最後に興味ある数字を見てみたいと思いますが、現在、騒動になっている国々に共通するのが、インターネットの普及は十分ではありませんが、携帯電話が最近になって急速に普及しているということです。
 統計が十分に揃っていませんが、エジプトはインターネットの普及は17%程度ですが、携帯電話は2006年の24%から2010年には77%へ急増しました。
 ヨルダンもインターネットが26%、携帯電話が74%から101%、すなわち一人一台以上になったということです。
 イランはインターネットが31%、携帯電話が19%から69%に増加です。そして、この携帯電話を使ってツィッターやフェイスブックが火を点けていったという仕組です。

 多数の統計資料の一部のみを紹介していますので、十分にご理解いただけたか分かりませんが、もし、このような分析が妥当であるとすると、今後、争乱が発生しそうな国を探し出すことができます。
 例えば、ロシアは腐敗認知紙数(CPI)が154位、報道の自由が175位、ジニ係数が92位、民主主義指標が107位である一方、インターネットの普及は35%で低く、携帯電話は83%から147%に急増で資格十分です。
 数字は省略しますが、中国もブラジルもベトナムも同じような状態にあります。
 BRICs+Vの経済は急成長していますが、インドを除く他の4カ国は危険を含みながらの成長かも知れません。





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