TOPページへ論文ページへ
論文

 昨年は国際連合の定める「国際生物多様性年」で、10月に名古屋市で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催されて話題になりましたが、今年は「国際森林年」となっています。
 そこで、森林について国際的な話題と国内的な話題を見てみたいと思います。
 国際的な話題は何と言っても森林が消滅していくということです。
 ローマに本部のある国際連合食糧農業機関(FAO)が1990年から2005年までの15年間に世界全体で森林がどれだけ減少したかを調査していますが、1億2530万ヘクタールが消滅しています。北欧3カ国が占めるスカンジナビア半島に匹敵する面積です。
 1年にすると、835万ヘクタールになりますが、これは北方四島も含めた北海道の面積と丁度同じです。
 その凄まじさがなかなか実感できないと思いますので、1秒に換算してみると、2650平方メートルですが、国際規格のテニスコートの周囲も含めた最小の面積が1面あたり668平方メートルですから4面分になります。

 2005年に地球に残っていた森林の面積は39億5000万ヘクタールでしたから、1年間の減少面積で割ると473、このまま現状が続けば470年ほど先には地球には木が1本も残っていないという計算になります。
 森林は木材を提供するだけではなく、人間が化石燃料を燃やして排出する二酸化炭素と自然環境を開発して排出する二酸化炭素を合計すると80億トンになりますが、その3分の1は森林が酸素に転換していますから、その機能が減っていけば大気中の二酸化炭素は急速に増え、温暖化が加速することになります。
 ということは、現在の状態で人間が森林を利用していけば、人類の寿命は数百年で終わるということになりかねない数字です。
 今年が「国際森林年」に定められたのには、そのような背景があるわけです。

 日本はどうかというと、1960年頃から現在まで森林面積は一定ですし、木は成長していますから、森林蓄積量という木の容積は同じ50年間で2.3倍にも増えています。
 素晴らしいと思われるかも知れませんが、日本は国内の森林を伐採しない代わりに海外の森林を伐採して利用しているのです。
 1960年には木材自給率は90%でしたが、2005年には20%になり、現在、日本が利用している丸太や木材チップは80%を海外の森林に依存しています。
 理由は明瞭で海外から輸送する運賃を計算しても、国内の木材よりも安いからです。
 その結果、日本の林業は経済的に成立しない状態になってしまい、1990年には日本全体で1兆円産業でしたが、わずか15年で4300億円と6割近くも減ってしまいました。

 そこで新たな問題が登場してきました。
 最近、ようやく一部の新聞が採り上げるようになりましたが、日本の森林が外国資本によって買収されているという問題です。
 農地の売買は事前に農業委員会もしくは知事の許可が必要なので、実態が把握されていますが、森林の場合は、地価高騰のおそれのある地域のみは一定面積以上の売買に限って「国土利用計画法」で事前届け出を義務づけていますが、それ以外は事後の届出でだけでいいので、実態が十分には把握されていません。
 そこで昨年、北海道内の森林については、北海道庁が調査をして11月に結果を発表しました。
 それによると、中国、シンガポール、オーストラリアなど10カ国の個人や企業が、合計すると33カ所で820ヘクタールを取得していることが分かりました。東京ドームで180カ所分に相当します。
 これは北海道だけですから本州以南では不明です。
 このような状況に警戒論が登場してきました。
 どのような目的で外資が取得しているかは分かりませんが、昨年、僕が北海道で見てきた場所は、1カ所はリゾート地域の温泉の源泉を含む場所、1カ所は陸上自衛隊の駐屯地を一望できる場所でした。
 このような例から安全保障の視点での問題があることです。
 また水源地となっている森林もあり、水資源の維持の視点でも不安があるというわけです。

 そこで自治体にも対抗する動きが出始めました。
 先程の北海道内の820ヘクタールの半分はスキーや登山で有名な倶知安やニセコに集中していますので、ニセコ町では買い取られた水源地の森林を町が買い戻す交渉を始めると同時に、買い取りを制限する条例を検討しています。
 東京都も多摩川の源流の民有林を買収しはじめましたし、長野県の安曇野市でも地下水源の所有や利用についての規則を検討しはじめています。
 さらに国でも動きがあり「森林法」を改正して、森林を取得するときは市町村に届出を義務づける案が作成されていますし、1925年に制定され、現在では有名無実になっている、外国人の土地取得を制限できる「外国人土地法」を復活させるべきという意見も出始めています。
 実際、フィリッピン、タイ、インドネシアは外国人の土地取得を禁止しています。
 昨年、いくつかの事件で、日本が安全保障に鈍感だということが明らかになりましたが、森林についても同じ傾向です。
 今年の「国際森林年」を契機に、森林の安全保障についても検討すべです。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.