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論文

 4月中頃にアイスランドで火山が大爆発し、その噴煙のため、ヨーロッパの各都市を中心とする航空路線が運休し、航空会社や空港の損失は1日に200億円近くになるという大騒ぎになりました。
 アイスランドは北緯65度付近にある島国で、北海道と四国を合わせたほどの面積に約32万人が生活しています。
 かつてはデンマーク領で、第二次世界大戦中の1944年に独立しましたが、小さな国の割には、これまで色々な話題になってきた国です。

 自然現象の話題では、度々の火山の噴火です。大規模なものは1783年の噴火で、噴煙が15km上空まで到達して北半球全体の気温が下がり、ヨーロッパ各地で凶作となり、1789年のフランス革命は、その影響で発生したと言われています。
 なぜ何度も噴火が起こるかというと、アイスランドはユーラシアプレートと北アメリカプレートが東西に分かれていく場所の上部に乗っているので、分かりやすく言えば地球の割れ目が地上にまで顔を出している島だからです。

 そのような自然現象は別にして、社会現象でも20世紀末から様々な話題を提供してきました。
 2008年のアメリカのサブプライムローンの破綻から発生した世界金融危機までは、アイスランドは世界でも有数の経済発展をしていた国で、2006年の数字では、一人あたりGDPは世界で3位(日本は18位)、失業率は世界でもっとも低く(日本は12位)、GDPに占める海外からの投資比率は世界1位(日本は49位)という順調さでした。
 しかし、世界金融危機の影響で、積極投資をしていたことが裏目に出て、2008年秋から、アイスランドの銀行が次々と破綻して国有化せざるを得ない状況になり、その資金をロシアやIMFからの融資に依存するという破綻状態になりました。
 また、アイルランドに投資していた外国の大口預金者を公的資金で救済することに国民が反発し、今年の1月には1944年の独立以後はじめての国民投票が行われましたが、圧倒的多数で否決してしまい、イギリスやオランダとの関係も悪化し、EU加盟も雲行きが怪しくなりそうです。
 そこに大噴火で弱り目に祟り目の状況ですが、経済が好調の時期には別の明るい話題もありました。

 アイスランドは巨大な火山の上に存在している国なので、地熱が豊富ですし、雪解け水の流れる急流も各地にあります。そのおかげで現在でも一次エネルギー供給の4分の3以上が地熱発電と水力発電でまかなわれ、残りを輸入の石油で補っています。
 ところが、1998年にアイスランド政府が「2050年までに、すべての化石燃料を水の電気分解で作る水素に切り替え、国内で発生する温室効果ガスをゼロにする」という、大胆な「水素社会計画」を発表しました。

 第一段階として、2001年から2005年までECTOS(環境都市交通システム)と名付けた計画を実施しました。
 内容は首都のレイキャビクに3台の水素燃料バスを走らせて実用評価をすることで、これは無事終わりました。

 第二段階が2007年から始まったSMART-H2計画で、水素燃料の乗用車と、アイスランドの主要産業である漁業の漁船に、予備動力として燃料電池を搭載する実用実験です。
 ところが先ほどご説明したように、国全体が経済破綻してしまったため、計画は頓挫という状態ですが、最近、まったく別の側面からアイスランドが注目されはじめました。

 皮肉なことに、アイスランドが一生懸命発生しないように努力している地球温暖化のおかげです。
 諸説があり、実際はどのように進行するか分かりませんが、地球温暖化の影響で北極海の氷の面積が減少しており、早ければ10年先くらい、遅くても30年先の夏には、すべてが氷結しないで、青い海が広がるという予測があります。
 環境問題としては懸念される現象ですが、経済問題としては歓迎なのです。
 それは太平洋と大西洋の間を、北極海経由の近道で往復できる航路が登場するということです。
 これまでのスエズ運河かパナマ運河を通過する場合に比べて距離は3分の2くらいになりますし、何千万円にもなる運河通行量が不要になりますし、マラッカ海峡やソマリア沖の海賊の心配もなくなるという一石三鳥の効果があります。

 そこに早々と目を付けたのが中国です。中国は今年になってレイキャビクに新しい大使館を建設し、大使館員を増やす手配をし、自由貿易協定(FTA)の交渉をアイスランド政府と始めました。
 また2008年にはアイスランド大学に中国語教育をおこなう孔子学院を設立し、本国では最新技術を集積した砕氷船の設計も開始しました。
 さらに北極海を取り巻く国々で構成する「北極評議会」に、アイスランドの紹介で暫定オブザーバーとして参加もしています。
 このような動きは中国だけではなく、インド、カナダ、EUも行っており、それらの国々は最近になってアイルランドに大使館を設置しています。
 まさに生き馬の目を抜くような動きですが、海運国日本としては戦略性がないということで、真剣に対応すべき課題だと思います。





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