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論文

 この2週間、客船「飛鳥U」に乗って北太平洋を眺めてきましたが、改めて日本は海を見直さなければいけないと思いました。
 日本の国土面積は38万平方キロメートルで世界の60番目、最大のロシアに比べると、わずか45分の1しかありません。
 しかし、海岸から12海里、約22キロメートルまでの領海は43万平方キロメートルと国土面積より広大です。
 さらに海岸から200海里、約370キロメートルの排他的経済水域は448万平方キロメートルもあり、世界で6番目です。

 この広大な海を利用しているかというと、残念ながら、十分とは言えません。
 海の利用というと、最初に思い浮かぶのは漁業です。
 日本の漁業生産量は1990年代まで世界一でしたが、2000年に中国とペルーに一気に抜かれて3位となり、2007年には5位に後退しています。
 とりわけ脅威は中国で、1990年には日本の70%程度の漁獲量でしたが、2007年には日本の3・5倍という異常な躍進です。
 もうひとつ日本の脅威は、かつての中国は河川の淡水魚が中心でしたが、現在では85%が海の魚になっていることです。
 その結果、1950年代までは魚介類を自給していた日本も、1995年には自給率が50%を切り、現在では44%、すなわち半分以上が外国から輸入するという状態です。
 その状況に追い打ちをかけているのが、日本人が魚介を食べなくなったことです。
 戦後から1995年まで一人あたりの魚介類の消費は順調に増加してきましたが、最近では最盛期の88%程度になっています。
 その代わりに増えたのが肉類の消費で、1950年と比較すると一人あたりで20倍も増えています。

 海に関連する産業といえば造船も重要です。
 日本は1970年代から90年代までは圧倒的な造船王国でした。ところが2000年に僅差で韓国に抜かれ、2008年には韓国の7割程度になり、最近、急速に成長してきた中国に間もなく抜かれるという状況です。
 もちろん、19世紀から20世紀の中頃までは世界の造船王国であったイギリスが20世紀後半にはアメリカに抜かれ、そのアメリカが日本に抜かれたというように、賃金の格差から中心が移動していくのは必然ですが、日本としては残念な状態です。

 産業ではない海の利用はレクリエーションですが、これもぱっとしません。
 まずヨットやモーターボートなどプレジャーボートといわれる船の台数が減っているのです。
 これも2000年頃が最大で33万隻ほどありましたが、2006年には26万隻と20%以上減少してしまいました。
 しかも人口一人あたりで比較すると、日本が最大の2000年のときに人口1000人あたり2・7隻でしたが、アメリカは50隻で日本の19倍、オーストラリアは32隻で12倍という大差です。
 船が多いから競技で強いということには直結しませんが、日本は水上スポーツでも弱小国で、例えば、オリンピック競技での成績を調べてみると、これまでの最高が1996年のアトランタ大会で、470級のヨットレースで女子が2位に入賞したのが唯一のメダルです。
 カヌー競技についても、前回の北京大会でスラローム競技で女子が4位になったのが過去最高の成績です。
 色々な原因がありますが、日本人の水上スポーツへの参加人数が少ないということが有力な原因で、オリンピックに出場したければカヌーをするといいという冗談があるほどです。

 そのような体力を必要とするレクリエーションは自信がないという方には、客船でクルーズをしながら海を楽しむという方法がありますが、これも低調です。
 現在、乗船している「飛鳥U」という客船が、現在のところ日本最大ですが、これは約5万トンの船です。
 しかし、世界は20万トン級時代になっており、15万トン級の客船が主流です。
 その結果、日本人の人口あたりクルーズ人口は少なく、2008年の統計では、クルーズに参加した人数は人口1000人あたり2人弱ですが、アメリカは28人、イギリスは14人、オーストラリアは11人と桁違いです。

 21世紀のフロンティアは宇宙と海洋だと言われています。
 宇宙は先頃の「はやぶさ」の7年ぶりの帰還や、宇宙ステーションでの日本人の活躍など話題になりますし、海洋でも世界の有人潜水艇で、もっとも深いところまで潜水できるのは日本の「しんかい6500」ですし、海底2500mから、さらに7500mの地底まで掘削できる「ちきゅう」は世界でただ1隻の調査船です。
 このような科学技術で日本が努力しているのは、海底には日本の陸地にほとんどない様々な金属資源が豊富にあるし、メタンハイドレートといわれる石油の代わりになる物質も大量に存在しているからです。
 そのような分野の調査研究を進めるためには、研究予算も必要ですが、日本人が海に親しみ、海の重要さを認識することが重要だと思います。





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