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論文

 10月20日に長妻厚生労働大臣が、2006年の時点での日本の相対的貧困率は15・7%であり、1998年以後、3年毎に計算してきた中で最悪の状態だという発表をして、国民が衝撃を受けています。
 振り返ってみると、内閣府が行っている「国民生活に関する世論調査」で、自分の生活を「中の中」と考えている人の割合は1950年代から着実に上昇し、1970年代から80年代には「下」と考えている人は1割以下で、「一億総中流社会」という言葉が流行しました。
 ところが、バブル経済崩壊後は「格差社会」とか「勝ち組・負け組」という言葉が象徴するような状態になってしまったようで、2000年に電通総研と日本リサーチセンターが行った「世界60カ国価値観データ」によると、日本は「中の中」と意識している国民の比率が世界の7番目で、翳りが見え始めていました。
 そして2000年前後のOECD加盟30カ国の相対的貧困率を比較してみると、日本は14・9%で、メキシコの18・4%、トルコの17・5%、アメリカの17・1%に次いで4番目でした。

 しかし、相対的貧困率というのは統計のカラクリがあり、誤解されやすい数値です。
 そこで最初に、相対的貧困率の計算方法をご紹介したいと思います。
 定義としては、ある集団の構成員、例えば日本の国民の所得を多い方から少ない方に並べ、その丁度真ん中になる人の所得の半分に満たない所得の人が全体の何%になるかを計算した数字です。
 具体的な例でご説明すると分かりやすいと思いますが、仮に国民が11人の国家を考え、所得の順番に並べると6番目の人が中央になり、その人の所得が100だとします。
 そこで7番目以降の人で、その半分の50に満たない人が2人、すなわち10番目と11番目の人が50未満であれば、相対的貧困率は2/11で18%になるという計算です。

 どこにカラクリがあるかを以下のような例で計算してみると分かります。
 格差国と平等国という二つの国があり、それぞれ11人の国民がいるとします。
 格差国も平等国も最高所得の人の所得は1000、最低は442で、しかも11人の平均所得も713で同じです。
 ところが真ん中の順位の人の所得は格差国が910、平等国は880なので、格差国では所得が455以下の人が貧困、平等国では440の人が貧困になります。
 そこで7番目以下の5人の所得を調べてみると、格差国は5人すべてが、わずかに455以下、平等国は5人すべてがわずかに440以上でした。
 そうすると格差国は5/11で貧困率は45・5%、平等国は0/11で0%という結果になります。
 言葉で説明すると分かりにくいのですが、グラフにしてみると、一見、ほとんど差のない国が、貧困率では大差になっているのです。

 そこで別の指標として用いられるのが「ジニ係数」です。
 これはイタリアの統計学者コラッド・ジニが1936年に考案したので、このように呼ばれる数値です。
 計算方法は省略しますが、ある国の国民が完全に均等な所得であれば数字が「0」になり、逆に一人がすべての所得を独占して、他の人はゼロという場合に数字が「1」となるような結果になる計算をします。
 日本についての数字を見ると、当初の所得によって計算すると、1993年は0・37、1999年が0・41、2005年は0・44と数字が増大しており、格差が開いていることが分かります。
 当然、それを是正するために、所得の多い人の税率は高くし、所得の少ない人には社会保障などを給付して是正しますが、是正した再分配所得について計算すると、同じ時期について、0・31、0・32、0・32と是正されていることが分かります。
 一般に、0・3以下であれば配分は妥当であるとされていますので、日本はギリギリの平等性を保っている状態と言えます。

 外国と比較してみると、日本の現状が分かると思いますが、2000年前後しか統計が揃わないので、2000年で比較してみると、もっとも数字大きい、すなわち格差があるのがアメリカで0・37、次いでイギリスの0・34、スペインが0・34で、日本より低いのはオーストリアが0・26、フィンランドが0・23、デンマークが0・22などです。
 しかし、数字が小さいということは税率が高いということでもあり、例えば消費税を調べてみると、デンマークは25%、フィンランドは22%、オーストリアは20%ですから、それなりの負担によって平等性が維持されているということにもなります。

 このように社会の格差の拡大・縮小の実感を簡単な統計で示すのは、それほど簡単なことではありませんが、実感させる数字もあります。
 金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」は貯蓄のない世帯の比率を毎年調べていますが、1980年代は5%前後でした。ところが90年代になると10%前後になり、2006年には23%になっています。
 4世帯に1世帯は貯蓄なしの生活をしているということです。
 その反対に生活保護世帯の数を調べてみると、90年代前半は約60万世帯でしたが、昨年は116万世帯とほぼ倍増しています。

 実は貧困率の数字は私も含め多くの識者は知っていたのですが、自由民主党政権の時代は公表を避け、少なくとも統計では日本が国際比較をすれば貧困になってきたことを国民に知らせてきませんでした。
 しかし、『論語』の「季氏(きし)編」に、国を治める者の心得として「寡なきを患えずして、均しからざると患う」という言葉があります。
 ぜひ民主党政権は、この言葉を思い政策を実行して欲しいと思います。





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