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論文

 本日3月25日は「電気記念日」です。
 昨年もご紹介しましたが、明治11(1878)年の今日、銀座木挽町に中央電信局が開局したことを記念して、虎ノ門にあった工部大学校で祝賀会が開かれたのですが、そのとき50個のアーク灯が点灯されたことを記念して1927年に制定された記念日です。
 このときの電源は「グローブ電池」でした。これは1844年にウィリアム・グローブが発明したもので、硫酸溶液を満たした容器に、陽極として亜鉛の電極、陰極として素焼きの陶器の中に白金を入れた湿式電池でした。
 それを50個用意して、それぞれにアーク灯を接続して点灯したのです。

 この照明については、当初、ガス灯や石油ランプと新興の電灯との間に熾烈な生存競争がありました。
 そのような時期の1891年1月に電灯の過熱で内幸町に建設された仮国会議事堂が全焼するという事件が発生し、新聞は「流行物たる電気灯は、その恐るべき功能を世人に識らしめたり」と書き、石油販売業界は待っていましたとばかり、電灯の危険を宣伝し、その影響で一気に契約が減ってしまい、結果として電気を供給していた東京電灯会社の社長以下役員全員が辞任するという大事件になりました。
 ところが1909年に石油ランプの失火から大阪市北区が大火となり、今度は電灯会社が「電灯は風が吹いても消えません。火事の危険もありません」という宣伝をし、物事の初期に発生する混乱状態を再現しました。

 ところが、電気の普及の初期には、もう一つの混乱がありました。
 ご存知のように電気には直流と交流があり、電灯が実用になった頃から、電気の供給を直流でおこなうか、交流でおこなうかは議論の的でした。
 実際、日本では1883年に東京電灯会社が設立されて直流で配電し、1889年に大阪電灯会社が交流で配電し、優劣を競っていました。
 その優劣競争は当然ですが、先進のアメリカでも発生していました。しかも有名な発明王トーマス・エジゾンと空気ブレーキを発明したジョージ・ウェスティングハウスの争いでした。
 1878年に白熱電球を発明したエジゾンは、1882年に自分の研究所のあるニューヨークのロワーマンハッタンの周辺の59軒の利用者に電気を供給する事業を開始します。
 世界最初の電力供給事業で、方式は直流110ボルトでしたが、当時は被覆のない裸線で配線していた時代で、安全のため低電圧送電でしたので、途中で電流の損失が大きく効率は低い状態でした。

 このエジソンの配電方式を研究して交流配電に注目したのがウェスティングハウスでした。
 1881年に、ヨーロッパで新しい交流の変圧器が発明されたので、発電所からは電圧を上げて送電し、利用者の近くで再度、変圧器で電圧を下げれば電力損失を大きく減らすことができるということです。
 そこでウェスティングハウスは1885年にヨーロッパから交流発電機と変圧器を購入して改良し、翌年、マサチュセッツで交流送電を始めました。
 これは水力により発電した500ボルトの電気を3000ボルトに上げ、利用する直前の地点で100ボルトに下げて電灯を点灯する方式でした。
 これによってエジソンとウェスティングハウスが対決することになり、様々な争いが発生するのですが、結果は現状が示すように、交流方式の勝利に終わりました。

 世界は完全に交流時代になったのですが、今日の電気記念日に交流と直流の問題を取り上げたのは、最近、直流送電が見直されはじめたからです。
 直流送電の技術的な長所は専門的になりますので、簡単に紹介しますと、
  1)長距離の送電には交流より有利 
  2)送電損失が交流より少ない
  3)電線の絶縁レベルが低く出来る
  4)電線が2本で済む
  5)蓄電が簡単である
ということになりますが、そのような技術的長所はエジソンの時代から分かっていました。

 それでも最近見直される理由は周辺の事情が変わってきたということです。
 まず直流の最大の弱点である電圧の変更が面倒だということについて、半導体素子を使ったサイリスタバルブという装置で比較的簡単に可能になったことがあげられます。
 このような技術的な変化だけではなく、需要側では、直流で作動する装置が世の中に増えてきたということです。
 我々が日常使っている電子機器で、携帯電話、パーソナル・コンピュータ、iPodのようなデジタル音楽プレーターなどは充電をするときに交流から直流に変換するACアダプターを介在させますが、これは内部で直流電源を使用しているからですが、そのような機器が急増しています。

 さらに供給側では、家庭で太陽電池や燃料電池による自家発電が次第に増えていますが、これらで発電される電力は直流です。
 そうすると直接、直流で使った方が簡単になるということになります。
 世界では、1954年にスウェーデン本土とゴットランド島の間の直流送電が最初ですが、最近では、アメリカや中国で大規模な直流送電も始まっています。
 およそ130年近く経って、エジソンの夢が再現しつつあるということではないかと思います。





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