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論文

 2週間ほど、ミクロネシア連邦に出かけていましたので、ダイビングを楽しむ方々以外には、あまり知られていないミクロネシアの島々についてご紹介したいと思います。
 太平洋の東半分は「ポリネシア」、西半分の赤道から南側が「メラネシア」、北側が「ミクロネシア」というように、大きく3つに分かれています。
 そのミクロネシアには、グアムなどを含む「マリアナ諸島」、原子爆弾の実験で世界に名前が知れ渡ったビキニ環礁を含む「マーシャル諸島」、そして「カロリン諸島」などがあります。
 その「カロリン諸島」のうち、コスラエ、ポンペイ、チューク、ヤップの比較的大きな島を中心とする島々が一体となって、1986年に独立したのが「ミクロネシア連邦」です。

 このミクロネシアの島々には4000年前にはフィリピンやインドネシアの方面から人が渡ってきていたと考えられていますが、西欧の探検家が発見したのは16世紀のことで、その後、スペイン、ドイツ、日本、アメリカが支配し、約25年前に独立したという歴史です。

 今回は最初に連邦の首都が置かれているポンペイ島に行きました。太平洋の島々というと、海面上昇で水没すると話題になっているツバルなどの映像が紹介されますので、水面すれすれの珊瑚礁でできた島を思い浮べますが、そのような珊瑚礁でできた島と、火山でできた島の2種類があります。
 ミクロネシア連邦の島々はほとんどが火山でできた島のため、ポンペイ島は屋久島より一回り小さい直径24km程度の円形の島ですが、中央部には800m近い山がいくつか聳えており、そこへ海上から湿った風が当たって上昇して雨になるため、山間部では年間雨量が1万mmにもなり、ハワイ諸島のカウアイ島に次いで世界で2番目に降雨の多い島といわれており、その結果、島の中には大きな滝がいくつもあるほどです。

 このポンペイ島で世界的に有名な名所は「ナン・マトール」遺跡です。
 これは11世紀から17世紀頃まで、この島を支配したシャウテロール王朝が島の水際に建造した城塞で、島の一部で産出する柱状節理の玄武岩を校倉造りのように積み重ねて92の人工島が作られており、私はその人工島の間の水路を伝統的なカヌーを漕いで見物しましたが、まだ遺跡には解明されていない謎が多く、巨大な石造の構造物が熱帯雨林に次第に覆われて行く様子はなかなか神秘的でした。

 もう一つの訪れたのがヤップ島です。ここで有名なのは石の貨幣、石貨です。
 これは約500km西にあるヤップ島のパラオにある鍾乳石を加工し、カヌーでヤップ島まで運んできたものです。
 日本が統治していた時代には1万3281個が残っていたそうですが、現在では半数くらいになっています。それでもヤップ島の道路沿いでは普通に見掛けます。
 大きさは直径20cmほどの小さい物から、最大は直径3・7m、重さ5トンの物までありますが、興味深いのは、貨幣の価値は大きさによって決まるのではなく、その石貨を作るときの苦労や運ぶときの苦労を伝えた伝説によって決まるということです。
 現在では日常の売買はドルで行われていますが、儀礼的な交換の場では石貨が使われています。
 実際に土地の売買を石貨でおこなう現場を見学させてもらいましたが、ヤップの正装である褌と腰蓑の2人の男性が真ん中の穴に竹竿を差して取引現場に運んできます。
 そこで土地を買う人は、その貨幣にまつわる伝説を売る人に小声で伝えると取引が成立することになります。

 伝説に価値があるので、その内容は秘密ですが、例えば、運んでくる途中で海に落としてしまった石貨でも、その伝説を伝えれば取引に使えるということで、信頼が価値の基本にあるという取引の原点を残している貨幣です。
 もう一つヤップ島で有名な伝統は航海術です。私がヤップ島に滞在しているとき、ヤップ島とグアムを往復したカヌーが戻ってきましたので、早速、グアムから戻ってきたばかりのカヌーに乗せてもらいました。
 アウトリガーの付いた1枚帆のヨットで、タッキングをすれば風上にも遡ることができるのですが、現代のヨットとは違って釘も金具も一切使わない船で、船室もなく、タッキングも重労働で、このような船で磁石もGPSも使わず、太陽と星と経験だけで、数千kmを航海できる能力に感心しました。

 そして大変に気になったことがありました。12歳までヤップ島で過ごし、定年後にヤップ島に移住して永住するという84歳の日本人男性にお目にかかりました。
 なぜ、ここに永住するのですかと質問したところ、現在の日本の大人は大人としての威厳を失っていて、住むのが嫌になったのだということでした。
 ヤップ島はミクロネシアの島々では例外的に男性で家系を繋いでいく父系社会のため、家長の権限は絶大で、航海のときはもちろん、日常生活でも家族に命令し統率しています。
 最近の草食系男子などという言葉が流行している日本とは対極にある社会のようで、見習うことが多々あると思いました。
 現在、ミクロネシアに行くためにはグアムで乗り換えが必要で、かなりの時間がかかりますが、来年には日本の援助で延長しているポンペイの滑走路が完成し、直行便が就航する予定です。そうすると5時間ほどで行くことが出来ますので、ぜひ訪問されたらと思います。





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