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論文

 今日は携帯電話の元祖である自動車電話が1979年に東京で登場して、丁度30年目という記念すべき日で「自動車電話の日」に制定されています。
 そこで携帯電話の「来し方」を振り返り、「行く末」を考えてみたいと思います。
 電話はアメリカのアレキサンダー・グラハム・ベルが1876年に発明しました。
 明治維新から間もない日本は文明開花に熱心でしたから、この電話の導入に熱心で、実は電話を通じて話された世界で2番目の言葉は日本語という記録があります。
 最初の言葉はもちろん英語で、ベルが協力者のトーマス・ワトソンに「ワトソン君、ここに来てくれ、用事がある(Mr.Watson,Come here,I want you)」と伝えたものですが、その実験の直後に、日本から留学していた、後に東京音楽学校の初代校長になる伊沢修二と、後に司法大臣になる金子堅太郎がベルを訪問し、電話で話したということです。

 その影響もあったかと思いますが、翌年の1876年にはアメリカから最初の輸出国として日本に2台の電話機が送られ、1890年に東京と横浜で電話通信サービスが開始されますが、そこから90年間は有線の固定電話の時代でした。
 何とか移動しながら、どこでも使うことのできる携帯電話の発想は、電話の発明から間もない時期から始まっていましたが、大型の装置になり、通信速度も十分ではないなどの理由で、アメリカやカナダで、戦後間もなく手動交換方式で、ひとつの基地局で6回線しか使用できないという程度のサービスが始まりました。
 そして1960年代になり、現在のような自動交換方式の自動車電話が登場し、日本では大きく遅れて、一般の人々が利用できる自動車電話がサービスを開始したのが30年前という訳です。

 なぜ携帯電話ではなく自動車電話かというと、装置が大型のため人手で持ち運ぶのは簡単ではなかったからですが、ようやく1985年9月にショルダーホンという名前の通り、3kgもある装置を肩から担いで使うという携帯電話が登場し、2年後に片手で何とか持つことの出来る装置が登場します。
 端末装置が大きく重く、しかも一種類しかない装置を高い料金でNTTから借りて使うという仕組みですから、人気は出ませんでした。
 新しい物が好きだったので、僕も85年頃にショルダーホンを使っていたのですが、あるときタクシーに乗って電話を架けていたところ、運転手さんが何をしているのだと質問するので、得意そうに電話を架けていると説明したら、「タクシーに乗ったときくらいのんびりすれば良いのに、仕事をしなきゃいけないとは、あんたも 哀想だね」と同情されるという時代でした。

 その後、端末装置も急速に小型になり、1988年には日本移動通信が新規参入して競争状態になり、1992年にNTTドコモが携帯電話専用の会社として独立し、1994年に端末装置が買い取り方式になり、料金が大幅に値下げされという変革が相次ぎ、1995年頃から、毎年1000万台ずつ増えるという爆発時代に入って、現在まで到達したという訳です。
 それでも日本の普及比率は世界では大きく遅れていますが、新しいサービスは色々と登場しています。
 携帯電話は初期にはアナログ通信でしたが、90年代からデジタル通信に移行した結果、i-modeやez-webのようにインターネットに接続してメールを送受信し、ウェブサイトを見ることができるサービスが世界最初に出現しました。
 さらに地上デジタルテレビジョン放送への転換とともに、携帯電話でテレビジョンやラジオの番組を受信できるワンセグ放送が2006年から始まりました。
 これは日本独自の技術で、余談ですが、4種類ある地上デジタルテレビジョン放送方式のうち、日本の方式は南米のブラジル、ペルー、チリ、アルゼンチン、ベネズエラで採用されていますが、このワンセグ放送の効果があったと言われています。

 普及率では先進諸国は飽和状態になりつつある携帯電話がどのような方向に向かうかについて、最後に考えてみたいと思います。
 第一は、携帯電話は様々な情報通信サービスをブラックホールのように吸い込んでいく可能性です。
 デジタル通信方式になって、音声だけではなく、文字や写真、さらに第三世代になって動画も送受信できるようになり、株の売買や馬券の購入も可能になりました。
 ワンセグ放送の開始とともに、テレビジョン放送やラジオ放送の受信も可能になりましたし、音楽をインターネットでダウンロードするサービスが普及して、ウォークマンやi-Phoneなどの音楽を聴く機能も吸収されました。
 さらに電子カードの普及に合わせて、携帯電話が電車や飛行機の切符の代わりになり、コンビニエンスストアなどでお金の代わりもするようになっています。
 1994年に日本で発明されたQRコードが普及し、商品から情報を読み取ることも可能になり、RFIDとかICタグが商品に貼付けられるようになって、モノから情報を入手することも可能です。

 簡単に言うと、男性の背広に入っているハンカチやチリガミを除いたモノ、女性のハンドバッグに入っている化粧品などを除いたモノが次々と携帯電話に吸収されてきたのが最近の歴史で、これからも自動車や自宅のカギなど、ポケットやハンドバッグに残っているモノが吸収されていくと思います。

 第二は、家庭の端末装置の主導権争いで王座に就く可能性です。これまでパーソナル・コンピュータとテレビジョン受像機が王座を争ってきましたが、携帯端末が流星のように登場してきました。
 2008年3月のメディア開発総研の調査によると、インターネットに接続している回線の73%が携帯電話回線になっていますし、2008年12月の総務省の調査でも、携帯端末からインターネットを利用している人は全体の83%、携帯端末でしか利用しない人も9%になっています。
 若い世代では自宅でテレビジョン番組を見るときもワンセグ放送で見ている人が増えているようで、今後、携帯電話の通信回線が一層高速になると、携帯端末が王座に座る時代も十分に考えられます。





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