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論文

 環境問題に取組む手段として3R(リサイクル/リユース/リデュース)が進められていますが、それらの中で興味深い例をご紹介したいと思います。
 そのような取組みが必要になっている最大の背景は世界全体でゴミが増えているということです。
 OECD加盟国について産業廃棄物を除いた一般廃棄物の総量を調べると、1980年には3億2000万トン程度でしたが、1997年には5億4000万トンと40%増加し、2020年には7億7000万トンになると予測されています。40年間で2・4倍に増えています。
 この間に人口も増えているから当然だろうと思われるかも知れませんが、一年間一人あたりでは、1980年に390kg、1997年に500kg、2020年には640kgで、40年間で1・6倍も増えています。

 そこで、この廃棄物をリサイクルして、役に立てるとともに、最終処分量を減らすということが期待されます。
 日本のリサイクル率は、1996年に10・3%でしたが、2000年には14・3%、2005年には19%と増えてきました。
 ところが、世界の中では遅れており、2002年前後の数字ですが、スイスでは46%、オランダやノルウェーは45%、スウェーデンでは40%という高い数字ですし、何となく贅沢な生活をしてゴミを出していると思われるアメリカでも、リサイクル率は30%です。

 日本はまだまだ努力の余地があるというわけですが、その廃棄物を新しい視点で活用して宝物に帰ることに成功した例をご紹介したいと思います。
 農業分野の産業廃棄物は全体の20%と大量ですが、その廃棄の理由の一つがマーケットで扱ってくれないということです。
 福島県須賀川市はキュウリの生産量が日本一で、これまで「岩瀬キュウリ」、最近では「パワーグリーン」という名前で出荷されていますが、スーパーマーケットなどが大量に購入してくれるのは真直ぐで一定の長さの製品だけです。
 これまでは曲がっていたり、規定外の大きさのキュウリは廃棄される場合が多かったのですが、その廃棄物を有効利用しようと、須賀川市農業開発公社が化粧品会社のコスメサイエンスに委託して、キュウリから抽出したキュウリエキスを配合した化粧水「胡瓜美水(きゅうりすい)」を2006年から1890円で発売したところ、年間1万本以上が売れる人気となり、さらに「胡瓜美潤(きゅうりクリーム)」という化粧クリームを2007年から追加し、これも人気商品になっています。
 それほどの販売量ではありませんが、これまで廃棄していた農産品が立派な商品に変化したと考えれば二重の効果です。

 水産業でも面白い成功例があります。
 紀伊半島の南端にある和歌山県すさみ町はイセエビ、カツオ、スルメイカの日本有数の産地ですが、以前から様々なアイデアで町を宣伝しています。
 ダイビングの適地として多くのダイバーが来るので、海中に郵便ポストを設置したところ、2002年には「世界一深いところにある郵便ポスト」としてギネスブックに認定されています。
 ここの和歌山南漁協すさみ支所では2000年から特産のスルメを真空パックにして年賀や暑中見舞いのハガキ「するめーる」として1枚230円で販売したところ、次第に人気商品となってきました。
 昨年は3000枚を用意したところ品切れとなり、急遽、増産して2万枚を販売する結果になり、今年は6000枚を用意しているとのことです。
 2万枚売れても460万円のビジネスですが、イカのままで売るよりはハガキにリフォームしたほうが付加価値は増大しますし、町の宣伝効果も含めれば相当の価値になっていると思います。

 林業でも参考になる例があります。
 宮崎県は杉の生産量が日本一ですが、その中心の日向市の林業も木材価格の低下、林業就業者の減少で苦労していますが、もう一つの課題が樹皮、杉の皮です。
 かつては屋根を葺く材料に使われていましたが、最近では利用されず廃棄物として焼却処分されていました。
 そこで地元の内山建設が、樹皮を粉砕して土と混ぜて半年ほど熟成して「ひむかバーク」という名前の土壌改良材としたところ、学校の運動場や公園の芝生に利用が広がっています。
 売上金額はそれほどではありませんが、林業関係者の処理費用が10億円以上減ると推定され、これもゴミが宝物になった例です。

 林業の分野での問題の一つに竹林の増加があります。
 1980年頃には、日本全体で14万ヘクタールであった竹林が2000年には15万4000ヘクタールと10%増えていますが、タケノコの産地である京都府南部では過去30年程で40%ほど増えています。
 主要な原因は中国から安価な竹材やタケノコが輸入され、竹材の生産量が過去30年では8分の1に減少し、竹林の手入れが行われなくなったことです。
 しかし、拡大する竹林を伐採して焼却するなどの手間が必要になり、二重の負担になっています。
 そこで香川県の東亜機工という会社が竹を綿状にした「竹綿」を製造する機械を開発しました。
 竹がフワフワの綿菓子のような状態になるのですが、竹には消臭や抗菌の効果があるために、紙おむつやマスクの材料として期待されています。
 現状ではキログラムあたり300円から500円の値段になりますが、100円程度になれば既存の材料に対抗できることになるそうです。

 今日、ご紹介したのは、いずれも地域の邪魔者であった廃棄物が一転して有望な資源に変わった例です。地方経済は不況だと言われますが、このような視点で足元を探せば、有望な産業の材料は十分に存在すると思います。





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