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論文

 今日は「関係人口」という最近、話題になっている地域振興政策についてご紹介したいと思います。
 日本の人口は2008年に1億2808万人で頂点になり、以後、減りはじめて、今年3月には1億2622万人になり、11年間で186万人、単純に平均すると毎年17万人ずつ減っています。
 実感がわかないかも知れませんが、北海道の釧路市や青森県の弘前市が毎年一つずつ消えて行くと考えると大変な減少です。
 これも問題ですが、もう一つの深刻な問題は地域によって減り方に差があることです。
 2010年から2015年の5年間で、人口が増加したのは東京、埼玉、神奈川、千葉の首都圏以外に愛知、滋賀、福岡、沖縄という1都7県のみで、他はすべて減少で、福島の11万5000人は原子力発電所の事故の影響ですが、それ以外に北海道(12万5000人)、新潟(7万人)、青森(6万5000人)、静岡(6万5000人)、秋田(6万3000人)などが目立っています。

 このような人口は「定住人口」といいますが、日本全体の人口が減っていけば当然、各地域の定住人口は減っていきますから深刻な問題です。
 その対策として登場してきたのが「交流人口」でした。
 観光やビジネスなどのために外部から訪問する人々のことで、それらの人々が地域に賑やかさをもたらすとともに、経済的な効果ももたらすという一石二鳥の対策です。
 これは各地に存在する自然や名所旧跡を生かすという意味では有効ですが、一過性の人口ですから地域の基盤にはなりにくい人口です。

 そこで新たに登場してきたのが「関係人口」という概念です。
 これは2016年に『ソトコト』という雑誌の編集長の指出(さしで)一正さんが出版した『ぼくらは地方で幸せを見つける』という本が源流と言われていますが、地方(ローカル)に価値を見出す若者が増えていることを背景に、地方に定住したり頻繁に訪問しなくても、広い意味で「地域に関わってくれる人口」が増えている現象をそのように名付けたのです。
 以前から関係人口が活動している政策は2008年から始まった「ふるさと納税」制度です。
 この制度を実施している地方自治体に寄付をすると、2000円以上は所得税と住民税の控除の対象になるうえ、寄付した額の30%から40%程度の金額の地域の特産品などが返礼品として送られてくるので人気が爆発しました。
 当初は5万4000件の寄付があり、寄付額は年間81億円でしたが、返礼品を自治体が競争で豪華にしたため急増し、平成29年度は1730万件の寄付があり、金額も3650億円になり、10年間で件数が320倍、金額が45倍にもなっています。
 税金の控除と返礼品が目当てという人も多いと思いますが、自分の生まれ故郷や仕事で赴任していた町を応援したいという気持ちから寄付をしている人も少なくありません。 

 そこで地域に何らかの関わりのある人々に関係人口になってもらうような努力を始めた自治体が登場してきました。
 鳥取県日野町(ひのちょう)や香川県三木町(みきちょう)では、町と関わりがある人には正式の住民票とは別の「ふるさと住民票」を発行し、町の広報紙を送ったり、行事の案内をするなどして関係を深めています。
 さらに積極的な自治体では、地域が関係人口に期待する役割と地方に貢献したいと考えている人々が手伝いたい内容をマッチングする窓口を用意し、自治体だけではなく地域にある企業が必要とする人材についても情報を提供し、地域のために役に立ちたいと考えている人々が活動の場を発見する取り組みも始まっています。

 ふるさと納税を所管する総務省も同様の趣旨で「ふるさと移住交流促進プロジェクト」「ふるさと起業家支援プロジェクト」を行なっていますが、人気があるのが「ふるさとワーキングホリデー」です。
 これまでワーキングホリデーは海外に観光旅行に行く人が、旅行先で滞在費を稼ぐために働く制度として存在していましたが、その国内版を用意したというわけです。
 これは地方に行って一定期間滞在しようという若者が働きながら滞在費を稼ぐだけではなく、地域の住民と交流したり勉強会に参加して地域のことを詳しく知り関係人口になってもらうという趣旨の制度です。
 温泉旅館の受付や接客、椎茸や野菜の収穫などの農作業、地域の特産品の箱詰めや発送など数多くの仕事があります。
 現在は年度の変わり目で募集が終了している仕事が大半ですが、ぜひ新年度に「ふるさとワーキングホリデー」のポータルサイトをご覧いただければ地域で仕事をしながら観光もできます。

 最後に関係人口にはどのような意味があるかを考えて見たいと思います。
 人間社会の関係の変化を簡単に区分すると、狩猟採集時代は一族が一緒に移動する血縁関係の社会でしたが、農業時代になると同じ場所で仕事をする地縁関係の社会が中心になりました。
 さらに多数の人々が工場やオフィスで働く時代になると、自宅の隣近所とは疎遠で勤務先の人々と一番気心が知れているという職縁関係の社会になりました。
 ところが定年で職縁時代を終わってから30年近く寿命があるという時代になるとともに、多くの人々が血縁も地縁も職縁も無くなってしまうという大問題が発生しました。
 2010年1月にNHKが「無縁社会・無縁死3万2000人の衝撃」という番組を放送し、人間が社会を作り出して数万年で、人間の特徴である「縁」を失う社会が出現して来たことを訴えました。
 この問題を解決する一つの方法が関係人口という新しい縁を作るという考え方ではないかと思います。多くの人々が自分の将来のこととしてだけではなく、日本の将来のためにも関係人口という縁を考えていただければと思います。





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