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論文

 それほど知られていないようですが、2年前の平成20年6月6日の国会決議によって、今年は「国民読書年」に制定されています。
 背景は言うまでもなく「活字離れ」です。
 1月25日に出版科学研究所が昨年の書籍と雑誌の販売金額を発表しましたが、ついに2兆円を切って、1兆9356億円となり、最盛期の2兆6500億円と比較すれば、15年間で30%の減少になりました。
 内訳を見ると、書籍は14年前の1996年が頂点で1兆931億円でしたが、99年に1兆円を割り、以後、ゆるやかに下がり、昨年は村上春樹さんの『1Q84』というミリオンセラーが登場したものの、全体では8492億円で、最盛期から22%減少という状態です。
 雑誌も13年前の1997年が1兆5644億円で頂点でしたが、12年連続で低下し、昨年は1兆864億円と最盛期から31%の落ち込みです。
 そして昨年、新たに創刊された雑誌が135誌に対して、休刊になった雑誌が189誌という逆転状態になりました。
 この休刊になった雑誌の中には『広告批評』『諸君!』『就職ジャーナル』など歴史のある雑誌もありますし、今年になっても『月刊ビジネスアスキー』『季刊銀花』の休刊など後を絶たない状況です。

 紙と活字という組合せでは新聞も同様の苦境に陥っています。
 新聞社の総売上は90年代中頃の2兆5000億円から2兆2000億円程度に減り、発行部数も最大の2001年の5370万部から現在では200万部も減っています。
 これは日本だけの現象ではなく、アメリカでは新聞の朝刊と夕刊を合わせた発行部数が2003年の5500万部から2007年には5070万部と、5年間で500万部近い減少で、新聞社の倒産や新聞の廃刊や休刊が次々と発生しています。

 因果関係は明らかではありませんが、活字を主体とする媒体の広告収入が減っていることは一つの原因で、象徴的な現象は2006年に雑誌の広告収入がインターネットに抜かれ、昨年は新聞の広告収入もインターネットに抜かれるという事態が発生しました。
 アメリカでもインターネットで閲覧するオンライン新聞へのアクセスが急速に増えており、2004年と2008年の5年間で1・7倍に増え、一人あたり1ヶ月のアクセス回数も6.8回から8・2回に増えています。
 これで分かるように、インターネットが新聞や書籍・雑誌という活字媒体離れの原因であることは明らかで、そこで「国民読書年」の登場となったわけです。
 しかし、実際に行われていることは、ACジャパン(旧:AC公共広告機構)が、新聞に「コトバダイブしよう」という意味が伝わりにくい広告を掲載したり、テレビジョン番組を制作したりしていることが中心で、いまひとつ影響が小さい活動です。

 どうするかを考える前に、実態を調べてみます。
 まず、活字離れが実際に起こっているかですが、「NHK国民生活時間調査」によって、新聞を読んでいる男性の比率を1975年と2005年で比較すると、20代で61%から21%、30代で80%から29%、女性も20代で48%から16%、30代で56%から29%と大きく減っています。
 時間についても1995年と2005年について、平日の1日に新聞に使う時間は24分から21分、雑誌と本に使う時間は16分から13分と着実に減っています。

 もう一つ気になる統計は2004年にグローバル・メディア・ハビッツという組織が世界の30カ国を対象に1週間の読書時間を調べた数字です。
 1位インド(10・7時間)、2位タイ(9・4時間)、3位中国(8時間)、4位フィリピン(7・6時間)、5位エジプト(7・5時間)と続き、日本は29位で4・1時間、最下位が韓国で3・1時間となっています。
 理由は明確ではありませんが、インターネット普及率を調べてみると、インド(129位/3・2%)、タイ(77位/11%)、中国(93位/7・2%)、フィリピン(106位/5・3%)、エジプト(104位/5・6%)に対し、韓国(9位/65・7%)、日本(16位/58・7%)ですから、インターネットの普及が読書時間と関係があるかも知れません。

 人類が発展した原因の一つは言葉と文字を発明し、空間と時間を超えて情報を伝達する能力を確保したことだと思います。
 その視点からは、これまでの書籍、雑誌、新聞よりもインターネットのほうが優れた能力を持つ媒体ですから、移行していくことは回避できないと思います。
 そうであれば、インターネットと敵対するのではなく、取り込むという戦略が登場し、この3月中旬から、TBSラジオをはじめ全国の13のラジオ局が当面は首都圏と大阪府に限定ですが、「ポッドキャスト」で同時放送を開始しますし、TBSテレビとテレビ朝日も昨年9月から、これまでは敵対していた「ユーチューブ」と組んで、ニュース番組を発信しています。
 そして日本経済新聞も3月23日から本格的な有料の電子新聞を開始しますし、ニューヨークタイムズも来年から有料の電子新聞を創刊する予定です。
 書籍の世界ではアマゾンの「キンドル」を始めとして、電子書籍が急速に発展しており、いよいよ媒体の交替が始まり出しました。
 勝負は媒体(メディア)ではなく、内容(コンテンツ)であることは自明ですから、いたずらに「国民読書年」という制度で活字離れを逆行させる対策ではなく、新しい革袋に新しい酒を入れることに努力を集中させて欲しいと思います。





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