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論文

 昨年の1月31日に放送された「NHKスペシャル:無縁社会−無縁死3万2000人の衝撃」という番組が題名どおり日本社会に衝撃を与え、「無縁社会」という言葉が頻繁に使われるようになりました。
 この番組は昨年10月に第58回菊池寛賞を受賞しましたし、「無縁社会」という言葉は昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」においても、トップテンに選ばれ、現在の日本社会の異常を象徴する言葉になりました。
 番組では、NHKの取材班が一昨年から全国を取材し、日本中で1年間に3万2000人もの人々がだれにも看取られずに亡くなっているという事実を明らかにしました。
 その副産物というのでは軽すぎますが、7月には東京都足立区で都内では最高齢の男性の遺体がミイラになった状態で発見されたり、親の死を届け出ず、死後も家族が長年にわたり年金を不正に受け取っているという現実も明らかになりました。

 この無縁という言葉に使われている「縁」でできた社会を英語ではコミュニティと言いますが、これはラテン語の「コム・ムーヌス」という言葉が語源です。
 「コム」は「コミュニケーション」などに使われている接頭語で「一緒に」という意味で、「ムーヌス」は「贈物をする」という意味ですから、お互いに贈物を交換するほど仲の良い人々が作る社会がコミュニティです。
 そこで歴史を振り返ってみると、狩猟採集時代には、家族や一族という単位で獲物を探しながら移動生活をしていましたから、「血縁」が社会の基本コミュニティを作っていました。
 農耕牧畜時代になると、牧場や田畑の周辺に定住して、種蒔きや刈入れなどの共同作業などをするため、同じ土地に生活する人々がコミュニティを形成する「地縁社会」になりました。
 そして産業革命によって多数の人々が自宅から離れた場所にある工場やオフィスに通勤するようになり、もっとも関係の深い仲間が居るのは職場になり、「職縁社会」とか会社の縁を意味する「社縁社会」が社会の中心になりました。

 間もなくバレンタインデーになりますが、義理チョコを贈るのは自宅の隣近所の人々にではなく、職場の上司や同僚ということからも「職縁」が現代社会で重要な役割を果たしていることが分かります。
 ここまでは問題ないのですが、新しい問題が登場しました。高齢と定年です。
 血縁社会が主流であった縄文時代に、日本人のゼロ歳時点での平均余命は15歳くらい、基本は農業社会で地縁社会であった江戸時代には36歳くらいでした。
 したがって、ほとんどの人は仕事をしている現役のときに亡くなっており、血縁社会や地縁社会のなかで人生を終えることが出来ました。
 ところが現在、日本人のゼロ歳のときの平均余命は男性で79歳、女性で86歳になり、世界最高の長寿社会になっています。
 問題は、パートタイムの就業者も含めると、働いている人の80%近くが給与生活者、つまり職縁で生活しており、それらの人々には60歳とか65歳で定年があるということです。
 仮に60歳としてみると、男性の場合、人生の最後の19年間、女性の場合26年間は職縁が無くなり、無縁社会で生活する可能性があるということです。

 この問題を解決していくことは、社会が考えなければいけない側面もありますが、まず個人が考えるべきだと思います。
 普通には、会社の勤めているときから職場以外での遊び友達を作り、「遊縁」を用意しておくとか、定年後はボランティア活動をして社会奉仕の仲間と「奉縁」で生活するということが考えられますが、もう手遅れという方々のために、新しい可能性をご紹介したいと思います。

 現在、映画館で上映されている『ソーシャル・ネットワーク』というアメリカ映画があります。
 これはインターネットの中に作られた、一般にソーシャル・ネットワークと呼ばれる会員グループで世界最大となった「フェイスブック」を作って大成功したマーク・ザッカーバーグという、現在まだ26歳の若者を主人公にした映画です。
 インターネットの内部には「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」と呼ばれる会員グループが多数存在しており、日本では「mixi」や、携帯電話をアクセスの道具とする「GREE」「モバゲータウン」が有名です。
 「mixi」「GREE」「モバゲータウン」の会員数は2000万人を超えた程度ですが、「フェイスブック」は昨年7月で5億人を突破、現在6億人に接近しており、世界の10人に1人が参加する桁違いの規模です。
 もうひとつ「フェイスブック」の重要な特徴は、多くのインターネットによる会員グループが「ハンドルネーム」と呼ばれる仮名で参加する匿名性を売物にしていますが、「フェイスブック」は実名を基本にしていることです。

 この「フェイスブック」の参加者は平均130人の友達をネットワーク内部で作っており、6億人弱の半数は毎日アクセスし、それらの人々は、必要不可欠のコミュニティを「フェイスブック」に見出しているようです。
 これへの参加資格は13歳以上ということだけですから、定年後の方々はすべて参加資格があります。
 言葉の問題があるのかも知れませんが、日本の会員は300万人ほどでまだまだ少数ですが、今後、急速に増えてくと思われます。
 無縁になりそうな方々は、通信で実現する縁「通線」で、新しい可能性を追求されたらどうかと思います。





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